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66階層―3

「……あっ!? 赤……23…………さ、三千六百万!? まさか、そんなわけが……」



「さあ、帰るぞ」フレアが、そう宣言すると、田口が縋り付いて懇願してくる。


「頼む! あと500万だけ貸してくれ! 今日中に倍にして返すと約束する!! なあ、いいだろ? 俺を信じてくれ」


 フレアは、それを無視すると、換金を終えてカジノを後にする。――カジノの外に出ても、縋り付いて離れない田口に、ルーラが声を掛けた。


「……おじさん、ギャンブルの才能とかいう以前の問題だよ。――同じ事をしていても、オカルトだと分かって実践しているのと、攻略法だと考えて実践するのじゃ、天と地ほどの差があるよ……」


「仮にだ、ありえない話だが、万が一、俺にギャンブルの才能がないとしても、もうこれしか残っていないんだよ! 暫く、利息すら払っていないんだ……。奴らに見つかったら、どうなる事か……」


 ルーラは、フレアに向かって手を差し出して、現金を入れた袋を受け取ると田口に再び話しかける。


「……もう2度とギャンブルをしないって誓うなら、3000万円払ってあげてもいいよ。――それでも、ボク達は手元に800万円残るし」


 ルーラの言葉を聞いた田口の目と口が、限界まで開かれる。――やがて、恐る恐る口を開き、フレア達の顔を見渡しながら問いかけてきた。


「なあ? それ……からかってるんじゃ……ないよな? 本当に……本当に、払ってくれるのか?」


「――ボク達は、わけありで現金を大量に持っていても仕方ないんだよ。また貴金属に戻すのも、目立ちかねないしね。――さっきの約束ができるなら、今渡してあげるよ」


「や……約束するに決まっているっ!!」叫びながら、ルーラに抱き着こうとする田口の頭を、フレアが掴んで動きを止める。そのまま空いた手で、ルーラから現金の入った袋を受け取ると、それを田口の手に握らせた。


「……さっさと、返してこい。――助けてやるのは、これっきりだからな」


「ありがとうな、恩に着る!! それじゃあ、早速行ってくるな。またどこかで会おう!」


 田口が走り去った方向を見つめたまま、火蘭が呟く。


「……疲れる男じゃったな。――気を取り直して、お菓子でも、買いに行くか?」


「そうだな……」「そうだね……」




 ――それから少しの時間が流れ、フレア達は近くで見つけた量販店に入り、各自買い物カートを押しながら、手あたりしだいに食料を放り込んでいた。


 鮮魚コーナーで、火蘭がサンマをカゴに放り込もうとしている事に、気付いたフレアが問いかける。


「火蘭……、生魚を買ってどうしようっていうんだ? そんなものを買ってもすぐに腐るぞ」


 火蘭は、サンマのパックを、色々な方向に傾けながら、答える。


「いや、キラキラしていたから、ついな……」


「お前は、光っていれば何でも良いのか!? サンマは禁止だ!」


 渋々、サンマを売り場に戻す火蘭の様子を見たフレアは、溜息をつきながら、後ろを振り返る。


「ボクは、3箱ってお願いしたはずだよ? ええ!? 1箱しか在庫がないのかい?」


「お客様、コンソメ以外の味なら、在庫があるのですが……」


「……お姉さん、ボクはコンソメ以外は、ポテチと認めていないんだよ。――今すぐメーカーから取り寄せるとか……」


 店員を困らせているルーラを見ながら、フレアが呟く。


「二人とも自由過ぎるだろ……」




 ――買い物を終えた一行は、人気のない路地に移動して、買った物を次々と魔法のポケットに放り込んでいく。


 缶詰、お菓子、飲料用ペットボトル、乾物、テント、寝袋、衣料品、サンマ。


「火蘭君……、中で腐ったら嫌だから、サンマは入れたくないかも……」


 ルーラが苦情を言うと、火蘭は、一か所を指さして話し始める。


「サンマは、今日食べればよかろう。それより、また面倒ごとに出くわしたようじゃぞ……」


 火蘭の視線の先を確認すると、10歳にもならないような小さな少女を、脇に抱えた男が、白いワゴン車に乗り込むところだった。


 男は、マスクと色付きの眼鏡で素顔を隠している。――それから少し遅れて、似たような恰好をした、二人組の男が車に向かって走る。その男の手には、拳銃が握られており、車に乗り込む直前に、元来た方へ向けて引き金を引く。


 最初に聞こえたのは『パンッ!』と、火薬が弾ける音、その数舜後に「ぐぁ!」と、男性の声が響く。




「……火蘭は、車を追ってくれ。――行き先を突き止めたら、昨夜の公園で!」


「ふむ、任せておけ。一度追い付けば、宿って止まるのを待つだけじゃ」


 火蘭は、辺りを見渡して、人の目が無い事を確認すると、すぐに鳥の姿になって車を追う。


 フレアとルーラは、男の声が聞こえた方向へ走った。――T字になっている路地を曲がり、前方に目を向けると、足から血を流すスーツ姿の男が、這いつくばりながらも、車が逃げた方向へ進もうと足掻いている。


「ルーラ、治療を」と、フレアが言うと「……命にかかわるような、怪我じゃないから」と、それを拒否する。


 あと、この世界に3日間滞在する事を考えると、極力騒ぎになるような事は避けたい。そうルーラが考えていると察したフレアは、頷く事で答えた。


「おい! あんた、一体何があった?」血を流す男に駆け寄ったフレアは、そう問いかける。


「お、お嬢様が攫われた。――頼む、あの車を追ってくれ。礼は、何だってする!」


 普通に考えれば、徒歩で移動する二人に頼むような事ではないのだが、それすら判断できない程、男が動揺しているのが見て取れた。


「うん、出来る限りの事はするね。君は、早く怪我の手当てをした方がいいよ」


 それだけ告げると、二人は火蘭と合流すべく公園へ走った。




 人気のない公園のブランコに座り、二人が空を眺めていると、遥か彼方からこちらへ向かって飛ぶ、緑色の鳥の姿が見えた。


 ルーラは、ブランコから飛び降りると、両手を大きく振って『ここに居るよ』と、火蘭に合図を送る。


 公園に着地するなり、すぐに人型に戻った火蘭が、二人に告げる。


「車の向かった先がわかったぞ。吾等が山菜を採っていた、山の中にある廃墟じゃ。――いつまでも、そこに居るとは限らん。急いだほうが良いと思うぞ」


「ルーラ」フレアが名前を呼ぶと「緊急事態だし、仕方ないよね!」と、言いながらルーラがグリフォンを取り出す。


 いつも通り、火蘭がグリフォンに宿り、フレアは運転席、ルーラが後部座席に乗り込むと、公園の敷地いっぱいまで使って加速してから、空へ向かい飛び立った。



☆☆



 火蘭が、突き止めた廃墟の一室には、顔を隠した二人の男と、手足を縛られた少女の3人が居た。その部屋に家具などは一切存在せず、弁当の空や、空き缶、煙草の吸殻などが散乱していた。


 男たちは誘拐を行う際、三人で行動していたが、現在一人は、廃墟の外で見張りをしている。


 男の一人が、拳銃を少女に向けながら、もう一人の男に話しかける。


「樋口さん、攫ってきたまではいいっすが、この後どうすんすか?」


「首だけ箱詰めして送り返せと、上から指示を受けている。首だけになるまでの、ドキュメンタリー付きでな」


「うっわ! ひでぇ事、考えますね。――まあ、やれって言われたら、やるしかないんすけどね」


 この男たちは、今日フレアが連れて行かれた、違法カジノを経営する団体の構成員だった。別の団体が、あのカジノの周辺で、違法カジノの経営を始めた事に対する報復として、経営者の娘を攫ってきたのだ。


「お前の感想なんざ、どうでも良いんだ。さっさとカメラを準備しろ」


「……ぐっ、う……う……」口に布を噛まされた少女が、恐怖に引きつった顔で、微かに呻き声をあげるが、男たちは、一瞥しただけで、興味なさげに視線を逸らす。


「じゃあオレ、ちょっと車まで機材を取りに行ってきますわ」


 そう言って、男は部屋を出ようと歩き出す。――ドアを出た直後「ぐぇっ!!」と、叫びを上げて、宙を舞いながら室内に戻ってくる。


 樋口は、舌打ちをした後、拳銃をドアの入り口に向けて、腕しか見えない侵入者が、その姿を晒すのを待つ。


 扉を潜って、樋口の前に現れたのは、見た感じ10代後半の少年と、同じくらいの年齢に見える少女だった。




「ガキが一体何の用だ?」樋口は、すぐに発砲するという選択をしなかった。目の前の二人は、敵の団体が送って来た刺客には見えない。――殺してしまう前に、情報を聞き出す方が良い。そう判断したためだ。


 最初に口を開いたのは、少女の方だった。手に持ったビニール傘を広げて、盾のように構えながら話し始める。


「そっちの子を、助けて来てって、道端で頼まれたんだ! だから、返してくれないかな?」


 続けて少年が口を開く。銃を向けているというのに、全く動揺しない様子に、樋口は、若干の気味の悪さと苛立ちを感じていた。


「そういう事だ。別に、お前らを倒すのが目的じゃ無いからな。返してくれるなら、見逃してやる」


「……子供の遊びじゃあ、ねえんだよ!!」


 怯える処か、あまりにも不遜な態度をとる少年に、樋口の怒りが限界を超える。叫んだ時には、トリガーに添えられた人差し指は、強く握られていた。


 『バンッ!』と、室内に発砲音が響き渡り、高速で弾丸が発射される。――弾丸が向かう先は、透明のビニール傘を通して見える少女の左胸。


 怒気を帯びていても、樋口は冷静さを失っていなかった。樋口は考えていた。――少年を先に殺すよりは、連れを撃って、慌てふためく姿を見た方が、気が晴れると。


 真っ直ぐに、少女に向かって進む弾丸は、ビニール傘に触れた時『カンッ!』と、音を立てて弾かれてしまう。


「なっ……なんだよ、それは!?」


 樋口が、そう言ったのと同時に、少年が口を開く。


「ルーラ、足に当たると危ないから。しゃがんでおけ」


『バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! 』


 言われるがままに、しゃがみ込んだ少女に向けて、連続でトリガーを引く。――しかし、全ての弾丸は、ビニール傘に触れた途端に、硬い音を鳴らして全て弾かれる。


「それならぁぁぁ!!」樋口は、叫びながら銃口を少年に向ける。それと同時に、少年の口が動いたが、銃声がそれをかき消して、何を言ったのか樋口には聞こえない。


 再び銃口が連続で火を噴く『バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! カチッ、カチッ、カチッ……』


 すべての弾丸が、躱す素振りすら見せぬ少年に着弾する……しかし、着弾したのは、全てが、少年の掌。


 少年は、握った拳を樋口に見せつけるように、前方に突き出すと、そっと指を開く。――握りつぶされて、原型を留めていない弾丸が「カラン、カラン、カラン」と、音を立てて硬い地面に降り注いだ。


「この化物どもがぁぁ!!」樋口は、所持していたナイフをホルスターから引き抜くと、攫ってきた少女に向かって走る。


 ……コイツを人質にして、なんとか……んなっ!?


 少年は、ドアの前に立っていた。間違いなくドアの前だ。――その位置から誘拐した少女の場所まで5メートルはある。対して、樋口と少女の間隔は、2メートルもなかった。


 しかし、走り出した瞬間に、少年が目の前に居た。――それに気付いた時、顎に衝撃が走り意識が薄れていく。


 薄れていく意識の中で、樋口は少年達の言葉を聞いていた。


「そういえば、さっき言えなかったが、サンマは買うなと言ったはずなんだが……」


「うるさいのう。サンマは吾が責任を持って食べるから、それ以上言うな!」


「サンマを焼くのは良いけど、変な所で火を熾したら、警察を呼ばれそうだよね」


 ……サンマって……なんだよ…………。


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