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68階層―7

 ルーラの胸元から声が聞こえてくる。


「まったく、見ておれんわ。――ルーは、そこで待っておれ。吾がフーを勝たせてやる」




「火蘭君……なのかい? 一体どこに……」


 声がする自分の胸元に視線を送りながら、問いかけたルーラだが、その答えは返らず、代わりにブラウスから緑色の鳥が飛び出して、フレアとデュアスの方向へ飛んでいく。


 その鳥は、途中で高度を下げると、フレアが地面に放った刀の柄に向かう。


「ぶつかる!」ルーラは、思わず叫んだが、その鳥は柄に触れると幻のように消えてしまった。


 そして異変が起こる。折れて地面に突き刺さっていた刀の刀身が、光の玉に変化して柄に向かっていく。――光の玉と柄が重なった時、そこには刀身を取り戻した刀が存在していた。


「物体の修復……これが、火蘭君の異能。――フレア君!! 刀を拾うんだ!!」




 ルーラの言葉を聞いたフレアは、即座に刀が存在する方向へ走る。――デュアスは、その様子を窺うだけで追撃しようとは、しなかった。


「……刀身が、修復されている」刀を拾い上げたフレアが呟くと、刀から声が聞こえる。


「吾が、宿った物は絶対に壊れん。――何の遠慮もいらん、真っ向から打ち合え!!」


「……火蘭なのか? お前は、俺達と一緒に居たんだな」


「そんな、つまらん事、後で良い!! さっさと、彼奴を倒さんか!!」


 フレアは、苦笑いしながら「そうだな」と答え、刀を構える。




「待たせたな! それじゃ、再開と行こうか!」


「構いはしない。何をしたところで、お前が私を倒す事など、出来はしないのだから」


 その言葉を最後に、フレアとデュアスが構えをとり、暫し沈黙が訪れる。――その沈黙を破り、フレアにだけ聞こえる大きさで火蘭の声が響く。


「鉄でも切り裂く異能を持つ剣が、硬いとは限らんぞ。異能の力で切り裂いてしまうからこそ、軟弱な刀身であっても、折れる事はないのじゃから」


 フレアは、頷く事でそれに答えた。




 デュアスは、これが最後とばかりに、フレアに宣言する。


「世界の理を乱す異分子よ。次の一撃で、その罪深き生に終止符を打とう」


「……それは、本当にお前の意志なのか?」


 デュアスは、その問いかけに「神の意志だ」と、答えると同時に動き出す。――それを確認したフレアが言葉を紡ぐ。


「作者の意志から解放されてなお、自分の意志すら持たず、殺戮を続けると言うのなら! ――――今日が、お前の、最終回だあぁぁ!!」


 フレアは、大地を蹴ると同時に唱える「デュアルブースト!!」デュアスとフレアの脚力が3倍に増幅し、一瞬で距離が詰まった。


 振り下ろされるデュアスの剣に、フレアは火蘭の宿った刀を全力で叩きつける。


『ガキィィィン!!』と、甲高い音が響いた。


 ――3倍の脚力で加速された二人が、3倍の腕力で振るった刃が交わり火花を散らす。火蘭の力を得た刀は、切断される事なくデュアスの刀身を受け取めている。


「なぜ、斬れない!!」驚愕で声を漏らすデュアスだが、やはり力はデュアスが上。――徐々に押し込まれる刀に、フレアは全身のバネを使って、さらに力を込める。


「砕けろぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 ――『キンッ!』と、デュアスの剣が悲鳴を上げて、黒い刀身が切断される。――支えとなっていた剣を切断した刀は、溜めていた力を一瞬で速度に変えデュアスの上体を深々と切り裂く。


「ぐあぁぁ!! ……か……神よ…………勤めを……果たせぬ私を……お許しください……」


 ――肩越しに、デュアスの姿を一瞥したフレアは、刀を振って刀身に付着した血液を飛ばした後、静かに鞘に戻した。それと同時に、どさりと、デュアスが倒れる音が響く。




 駆け寄って来たルーラは、デュアスの前で手を組み黙祷する。――それが、終わると、フレアに手をかざし「ヒール!!」と唱え、傷を癒す。


「ルーラ、苦戦はしたが、大した怪我はしていないぞ」


 ルーラはフレアの側頭部を見ながら、それを否定する。


「頭から血が出てるよ。――それにね、ボクにはこれくらいしか出来ないんだ。どんな小さな傷でも癒させてよ」


「バカだな。ルーラの助言なしで戦っていれば、俺はとっくに死んでいるさ。――あと、お前もな」


 そう言いながら、フレアは刀の柄をポンポンと叩く。すると刀から、腹の部分だけが赤い、緑色の鳥が飛び出し、空へ向かって羽ばたいていく。


 それを見たフレアは「あと一回残っていたな。――デュアルブースト」と、唱えた直後に、地面を陥没させて飛び上がる。――そして空中で、火蘭を掴み地上に舞い戻る。


 フレアの手の中で、暴れながら火蘭が叫ぶ。


「やはり汝らも、他の人間どもと同じか! 助けてやったのじゃから、見逃せ!」


「いや、見逃すも何も、礼を言おうと思っただけなんだが……なあ?」


 フレアに話を振られたルーラは、キョトンとした顔で答える。


「うん、何で怒ってるのか、ボクには分からないよ?」


 その言葉を聞いた火蘭は、鳥の首を傾げて、暫し黙り込む。――その後、二人の顔を代わる代わる凝視した後、問いかけてくる。


「汝ら、吾が何者か分からんのか?」


「鳥だよな?」「鳥だよね?」


「はぁ……、逃げぬと約束するから、一度手を放せ」


 フレアの手から解放された火蘭は、身体から視界を遮るほど濃い煙を放つ。――その煙が風で流されると、そこには、人型になった火蘭の姿があった。




 二人に向き直った火蘭が、神妙な面持ちで問いかけてくる。


「汝らに再度問う。もし、他人の命を奪う事で、自らが不老不死になれるなら、その手を血に染めるか?」


「やるわけがないだろう。お前は、俺達を何だと思っているんだ?」


 ルーラは、フレアの回答にコクコクと頷いて同意した後、問いかける。


「……ようするに火蘭君は、不老不死を得たい人間から、命を狙われているって事かい? もしそうなら、力になれるかもしれないよ!」


「汝らに、どうこう出来る問題ではないんじゃが……まあ、偶には語って聞かせるのも悪くないかもしれんのう。――しかし、先にやる事があるじゃろ?」


 そう言うと、火蘭はデュアスの遺体に近付き、持ち物を探る。――ポケットから金色の鍵を発見した火蘭は、それを光にかざして暫し眺めた後、フレアに向かって放り投げた。


「こやつは、異界の門を潜って、狩りを行うハンターと言っておったな? 恐らくそれが鍵ではないかのう」


 フレアは、受け取った鍵を暫し眺めた後、ルーラに手渡す。それを受け取ったルーラは、魔法のポケットに収納しながら、火蘭に問いかけた。


「火蘭君は、デュアスの剣も修復できるのかい?」


 火蘭は、デュアスが落とした柄に触れた後、渋い顔をしながら答えた。


「これは無理じゃ。吾が修復できるのは、命なき物。――これには、何かが宿っておった。……いや、剣の姿をした生き物じゃな」




 デュアスの剣の修復を諦めた一行は、いつでも逃げ出せるようにグリフォンを取り出し、機体に背を預けながら話を始めた。




 ――――吾の生まれた世界は、幻獣と人間が共存する世界じゃった。


 幻獣は皆、人の姿と獣の姿の、二つの容姿をもっておる。それ故、時に幻獣と人間は惹かれ合う。


 幻獣と人間の子は、大抵の場合、純血の幻獣と変わらぬ姿と力を持ち、生まれてくる。――だが例外もいる。そう、吾のような亜種。まあ、出来損ないじゃな。


 吾は、不死鳥と人間の間に生まれた。――本来、不死鳥は、獣の姿では炎帯びている。そして、己の不死性と、死して直ぐの人間を蘇生する力を持つ。


 吾の姿を見たであろう? 炎を帯びる事の無い獣の体。おまけに再生できるのは、人ではなく、命なき物じゃ。


 そしてな、出来損ないは、同族から迫害を受けるんじゃ。――居場所のない出来損ないたちは、世界を渡る異能を用いて、安息の地を求め旅立って行く。




 吾もその一人じゃった。しかし、吾が糧を得る術は、修復能力以外には存在せんかった。――修復には一度、不死鳥……いや、鳥の姿になる必要があるのじゃ。


 稀に、気付く人間がおるのじゃよ。吾が不死鳥の亜種だと。――そういった人間は素知らぬ顔で、声を掛けてくる。――可哀想なお嬢ちゃん、家で暮らすと良い。とな。


 初めて、そう言われた時、どれほど嬉しかった事か……。やっと安息の地を見つけたとな。……しかし、それは儚い幻じゃった。


 不死鳥の唯一の弱点は、心臓じゃ。――心臓を取り出され、食われた時、不死の力が失われる。――そして、食らった者に不死の力が乗り移る。


 それは、どこの世界でも知れ渡った事じゃった。――吾を家に招き入れた、人間達も心臓が目当てであった。――寝静まった時を狙い、襲い掛かって来た人間どもから、吾は必死に逃げたよ。――今でも時折夢に見るわ。


 こんな己すら再生できない、出来損ないの心臓を食らって、不死になれるとは到底思えんがの。――それでも、試してみたくなる程、不老不死と言うのは、人の心を惹きつけるのじゃろうな……。


 まあ、こんなところじゃ。……今なお、居場所を探して彷徨い歩く、出来損ないの物語。聞いて楽しい話でもないであろう? ――――




 話を聞き終わったルーラが、火蘭の頭を撫でながら話しかける。――火蘭は、嫌そうにしているが、全くお構いなしだ。


「うん、楽しい話じゃなかったのは、否定しないよ! そして、ボク達じゃ火蘭君の力になれない事も分かった」


 そこまで話を聞いた、フレアがルーラの袖を引っ張りながら話しかける。


「ルーラ……、もう少し、言い方ってものが……」


「ゴメン! 言い方が悪かったのは謝るよ! 力になれないんじゃなくて、力になる必要が無いんだ! だって、不死鳥の心臓の話、フレア君は聞いた事があるかい?」


 その問いかけに対する答えは一言だった「いや、無いな」


「それは、汝らが知らぬだけで、常識の範疇じゃぞ?」


 ルーラは、首を左右に振ってから、説明を始める。


「それは、火蘭君の世界と、それに連なる世界での常識だよ。――そこから抜け出した物語世界全体の常識じゃないのさ! だからね、誰も火蘭君が不死鳥だと気付く事も無いし、万が一気付かれても、心臓を狙ったりなんかされないよ!」


「じゃあ、火蘭が移動していた世界ってのは……」


「予想でしかないけど、ボクの生まれた世界みたいに、一階層の中に複数の世界が存在したんじゃないかな? そして、偶然トラップゲートに引っ掛かって、この世界に移動してしまった。――火蘭君もボク達の傍に居たなら、言ってる意味が大体わかるよね?」


 火蘭の表情は複雑だった。嬉しいようでいて、空しいようでもある。――そんな表情を取り繕った後、再び火蘭が口を開く。


「なるほどのう。少しは、旅が楽になりそうじゃ。――別れの前に、フーのもう一本の剣も直してやるかの」




 そう言いながら立ち上がる火蘭の手をルーラが握る。何事かと振り返る火蘭の目を真っ直ぐ見つめながらルーラは、語り掛ける。


「火蘭君! ボク達と一緒に旅をしてくれないかな? 君の物をなおす力が、僕達には必要なんだ。――そして、それ以上に、自分の身を危険に晒す覚悟で、フレア君を助けようとしてくれた君を、ボクは仲間に迎えたい」


 それを聞いたフレアも、火蘭に話しかける。


「火蘭、俺もお前が来てくれるなら歓迎する。――ただし、俺達と一緒じゃ、安息とは、程遠いかもしれないけどな」


 それを聞いたルーラは、苦笑いを浮かべながら「ちょくちょく死にかけるしね」と呟く。


 ルーラとフレアが顔を見合わせた後、揃って肩を竦めていると「いいよ……」微かに声が聞こえた。――聞き取れなかったフレアは、俯いている火蘭に「今なんて言った?」と問いかける。


「構わんと言ったのじゃ! 一人で旅を続けようと危険なのは同じ事よ。食う物に困らぬだけ、汝らと行った方がマシかもしれん」


 ルーラの顔に花が咲いたような笑顔が浮かぶ。ルーラは、火蘭とフレアの手を引いて重ね合わせると、その上に自分の手を置いて宣言する。


「ここからは、ボク達が紡ぐ。二人と一羽の物語だよ!! ……ん? 人の方が良かったかな?」


「あははっ! 吾は、どちらでも構わんよ」

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