表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/46

66階層―2

 次の階層に続くゲートが存在する合宿所から、クリエが居なくなるまで待つと決めたフレア達は、近くの公園で一夜を過ごした。


 ――そして翌日「フレア君! ちゃんと根元を持って、ゆっくり引き抜かないと、途中から千切れちゃうよ! あっ火蘭君! それ雑草だから!!」


 特にやる事がない3人は、街の外れにある山に登り、ルーラ指導の元で山菜採りをしていた。――無論、必要に迫られたわけではなく、ただの暇潰しである。


「ルーよ。こんな山菜ばかり大量に集めても、食べきれんわ。――ていうか、食べたくない…………のじゃ」


 見るからに嫌気がさしている火蘭が、腰に手を当てて背筋を伸ばし始める。続いて、腰を捻るストレッチを始めたが、途中でピタっと止まると、一点を指さしながらフレアとルーラに問いかける。


「あの者は、一体何をしておると思う?」


 ルーラは機敏に、フレアは億劫そうに、火蘭が指さした方を見る。――少し離れた所に、くたびれたスーツを着た40代くらいの男性が1人で立っていた。


 その場所は、切り立った崖の手前に作られた柵の脇。――何を思ったか、男性は靴を脱ぎ始め、向きを揃えた後に、白い封筒を取り出して、脱いだ靴に入れる。


「……フレア君…………あれは、ダメなやつだよ! 急いで!」


 少し遅れて、フレアも男性を視認すると、口元を引きつらせながらルーラに答える。


「……こんな事に、異能を使う事になるとは思ってもみなかったぞ。――デュアルブースト」


 フレアが走り出すと同時に、男性は柵を乗り越えて、恐る恐る下を覗き込んだ後、勢いを付けて飛び降りた。


 ――男性の足が地面から離れ、落下を始める。――駆け付けたフレアは、柵に体を押し付けながら、腕を伸ばすと、男性の腕を掴む。




 フレアは、引き上げた男性を、柵の向こう側に降ろした後、溜息交じりに話しかけた。


「はぁ……、まったく、余計な手間を掛けさせるな……」


 暫くの間、粗い息を吐きながら、言葉を発さなかった男性が、フレアの方をむくと「なんて事をしてくれたんだ!!」と、苛立たし気に声を上げた。


「いや、なんて事って……助けた? つもりだったんだが……」


「飛び降りるのに、どれだけ覚悟が、必要だったと思っているんだ! かれこれ4時間くらい悩んで、やっと飛び降りることが、できたってのに!」


 男の言葉に、うんざりしてきたフレアが、投げやりに告げる。


「そうか、それは悪い事をしたな。――もう止めないから、好きに飛び降りればいいさ」


 そうしている間に、ルーラと火蘭が駆け寄って来て、フレアの元に辿り着く。――ルーラが、フレアに何か伝えようと口を開くが、その口が声を発する前に、男が声を上げる。


「出来るか、そんな事!!」


「「「ええぇぇ!!」」」




 放っておく事もできず、どうしたものかと、3人が顔を見合わせていると、突然、男が語り始める。


「オレの名は田口、地元じゃ知らない奴は居ない、凄腕のギャンブラーなんだ」


 火蘭が、小声で「なんか、語りだしおったぞ?」と囁く。――ルーラは、嫌そうな顔をしつつも、口の前で人差し指を立てて、とりあえず聞いておこうと意志を伝えた。――そんな、ルーラ達の様子に気付く事も無く、男は語り続ける。


「だがな、ギャンブルってのは、どんなに技術があっても、運って奴が付きまとうんだ。――たとえ、勝率を90%に引き上げたって、残りの10%を連続で引けば、破滅してしまう。――分かるか?」


 とりあえず「「「へー」」」と、言いながら、3人が頷いておくと、男は満足そうに続きを語り始める。


「まさに俺は、それだった。あっと言う間に財産を失い、借金をするはめになった。――死神に憑りつかれちまった俺は、どんなに完璧な作戦で挑んでも負け続け、気付けば借金は3000万だ。――――――なあ、お前等、金を貸してくれないか?」


 この時、フレアは心の底から後悔した。なぜ、こんな男を助けてしまったのかと。――しかし、助けてしまったものは仕方がないし、問いかけられたらには答えないわけにもいかない。


「おまえは、初対面かつ、自分の半分も生きていないような人間に、金を無心するのか? ――無理だから他を当たってくれ」


「待て! 最後まで話を聞くんだ! 苦境に立たされた俺は、研究を重ね約97%の確率で勝利できる必勝法を編み出した。――それで、勝負しようとしているんだが、誰も俺に投資しようとしない」


 火蘭が、肩を竦めながら「借金まみれの男に、そんな話をされて、頷くわけがなかろう」と、思ったままを口に出す。


「心配するな、絶対に損はさせない! そうだ、俺とくれば一儲けさせてやる。なあ、5万でも10万でも良いんだ」


 この時、心底嫌そうだったルーラの表情が変化する。そして、笑みを浮かべたルーラが、田口に交換条件を持ち出した。


「わかったよ! おじさんにお金を貸しても良いよ。――でも、その前に、少し協力して欲しい事があるんだ!」




 ――少し時間が流れて。


 山菜採りを中断して、田口を引き連れて街まで戻ったフレア達は『貴金属買取』と書かれた看板の前で、田口が戻って来るのを待っていた。


 自動ドアの前に立ち、無駄にドアを開けて喜んでいる火蘭を横目で見ながら、フレアは、ルーラに疑問を投げかける。


「……代理で換金させるってのは、悪くないと思うが、貸した金は絶対戻ってこない気がするぞ」


「その時は、手数料だと思う事にするよ。――それに、おじさんに渡したのは、使い難くて困ってたやつだからね。丁度良い機会さ!」


 フレアは、ついさっき見たばかりの宝石袋を思い出す。その中身は、最初に見た時の3分の2程度まで、減っていた。


「そうは、言っても、無限にあるわけじゃないんだから、少し節約した方が良いんじゃないか?」


「あれ? フレア君に見せた事、なかったっけ? 同じ大きさの袋がもう二つあるんだよ!」


 そんな話をしていると、閉じかけていた自動ドアが開き、若干興奮した様子の田口が戻ってくる。


「換金してきたぞ! 換金額の4割を貸してくれるって話だったよな? ――しっかし、お前等みたいな若者が、何で、あんな物を持っているんだ?」そう言いながら、田口は札束を五つ取り出して、三つをルーラに手渡す。


 ルーラが換金を頼んだのは、宝石袋の中でも一際主張の激しかった、1kgの金塊だった。換金するにしても、代金代わりに差し出すにしても、あまりに大きすぎて使いようがなかったのだ。


 なお、この日のK24の相場は1gが5000円丁度で、1kgだと500万円になる。


 田口は、札束を二つ、バッグに仕舞いこむと、当たり前のように「さあ、行くぞ!」と、フレア達に呼び掛ける。


「ん? もう用は済んだであろう? 一体どこへ行こうというのじゃ。吾等は、お菓子を買いに行かねばならんのじゃが」


「嬢ちゃん、300万も持って、どんな菓子折りを買う気なんだ……。まあ、それは良しとして、増やしに行く以外、何がある?」




 ――断る事ができぬまま、連れて来られたのは、ビルが立ち並ぶ街中だった。大きな通りから、人通りの少ない道に入って行き、田口が足を止めたのは、複数の看板が掲げられた雑居ビル。


 ビルに入った一行は、一階に店舗を構える酒場に足を進める。――客がほとんどいない店内を見渡しながら、フレアは「先に、食事でも済まそうってのか?」と田口に問いかける。


「黙って、ついて来い」田口はそれだけ言うと、カウンターにいる男に、ポケットから取り出したカードを手渡す。――カウンターの男は、それを確認した後「個室をご予約の田口様ですね。ご案内いたします」と告げて、カウンターの奥にある扉に導いた。




 カウンターの奥には下へ続く階段があり、そこを下ると、背の高い警備員風の男が、金属製の扉の前に佇んでいる。――その扉を抜けた先は、緑の布が張られたテーブルや、様々な絵柄が書かれたリールが回るスロット台、それらを前に、ある者は、喜色満面で叫びを上げ、ある者は、頭を抱えて呻きを上げる。


 ルーラが、そんな人々の様子を、珍しそうに眺めながら田口に問いかける。


「カジノだよね? 酒場の奥に入り口があって、よくお客さんが集まるね。こんなの、教えてもらわなきゃ存在に気付けないよ」


「そりゃ、堂々と営業していたら、あれだからな」


 当たり前のように話す田口に、ルーラは冷たい視線を送りながら「あれって何さ!」と口を開く。


「そんな事より、今日のオレは、ツキに恵まれているみたいだ。――あれを見ろ!」


 田口が指をさすのは、ルーレットのテーブル。そこには、ディーラーが1人と、チップを手に、どこにベットするか頭を悩ませている客が1人いる。


 一行は田口に連れられて、ゲームの様子が見える所まで移動する。――田口は、ルーレットに視線を固定したまま、小声でフレア達に話しかける。


「いいか? 俺の考えた攻略法は、待つことから始まる。お前等ルーレットのルールは分かるか?」


「どこの数字に入るか当てるだけだよね? 若しくは、色を当てるか。ボクは、長い目で見れば、絶対に勝てないよう調整されたゲームだと思うんだけど」


 ルーラの言葉に、田口は不敵な笑みを浮かべながら、首を左右に振る。


「それが、そうでもないんだ……」――それっきり口を噤んだ田口は、ひたすらに待ち続ける。




 ――少しの時間が流れ、直近の履歴は、赤、赤、赤、赤。――そこで田口が動く、ルーレットのテーブルに近付くと、現金200万円をディーラーに手渡してチップに交換を行う。


「お前等も、チップと交換しろ。俺と同じところにベットするだけで、ほぼ確実に勝てる」


「やるのか?」と、フレアがルーラに問いかけると「まあ、どうせ、この世界で使い切るのも大変だし、100万くらいなら負けても問題ないかな?」と、答えたあと、ディーラーに現金を手渡す。


 デューラーがチップを用意する間に、暇を持て余していた火蘭が、田口に問いかける。


「して、作戦とは、どういったものなのじゃ?」


 田口は、三人を近くに集めると、周りに聞こえぬよう小声で、話し始める。


「お前等、赤が5回連続で続く確率が分かるか?」


「約32分の1だよね」その問いかけにルーラが即答すると、田口は頷く事で肯定した後、続きを話し始める。


「このテーブルは既に赤が4回続いているんだ。――という事は、次は32分の1で、赤に入り、32分の31で黒がでる」


「ええぇぇ!! お、おじさん? それ本気で言ってるのかい!?」


 田口は、勝ち誇ったような顔で、その問いかけに答えた。


「どうだ、驚いただろう? そうだ、余程運が悪くない限り、まず勝てる」


 そう言っている間に、ディーラがチップを用意し終わってしまう。――田口は迷うことなく、ベットの上限である100万円分のチップを黒にベットする。


 いまいち状況が把握できていない様子の火蘭が、固まっているルーラに問いかける。


「吾は、母から読み書きと簡単な計算をならっただけで、難しい話は、さっぱりわからんのじゃが、勝てそうなのかのう?」


「……48.6%の確率で、勝てると思うよ……」




 そうしている内にもディーラーがホイールを回して、ボールを投げ込む。――動こうとしないルーラ達を見て、田口が「お前等! 急げ!」と、急かしてくるが、ルーラは、首を左右に振った後、横目で回転するボールを見つめ続けた。


『カン、カン、カン、カラン……』回転するボールが、力を失いポケットに転がり落ちる。――そのポケットは3、色は赤。


「チックショウ!! ……32分の31が、外れるだと!! …………だが、まだだ、次に黒が当たる確率は、64分の63。――次は、外れるわけがない!!」


「おじさん! まだやるつもりかい……赤が1000回続こうが、次に赤が出る確率は、48.6%から変わらないって!!」


 自分の世界に入り込んでいる田口に、ルーラの言葉が届く事は無く、再び黒に100万円分のチップがベットされる。


 ――そして、回り始めるホイール。ディーラーが鮮やかな手付きで、ボールを投げ入れる。――少し間を置いて「ノー・モア・ベット」と、ディーラが告げた。


 ルーラは、その言葉と同時に、指をおりながら、心の中で数え始める。


 ……1・2・3・4・5・6・7・8・9。


 ルーラが、9まで数えた時『カン、カン、カン、カラン……』無情にもボールは赤の14番に飛び込んでしまった。


「…………あ……あれ? …………なんで…………そんなわけ…………」


 膝から崩れ落ち、放心する田口の横で、ルーラがフレアの袖を引っ張って振り向かせた後、耳元で囁く。


「……ベットの終了宣言から、ボールが落ちるまで9秒だったよ」


「いや、ルーラ。それは、やっちゃダメだろ?」


「この店が稼いだお金は、裏社会に流れるだけだよ。――考えようによっては善行なのさ。……それに、これ以上、おじさんに付き纏われるリスクを考えたら……ね? 頼むよ」


「はぁ……、あまり乗り気はしないが……、たしかに、コイツが大人しく帰ってくれるとは、思えんしな」


 フレアは、深い溜息をついた後、100万円分のチップを手に持ち、最初から居た客がベットするのを待つ。


 その様子に気付いた田口が、慌てて立ち上がると、フレアの耳元で話し始める。


「次こそ黒だ! 128分の127で黒がでる! 負けるわけが無いんだ。……いいか、迷うな……黒だ、黒にかけろ」


 フレアは、軽く田口を押して、距離をとると、ベットをせずに、回り始めたルーレットを眺めた。


 フレアが、チラリと横を見れば、険しい顔をした田口の口が『は・や・く、は・や・く』と動いているのが分かる。――それを無視して、ボールがポケットに吸い込まれるのを待ち続けた。


『カン、カン、カン、カラン……』


 ……おい、23、赤だったぞ……『戻れ、戻れ、戻れ、戻れ』


 ――時間は12秒巻き戻る。戻った時、すでにホイールは回転している。ディーラーが前に乗り出し、ベット終了の宣言をしようとした時、フレアは、100万円分のチップを23にベットした。


「バカが! どこにかけてんだ! よりにもよって赤の23なんて。当たるわけないだろうが……、千載一遇のチャンスに、なんてことをするんだ!」


 田口が、声を潜める事も忘れて、フレアを揺すりながら怒鳴りつける。そうしている間にもボールは回り続け『カン、カン、カン、カラン……』と、終わりを告げる乾いた音が響く。


「鬱陶しいぞ……。見る場所が違うだろ……」


 フレアは、いまだに視線をこちらに向けている田口の、頭頂部を鷲掴みにすると、その首をホイールに向けて回転させる。


 無理やりホイールを見せられた田口の表情が、一変した。――暫く口を開けたまま、ホイールのポケットと、フレアがベットしたチップを交互に見つめ続けていた。


「……あっ!? 赤……23…………さ、三千六百万!? まさか、そんなわけが……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ