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68階層ー2

 破壊されたグリフォンを前に、暗い表情で話し合っている二人の様子を見た女性が、提案してくる。


「丁度良い。先程の礼じゃ。吾が、この乗り物を直してやろう」




 まるで、食卓の上の調味料を取ってやるとでも言うような調子で、放たれたその言葉に、フレアとルーラは思わず顔を見合わせてしまった。


 目の前の少女は、花屋で店番などをしている様が良く似合う。鉄と油の匂いが充満する工場で働くような人間には、とても見えない。


「疑うような事を言って悪いが、本当に直せるのか? この機械は、遠い世界の特殊な技術で作られているんだぞ」


 フレアの問いかけに、少女は気を悪くするでもなく、平然と答える。


「吾は、幼少の頃より物を直す事を生業にして、生きてきたからのう。この程度なら容易いわ。――さて、修繕の業は吾が独自に編み出したもので、人に見せるわけにはいかんのじゃ。入り口付近に戻って、見張りでもしていてもらおうかのう」


 すぐに修理に取り掛かると言わんばかりの少女に、ルーラが「ここで治すのかい? 道具も部品も、何もないよ!?」と、驚きつつ質問をする。


 少女は、手をヒラヒラと振りながら答える。


「子細無い。さあ、始めるから向こうへ行っておれ。――そうじゃな……15分経ったら戻って来い。それまでに終わらせておこう」




 言われるがままに洞窟の入り口付近まで移動した二人は、少女が居る方向を見るのも気が引けて、洞窟の外に視線を固定しながら会話していた。


「仮に直らなくても、今より悪くなるわけじゃないから、大きな問題は無いんだが……」


 ルーラは、フレアも自分と同じ疑問を抱いているだろうと思い、問いかけてみる。


「本当に直しているのかな? カンともコンとも、聞こえてこないよね」


「そうだよな……あんなベコベコに凹んだ鉄の塊を、音もたてずに修理とか有り得ないよな?」


 二人が、洞窟の奥を去ってから聞こえてきたのは、少女が「んしょっと」と、一言放った言葉だけで、それ以外は、シンと静まり返っていた。




 ――そして15分後。二人は180度反転して、洞窟の奥へ向かい歩き始める。


 洞窟の突き当りに差し掛かり、右に体を向けた二人の視界に深紅のグリフォンが映る。機体の凹みは完璧に修復されており、傷の一つすら見当たらない。


 本来なら、その事に驚くべきところなのだが、二人にとってそれ以上に不可思議な事があった。


「フレア君……、この洞窟って、出口は一個しかないよね?」


「その通りだ。そして、その出口は俺達が見張っていた……」


 洞窟の奥には、グリフォンが一台存在するだけで、女性の姿はどこにも見当たらなかった。警戒を強めながら、フレアはグリフォンに近付きボディに触れる。


「ん? これは……」フレアは、運転席に置かれていた、二つ折りにされた紙切れを摘まみ上げ、そっと開き目を通す。



 ――修理は済ませておいた。山を迂回した先に安全な街があるから、そこへ行ってみるといい。私は一足先に戻らせてもらう。火宮かみや 火蘭からん――



 フレアは、その短い置手紙を数回読み返した後に、横で手紙を覗き込んでいたルーラに話しかける。


「……あいつ、手紙では、普通の言葉遣いなんだな……」


「フレア君、それも少しは気になるけど、今はそこじゃないよね!?」


「ああ、名前」「それも違うよ!!」


 記名に言及したのは、フレアなりの冗談だったのだが、いまいち伝わらなかった事を悟り、真面目に答える。


「まあ、何かしらの異能持ちだったんだろ。――ここで考えて、分かるような事でもないさ」


「確かに、そうだね。先に戻るって書いてあるし、街に着いたらまた会えるかもしれない。――ここでセディーラの書を確認している間に、魔物が入り込んで来たら事だし、火蘭君が教えてくれた街に行ってみようか?」




 洞窟内でグリフォンを始動した二人は、壁に接触させぬように、ゆっくりと洞窟内を進む。――日の光が差す地表へ辿り着き、いざ上昇だと言う所でフレアが「振り落とされるなよ!!」と叫んだ。


 洞窟を抜けたフレアの目には、石を握った手を振りかぶり、今にも投石を行おうとしている魔物の姿が映っていた。


 魔物の腕が振り下ろされた瞬間に、急上昇を始めたグリフォンだが、僅かに間に合わず、下面後方あたりに石が衝突して、ガクンと視界が揺れる。


 ルーラの上げた「うわっ!?」と言う声を聞きながら、フレアは思考を加速させる。


 ……戻すか? いや、念のため街に辿り着くまでは、余程の事が無い限り使いたくない。――火蘭が街にいるというなら、再度修理を頼めばいいだけだ。


 結論を出したフレアは、時間遡行を使うことなく、更に上昇と前進を続け魔物の射程圏から離脱したのだった。




 見えない天井に阻まれて、山の上を進む事を断念した二人は、迂回しながら山の裏側を目指す。


 途中で、数えるのも面倒になる程の魔物達に石を投げられたが、被弾したのは洞窟を出た直後の一発だけで、その後は全て躱しきっている。


 見渡す限り魔物が存在しない一角に辿り着いたルーラは、前方に座るフレアの背中に額を押し付けながら話しかける。


「あーあ。せっかくピカピカに修理してもらったのに、また傷を付けちゃったね……」


 フレアは、前傾した姿勢を少し戻す事で、ルーラの額を軽く押し戻しながら、それに答えた。


「まあ、多少は凹んだだろうが、動かすうえで支障はないみたいだからな。――――おっと、見えてきたぞ!!」


 山の迂回を終えて、広い平地に出たフレア達の前方に、粗末な木製の小屋が立ち並ぶ一帯が現れた。


「ええっ! あれが街なの!? ボクには安全な場所に見えないんだけど……」


 その場所は、街と言うよりも村と言うべき規模だった。そして、魔物が徘徊する土地だと言うのに、街の周りには塀どころか、柵の一つすら見当たらない。


「言ってる事は分からんでもないが、まだ街が存在しているって事は、何かしらの防衛手段があるんだろ」


 そう言うと、フレアは徐々に高度と速度を落としながら、街の端に佇む男目掛けて進んでいく。


 本来なら、人目に付かぬ所でグリフォンから降りて、魔法のポケットに仕舞った後に近付くのが理想なのだが、目的の街は山に近く、どこから魔物が現れるか分からない事を考えると、それをする気にはなれなかった。




 目標に定めていた男の前に辿り着いた二人は、警戒しつつも、それを表情に出さぬよう気を付けながら歩み寄る。


 男は、粗末な布の衣服に身を包み、武器や防具の類は一切身に着けていない。顔色は青白く、身体はやせ細り、とても街の入り口を守る存在には見えなかった。――二人が口を開く前に、男の方から声を掛けてくる。


「……新入りか。この街に入るには」男は、そこで言葉を区切り、手を前方に伸ばす。すると、その手が目に見えぬ何かに触れる。その直後、手を中心に黄色の壁が浮かび上がった。


 二人が、その様子を視認した事を確認した男は、続きを話し始める。


「通行料が必要だ。まぁ、具体的な額とかは決まっていないから、適当でいい。……文句を言える立場じゃないしな……」


 この男は、空から降りてきた二人を見ても全く驚く事がなかった。それどころか、グリフォンを見ようとすらしない。


 ルーラは、その事に疑問を覚えながらも、まずは通行料を払ってしまおうと、魔法のポケットから、財布代わりの布袋を取り出す。


 なお、空中から突如現れた布袋を見ても、男は眉一つ動かさない。


 ルーラが男の前に置いた布袋の口を開き、どれを渡そうかと悩んでいると、それを覗き込んだ男が、ルーラに話しかける。


「いや、それは勘弁してくれ。そんな物を渡されても使い道がない。服でも、食べ物でも、燃料でも、何でもいいんだ。頼むから、使える物で支払ってくれ」


 それを聞いたフレアは、思わず同情を含んだ視線を向けてしまう。


「この街は、その日を生きる事だけで、一杯一杯って感じか……」


 壁の番を務める男は、申し訳なさそうに告げた。


「ああ、その通りだ。特に俺みたいな戦う力の無い奴は、こうやって安全な仕事をして、僅かな分け前を貰って生きるしかない。――死ぬよりは幾らかマシな街。そんな感じだな……」


 ルーラは、二人の会話を聞いた後、コクリと頷き右手を虚空に伸ばした。そして、方舟の世界を抜ける際に、最初に沈んだ船から持ち出していた、レーションを取り出す。


 それを男に差し出しながら「保存食だから、そこまで美味しくないかもしれないけど、栄養はあると思うよ。これで通してくれるかな?」首を傾げて、そう言った。


「食べ物か!? ……ああ、有難い。……今開けるから待ってくれ!!」


 そう言いながら男は、見えない壁を指先でなぞる。その指が描く軌跡が黄色く染まり、やがて扉の形になったとき、その部分の壁が消失して二人を迎え入れる。


 すぐに閉まるからと、早く潜るように急かされた二人は、エンジンを掛けたままのグリフォンに飛び乗り、ゆっくりと街に入り込む。


 壁の向こう側に辿り着いた事を確認したルーラは、グリフォンから降りて男にレーションを1パック手渡した。――すると、少し奥にある家の壁に背を預けて座っていた6歳位の少年が、男に駆け寄ってくる。


 男は、しゃがんで目線を合わせると、少年に受け取ったレーションを全て手渡してしまった。


「ルーラ……」フレアが、呼び掛けた時には、すでにルーラの手は目線の高さに持ち上げられていた。


「ボクは、そういうの苦手なんだよ! ――門番君は、何人家族なんだい?」


 門番の男は、数舜キョトンとした顔で固まっていたが、やがて小さな声で、呟く。


「妻が1人と、子供は、この子だけだ」そう言いながら、息子の頭を優しく撫でる。


 ルーラは、魔法のポケットからレーションを1ケース取り出すと、全て男に渡しながら話しかける。


「ちょっとくらい、多く言っても分からないのに。君は正直者だね」


「……こ、こんなに! ……これで数日は、食べる物に困らない……なんとお礼を言ったらよいか……」




 感極まって、必要以上と思えるほどに礼を繰り返す男に、二人がタジタジになっていると、先程の少年が、ルーラの服の裾を引いて話しかけてきた。


「お姉ちゃん、ありがとう! ねえ、お姉ちゃんも魔法使いなの?」


 お姉ちゃん『も』の、一文字に興味をそそられたルーラは、少年に問いかける。


「良く分かったね! この街には、ボク以外にも魔法使いが一杯いるのかな?」


 少年は、掌を目の高さまで上げて、指折り数え始める。10本の指を曲げ終えた後に、ルーラの質問に答えた。


「魔法使いが沢山と、トカゲさんが三人と、小さい人が8人と、耳の長い人が沢山と……あとは…………えーと……」


 魔法使いについて尋ねたはずが、全く関係の無い答えまで返って来た。しかし、その内容は無視できるものではない。


 さらに詳しい事を、少年と父親から聞き出そうと思ったルーラだが、口を開く直前に、セディーラの書を読む方が早いと気付き、別れを告げてグリフォンにまたがった。




 二人は、建物にぶつからない程度の低空飛行で、街中を飛び回る。――10分も進む頃には、少年が言った意味を理解した。


 街を歩くのは、見た目が普通の人間だけでは無かった。二足歩行するトカゲや、小さな子供ほどの身長しかない大人。物語でエルフと呼ばれるような見た目の人々や、天使のような見た目で空を飛ぶ人々など、あまりに雑多だった。


 道行く人々は、エンジン音を聞くと一瞬だけ視線を向けてくるが、すぐに興味を失い、前を向いて歩きだす。――どうやら、空を飛ぶ機械程度で、心が動く事はないらしい。




 街の様子をざっと確認した二人は、丈の低い雑草が茂る、広い空き地を見つけて、そこに着陸する。


 これ以上、空から確認しても得られる情報は少ないと判断した二人は、グリフォンをしまうべく行動を開始する。


 まずは、ルーラがしゃがんで目線を低くした後、フレアがグリフォンを目線の高さまで持ち上げる。あとは、ルーラが触れれば収納完了なのだが……。


「あれ!? どうしたんだろう。魔法のポケットに入らないよ!」


「……こんな事、初めてだよな? 満杯になったとかじゃ無いのか」


 そう言いながら、フレアはグリフォンを地面に戻す。


「この世界に来てから、出したことは有っても、新たに仕舞った物は一つもないよ? ――あとね、もう一つ異変に気付いたんだけど……グリフォンに傷一つ無かった……と思うんだ」

 

 それを聞いたフレアは、グリフォンの後部を少し持ち上げて、下から覗き込んだが、ルーラの言う通り、ヘコミどころか擦り傷一つ存在しなかった。


「機体が傾くほどの衝撃を受けたってのに、無傷なのは……流石におかしいよな……」


「……セディーラの書を読めば何か分かるかも。ちょっと待ってね」




 こうして、よやく物語世界の元になった物語に目を通す事になる。


 セディーラの書を取り出したルーラは、読み始める前に、パラパラとページをめくって、どの程度のページ数があるか確認していたが、途中で手を止めると「えっ!?」と、声を上げる。


 一体何が書いてあったのかと、フレアが横から覗き込むと、ルーラがページをめくって現在の時系列を示している、赤い文字列を指さす。


 ――赤の文字列は、瞬く間に次の行に移り続けていた。このままの速度で、赤文字が移動し続ければ、完結に辿り着くのに二日と掛からないだろう。


 そして、その時、世界は作者の意志から解放される。この現象が一体何を意味するのか確認すべく、ルーラはセディーラの書を読み進めた。


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