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67階層―1

 残りの階層を全て飛び越えて、1階層に辿り着いた3人だったが、物語世界を救う事が出来ぬまま、68階層に追い返されてしまった。――その後、正規のゲートを抜けて67階層に辿り着いている。




 一行が、転移したのは、赤レンガの外壁をもつ住居が立ち並ぶ街。運よく辺りに人影はなく、突如現れた3人が、注目を浴びることはなかった。


 フレアは、その場で街の様子を見渡す。――その過程で、同じように辺りを見渡しているルーラの姿が、視界に入る。――そのまま移動した視界は、表情を驚きのまま固め、小刻みに震える火蘭の姿を捉える。


「火蘭、体調でも悪いのか?」フレアが、そう声を掛けると、ルーラも火蘭の異変に気付いたようで「……顔色が悪いよ? 病気かな……治療してみるね」と、言いながら火蘭に手を伸ばす。


 火蘭は、ルーラが伸ばす手をそっと掴み、下げさせた後で、冴えぬ顔のまま言葉を紡ぐ。


「いや、心配いらんわ。――ここは、吾が生まれた世界じゃ。まさか戻ってくる事になるとは、思ってもおらんかったからのう。――少し驚いただけじゃ」


 その答えで、フレアは状況を察する事ができた。――火蘭は、虐げられた挙句、世界を飛び出したと、68階層で二人に語って聞かせている。


 時折、自らを卑下するわりに、意外とプライドが高い火蘭を見つめつつ、フレアは、当たり障りのない返答を選択した。


「……火蘭が、クリエと知り合いの可能性もあるしな。さっさとゲートに向かった方が良さそうだ」


 ルーラは、フレアの顔をチラっと見た後、軽く頷いてから答える。


「そうだね。物語だけ確認したら、邪魔にならないように、舞台裏を通り抜けようか」




 3人は、落ち着ける場所を探して、街の中を歩き始める。――火蘭が、フレアかルーラの所持品に宿るのが、一番安全なのだが、その事をフレアとルーラのみならず、火蘭自身も言いだす事はなかった。


 歩きながら、行き交う人々を眺めていたルーラが「なんだか、1階層みたいだね」と、感想を述べる。


 同じ街並みを見ていたフレアには、言わんとしている事が直ぐに分かった。街の住民は、見た目で2種類に分けることが出来る。


 色とりどりのドレスを着た女性と、見るからに高級そうなマントを纏い、胸を張って歩く男性が2割。残り8割の男女は、一言で言えば、一般市民といった様相だ。


 しかし、まだ口にも出していないフレアの考えは、火蘭によって否定される。


「豪華な服は、純血の幻獣と、それと何ら変わらぬ力を持つ混血の幻獣。並みの服を着たのが人間」そこで言葉を止めた火蘭は、顎をしゃくって、街を行く荷車を示す。


 二人が、荷車に目線を送った事を確認した火蘭は、続きを話し始めた。


「あの荷車を引く、ボロを着たのが出来損ないの亜種じゃ。――この世界で生きる者の階級は、服装の通りじゃ。――誇り高い幻獣たちは、出来損ないが許せんのじゃよ」


 大きな布の真ん中に、頭を入れる穴を空けて、ベルト代わりの紐を腰に巻いた後、引きずらぬように裾を切りそろえた。――そんな、服と言って良いのか、悩みたくなるような服。――荷車を引く男性は、それを着ていた。


 旅を始める前は、フレアとルーラも、決して裕福では無かった。しかし、目の前の男性より、数段良い暮らしをしていたのは疑いようも無い。――表情に同情が浮かばぬよう気を付けながら、男性を追い抜いて先を急いだ。




 ここまで、何が火蘭の心に突き刺さるか分からないと考え、口数が少なかったフレアだが、腹の底から沸々と込み上げる感情が、言葉を紡がせる。


「……自分達で産んでおいて、出来損ない扱いするなら、最初から幻獣同士で、子を作ればいいだろ!」


「大抵の幻獣は、刹那的に生きるからのう。欲しい物は、欲しい。――後の事など考えんのじゃよ。――そう言うもんだと思っておけ、フーが気にする事ではないわ」


 火蘭は、不満をもらさなかった。それが当たり前だと言わんばかりの態度に、フレアの心は更に搔き乱される。


 ――しかし、それは長く続かなかった。フレアの目が、こちらへ向かって走り寄る、黒尽くめの男を捉えた時、熱く燃え盛っていた感情が、一瞬で冷え切る。




「あいつ、ハンターだと思うか?」そう言いつつも、既にフレアは確信していた。仕立ては良いが、全く飾り気がない漆黒の衣装が、どの住民の分類にも当てはまらない。


 ――それ以上に、いつでも剣を抜ける体勢で、街中を走る人間が、一般市民であるわけがない。


 ルーラと火蘭は、走る男を視界に捉えたまま小さく頷く。――3人は、足を止めず前に歩き続ける。――残り20メートルという所で、フレアの手が刀の柄に向かって伸びていく。


 ――残りは5メートル。しかし、その距離がそれ以上縮まる事はなかった。男は、フレア達の5メートル横を走り抜けていく。――通り過ぎる瞬間に眼球が動き、こちらを見た事に、フレアは気付いていた。


「あいつ、俺達を視認しているのに、通り過ぎるってのは、どういう事だ……」


 ルーラが、過ぎ去る男の背を見ながら、顎に手をあて考える素振りを見せる。――やがて目を見開くと、慌てた様子で話し始めた。


「うっかりしてた! 作者だよ、フレア君! 正規のルートで、この階層に辿り着いたって事は、この街に神に命じられて、68階層を作った作者が居るんだ!!」


「口封じの可能性が、あるという事であろう?」火蘭は、そう言い終わる頃には、既に鳥の姿になって、ルーラの肩にとまっている。


 すぐさま、肩に火蘭を乗せたルーラを背負うと、男の後を追い駆け出す。――もし、ルーラと火蘭の予想が当たっていれば、情報を得る貴重な機会を失う事になる。


 しかし、判断が若干遅かった。どこかで曲がってしまったのか、男の姿はどこにも見当たらない。――歯を食いしばるフレアの耳元で、バサバサと火蘭が羽ばたく音がする。


「吾が空から探そう! 汝らは、そこで待っておれ!!」と、告げると、火蘭は街の上空に向かい飛び立っていった。




 焦燥を感じながら、二人は火蘭を待ち続ける。――――5分ほど経過した頃、上空から緑色の鳥が舞い降りてくる。――火蘭は、二人の横を通り過ぎる瞬間に「ついてまいれ!」と、告げると、空中で180度旋回して、二人を誘導しはじめた。


 火蘭に連れて来られたのは、辺りの家と代わり映えしない、レンガ造りの住宅で、入り口のドアが完全に閉められておらず、すこし隙間が空いているのが見える。


 3人は、迷わずドアを開くと、家の中に入り込んだ。――2階建ての建物を、フレアを先頭にして、一部屋ずつ確認していく。――――1階を全て確認し終えるが、人の姿は見当たらない。


 2階に上がったフレア達は、手前の部屋を素通りして、一番奥の部屋を目指す。――その部屋のドアは開いており、何かが焦げる匂いが漂ってくる。


 扉の前まで辿り着き、部屋を覗き込んだフレアは、溜息をついた後、刀を鞘から抜き去る。


「間に合わなかったか……代わりに、話を聞かせてもらうぞ」


 部屋の中には、左胸を刃物で貫かれ、既にピクリとも動かなくなった黒髪の男と、その男を殺したであろう、黒尽くめのハンターが、机の上に置いた紙を燃やしている姿があった。


 ハンターは、億劫そうに振り返ると、剣を抜き放ちながら口を開く。


「私の役目は、もう終わりだ。異分子を始末するようには、命令されていない」


 フレアは、ハンターの右手を見ながら、苦笑いしながら話しかけた。


「そう言いながら、剣を抜くか」


 フレアが、そう言っている間にも、ハンターは剣を持った右手を、左肩の上に乗せる。――地面と水平に構えられた刃の切っ先を、肩越しに真後ろへ向けるような構えだ。


 ……おかしな構え方だ……そこから、どんな攻撃を繰り出す?


 気味の悪さを感じて、相手の出方を窺うフレア。直後、フレアの表情が驚愕に染まる。


 ハンターは、左肩に置いた右手を、力強く右側に引き寄せる。――当然の如く、肩越しに後ろへ向けられていた刃は、ハンターの首に向かって進み――――ゴトンッと、鈍い音を立てて、頭が床に転がり落ちた。


 状況を把握した、フレアが、刀を鞘に戻しつつ呟く。


「……時間を戻した所で、こいつは、何も話さないよな……なぜ、そうも簡単に自分の命を断てる……」

 

「使命さえ果たせば、己の命など、惜しくもないと言う事かのう。――まさに、狂信者じゃな」


 火蘭は、それだけ言うと人型に戻り、机の上で燻る紙を両手で包み込んで、消化する。


「修復できないか?」と、フレアが問いかけると、火蘭は首を左右に振った後「無事な部分が少しでも残っていれば、修復できるんじゃがのう」と、申し訳なさそうに答えた。




 その後、フレアは、手掛かりになるような物が存在しないか、ハンターの持ち物を確認したが、ハンターに至っては、何の変哲もない剣以外は、何一つ所持していなかった。


「世界を渡る鍵すら、持っていないな……」


 フレアがそう言うと、作者の持ち物を確認している火蘭が予想を述べる。


「片道切符でも持たされたんじゃろ? あの金色の鍵のようにな。――――作者の方も、これといって重要そうな物は、持っておらんのう」


 そんな話をしているフレア達の後ろで、ルーラが「うーん……」と一人で唸り始める。


 フレアが「何かあったのか?」と問いかけると、手に持った物を二人の前にかざして見せる。


 それは、ペンのような何か。半透明で、薄い桃色、光にかざさなくとも向こう側が透けて見える。


 部屋に設置されていた机の中から、取り出したと思しき白紙に、ルーラがペンのような何かを走らせると、黒い線が描かれる。――ペンのような何かではなく、実際にペンだったようだ。


「これ、インクが入ってないのに文字が書けるよ。――魔法のアイテムか何かかな?」


 それを見たフレアは、下の階層で話した作者の言葉を思い出していた。


「下で会った作者は、ペンで文字を書いたら、物語世界に飛ばされたって言ってたよな? もしかしたら、それかもしれないぞ。――一応、回収しておいたらどうだ?」


「そうだね」ルーラは、それだけ言うと、魔法のポケットにペンを収納する。


 その後、家全体を探し回ったが、めぼしい物は見つからず、遺体を残したまま立ち去る事になる。




 屋外に出た一行は、落ち着いて本を読める場所を探して、再び歩き始める。――少し進んだ所で、火蘭がビクッと体を震わせた後、肩に力を入れて、俯く。


 フレアの表情に不快感が浮かぶ。――前方から、仕立ての良い水色のドレスを着た20歳前後の女性が、こちらを見つめながら歩み寄っていた。――嫌らしい笑みを浮かべる表情に、悪意が滲み出ている。それに、気付かぬ者など居ない。


 女性は、一行の元に辿り着くなり、フレアとルーラを無視して、火蘭に話しかける。


「不死鳥の街の火蘭よなあ? 異界に逃げたと聞いておったが、どの面下げて戻って来たのじゃ?」


 火蘭は、伏し目がちに女性を見ると、恐る恐る口を開く。


「……所用で、立ち寄っただけです。――すぐ去りますので、捨て置いてください」


 その言葉を聞いた女性の顔が引きつる。掴みかからん勢いで、火蘭に詰め寄ると、底冷えするような声で話しかける。


「我に、指図するか? 少しばかり、マシな服を着て、偉くなったと勘違いでもしておるのか? この出来損ないが!!」


 火蘭の服は、出会った当初と同じ、見るからに安物のシャツに安物のスカートだ。――フレアとルーラが居る事を分かっていて、それよりもみすぼらしい恰好をしていたと、暗に告げているのだろう。


 その時、ルーラが咄嗟にフレアの腕を掴んだが、振り払われてしまう。




「……お前は、俺に喧嘩を売っているのか? そうなんだな? ああっ!」


 女性は、火蘭を突き飛ばすと、フレアを恐れる様子も無く、詰め寄って口を開く。


「人間風情が、ペルーダである我に、そんな口を聞いて許されるとでも思っておるのか?」


「俺は異界の人間だからな。――序列とか知った事じゃないんだよ!!」


 その様子を見た火蘭は「フー、良いから、もうやめて」と、懇願するが、既に火花を散らす二人に、その声は届かない。


「そうか、ならば、分らせてやらねばならんのう。――我に楯突いた事、後悔するがいいわ!!」


 そう言った女性の体が、白い煙を放ちながら変形し始める。――フレアには、見慣れた光景だった。火蘭が鳥の姿に変わる時に、何度も目にしている。


 女性が変身したのは、四本足の付いた巨大な蛇。その背中は、鱗ではなく毛で覆われている。


「驚いて、声も出ぬか? 今更謝ったところ……ぐぇ……あ……あ……」


 ――言い終わる前に、フレアは、蛇の首を鷲掴みにしていた。ギリギリと力を込めながら、ペルーダに話しかける。


「その姿を見たら、手加減する気が失せた。……謝るなら今だぞ?」


「……ぐぁ……す……すまんかった…………我が……悪かった……」


「ああん! 聞こえないぞ? デッドエンドがお望みかっ!」


 その様子を見ていたルーラが、呆れた顔でフレアに声を掛ける。


「フレア君、チンピラじゃないんだから……そのぐらいにしておこう? 人が集まってきちゃうよ」


「あっ? …………ああ、そうだな……。そうだった……」


「……ぐぁ……………………………………」


 ルーラの言葉で、フレアは、ようやく我に返り、手元のペルーダを見るが、泡を吹いて既に動いていない。――気付いた途端に、嫌な汗が噴き出す。


「ル、ルーラ……やりすぎたかもしれない。ヒール……頼んでいいか?」


「もう!! だから言ったじゃないか! 気持ちは分かるけど、加減してよ!! ――――ヒール」


 フレアが、辺りを見渡すと、こちらへ向かい駆けてくる人影が見える。ルーラに頼んでグリフォンを取り出してもらうと、即座に飛び乗り、街の外へと逃げ出したのだった。


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