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68階層ー1

 69階層のゲートを潜り抜けた二人は、果てしなく広がる草原に転移していた。


 その場で360度回転すると、240度は地平線が広がり、残り120度は山脈が見える。


 それ以外に目を引くのは、そこら中に転がっている大小様々な石ころと、こちらへ向かって走ってくる人型生物だ。


 目を細めたルーラが、手庇して辺りを見渡しながら、フレアに問いかけた。


「フレア君、セディーラの書を読んでいる余裕って……あるかな?」


「まあ、無いだろうな……」フレアがそう返答する間にも、全身が黒い人型生物が、地面の石を片手で掴み上げると、二人に向けて放り投げてくる。


 フレアは、弧を描く事なく直線的に投じられた礫を、受け止めようと手を上げたが「あれ……礫って言うか、岩石だな……」そう言いながら、受け止める動作を中止して、ルーラを抱えて回避する。


 ――ヒュン! と、風切り音を残して通り過ぎた石の大きさは、直径30センチ程もありそうだ。


 ルーラは、フレアの脇に抱えられたまま、石を投じた相手の方へ視線を向けながら言う。


「うーん、比較の対象がないから、大きさを誤認していたね。――あの黒っぽい人型生物、かなり大きいと思うよ……」


「逃げるって手もあるが……、どの程度の魔物が存在するのか、確認する意味で戦ってみるか」


 その言葉を聞いたルーラは「無理しないでね」と、一言告げると、フレアの邪魔にならぬように、後方へ下がった。




 近付いてくる敵を見ながら、フレアは苦笑いしつつ独り言ちる。


「本当に遠近感が、おかしくなるな……身長5メートル位か?」


「フシュゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――――」


 フレアの前まで辿り着いた魔物は、歯を剥き出しにしながら、両手を振り上げて威嚇を始める。その大きさは、フレアの目測通り5メートル程で、全身が短く黒い毛に覆われている。


 一見ゴリラのような見た目であるが、顔面まで毛で覆われていて、毛がないのは見た感じ手の平くらいだろうか。


「……悪いが、威嚇合戦に付き合ってやるほど、暇じゃないんだ!!」


 そう言うなり地面を蹴り、威嚇のポーズを取る為に、がら空きになっている懐に飛び込み、銀の刃を斜め上段から振り下ろす。


「なっ!?」不意を突いたはずのフレアが声を上げる。防がれる事無く魔物の左胸に振り下ろされた刀身は、皮膚を切り裂いた直後に、動きを止めてしまったのだ。


 ……ゴムの塊か、コイツは!! ――掴まれるのは、まずい!!


 魔物は、威嚇で振り上げていた手を、フレアに向けて振り下ろす。剣すら通らないような筋肉の持ち主に、掴まれる事を嫌ったフレアは、大きくバックステップして間合いを取る。


 ……デュアルブースト後に斬りつけるか? ……いや、ダメだ。剣が折れかねない。……素手で頭を潰すか、筋肉の上から内臓にダメージを与えるか……。


 フレアを掴もうとして空振りに終わった魔物は、その手を握り大地に接触させると、すぐさまナックルウォークで突進してくる。


 咄嗟にフレアは叫ぶ「デュアルブースト!!」そして、魔物に負けじと大地を蹴る。


 『ドゴォッ!!』恐らく魔物は、突如速度が上がったフレアに反応できなかったのだろう。フレアの放った右ストレートがまともに頭部に突き刺さる。


 ナックルウォークの為に前傾していた姿勢から、瞬く間にのけ反り、後方へ吹き飛んでいく。


 ――――魔物の巨体が地面に落ちて『ズシン』と鈍い音を立て、地面を振動させる。普段なら、これで戦闘は終わりとばかりに、ルーラに話しかけるところだが、フレアは、デュアルブーストの残り時間を使って、吹き飛ばした魔物との距離を詰める。


 後ろに溜めた拳に全体重を乗せて、倒れた魔物の頭部に振り下ろした。――魔物が倒れた時と比べ物にならない程、地面が揺れる。そして魔物の頭部から、バキッと骨が砕ける音が響く。


 そこで、ようやく警戒を解いたフレアは、長く息を吐きだしながら黙考に耽る。


 ……拳の威力を100%伝えて、やっと骨が砕けるって……どれだけ固いんだ、この魔物は……。まさか、コイツがこの世界の雑魚とか……ないよな?




 戦いが終わった事を悟ったルーラが、フレアに駆け寄って「フレア君! おつか……」まで言って固まってしまう。


 何事かと振り向くと、ルーラは口を開けたまま、ある一点を凝視しながら、そちらへ向けて指をさしている。


「そこに何が有るって言うんだ?」そう言いながら、そちらを見たフレアは、口角を引きつらせながらルーラに依頼する「グ、グリフォン……だしてくれるか?」


 二人が何を見たかと言えば、こちらへ向かって駆け寄ってくる3体の魔物の姿だった。離れていても見間違いようもない。――あれは、先程倒した魔物と同族だ。


「ちょ……ちょっと待ってね……グリフォン、グリフォン……ああっ! 慌てると出て来ないよ!!」


「分かってるなら落ち着け!! ていうか、立ったまま出すんじゃないっ!!」


 フレアの忠告は間に合わず、立った姿勢のまま取り出されたグリフォンは、ルーラの目線の高さから落下しはじめる。


「くっ!!」とっさに手を伸ばしたフレアが、グリフォンをキャッチして、ゆっくりと地面に降ろすと、すぐに飛び乗り「早く乗れ!」と言って、ルーラを後部座席に座らせる。


「よ……よし! 発進して!」ルーラがそう言ったのと同時に、フレアはグリフォンを浮上させる。そして、魔物の手が届かない高度まで機体が上がったのを確認すると、後部座席のルーラに話しかけた。


「ルーラは、意外と逆境に弱かったんだな」


「……ボクは追っかけられるのが苦手なんだ。……あー、怖かった!」




 空中に逃げ延びて、安心しきっていた二人の耳に『ヒュン!!』と風切り音が届く。揃って下を眺めると、3体の魔物が手頃な大きさの石を探して駆けずり回る姿が見えた。


「まずいな、あれが当たったら墜落しかねない! 高度を上げるぞ!」


 フレアが操るグリフォンは、風を切り裂きながら前進しつつ、徐々に高度を上げていく。


 後部座席で、身体を捻って魔物の様子を見ていたルーラが叫ぶ。


「フレア君! 投石くるよ。左に避けて!」


 フレアは、ルーラを信じて、指示された方向にグリフォンを操りながら、更に高度を上げていく。――何度目かの投石を回避した時、フレアは異変に気付いた。


 躱した石が虚空に衝突して、落下したのだ。――それは、まるで見えない天井があるかのようだった。不気味に感じたフレアは一旦上昇をやめて、前進のみに注力し、魔物との距離を離す事を優先する。


 魔物達が豆粒ほどにも見えなくなった頃、フレアは前進を止めて、左手を頭上に掲げながら、グリフォンの高度をゆっくりと上げていく。


「フレア君、何をする気だい?」その行動を不思議に思ったルーラが問いかけるが、フレアが答える前に理由を察する事になる。


 フレアの手が見えない天井に触れて、その部分を中心に半透明の赤い円が浮かび上がる。


「見ての通りだ」フレアはそう言いながら、グリフォンをゆっくりと前進させつつ、左拳でコツコツと天井を叩き続ける。――そのまま1キロほど進んだだろうか。結局見えない天井が途切れることは無かった。


「なんだか、閉じ込められた気分だね……。早めに物語を確認した方が良いかもしれない」


 フレアは、地表で石を探し歩く魔物を眺めながらルーラに答えた。


「こいつは、ちょっと読書って感じじゃないな。まずは、安全な場所を探す事から始めるか」




 平地を探索しても望み薄だと判断したフレアは、魔物の姿を見つける度に大きく迂回しながら、山脈を目指す。


 山脈まで後少しという所で、ルーラがフレアの耳に口を寄せて「沢山いたね」と呟く。丁度、同じことを考えていたフレアは「5キロに一体って感じだな」と即答した。


「フレア君ですら楽には倒せない相手と、5キロごとに遭遇するような世界で生活する人たちって、一体どんなだろうね」


「俺の力は、78階層の設定の力だからな……。それ以上の力を持つ、人間や魔物が存在する世界があっても不思議じゃないさ……。いや、むしろ無い方がおかいしい。――そうだろ?」


 フレアは、口に出さなかっただけで、以前からその事を考えていた。魔王と奴隷の恋物語の世界で戦った魔族。あの魔族は、自分が最強だと確信していた。実際にあの世界において、それは間違いでは無かったのかもしれない。


 だが、フレアから見れば、数えきれない程生息している、魔物以下の存在でしかなかったのだ。――上には上がいる。今までは運が良かっただけだと、改めて気を引き締め直した。


 ルーラは、フレアの質問に何と答えようかと、遠くを見ながら考えを巡らせていたが、その視界が上空に向かう緑色の鳥の姿を捉えて、思考を中断させる。


 空に向かった鳥は、見えない天井に激突して、そのまま地上に向かい落下していった。


「フレア君! 今の見た?」その問いかけにフレアは「鳥だな。助けたいのか?」と返した。


 ルーラが「うん! 助けよう!」と、答えたのを聞いたフレアは、鳥が墜落した付近目掛けてグリフォンを進める。――その場所は、山が侵食されて出来上がった崖の真下辺り。




 近付く二人の目に映ったのは、予想と全く違う光景だった。墜落した鳥の姿はどこにもなく、代わりに一人の女性が、あのゴリラのような魔物に襲われている。


 ルーラは、咄嗟にセディーラの書を取り出すと、表紙を確認して叫ぶ。


「フレア君! あの娘は、クリエじゃないよ。救える命だ!」


「なら、やる事は一つだ! ルーラ、グリフォンを任せたぞ!」


 タイミングを見計らってフレアが飛び降りると、ルーラは運転席に移動して、逆噴射で速度を落とす。


 飛び降りたフレアの体は、狙い通り魔物の背後に向かい、斜めに落下していく。


「やらせるかあぁぁぁぁ!!」フレアは、女性に飛び掛かろうとしていた魔物の後頭部を空中で鷲掴みにすると、落下の勢いそのままに、顔面から岩床に叩きつけた。


 魔物の頭を中心に、蜘蛛の巣状の亀裂が岩床に走る。――だが、この程度で倒せないのは、先程の戦闘で確認済みだ。フレアは、すぐさま立ち上がり、ブーツの踵で頸椎を繰り返し蹴りつける。


『ガッ! ガッ! ゴッ! グキィッ!』蹴ること数回、ついに頸椎が砕ける音がして、魔獣が起き上がろうとする動作を止めた。


「魔物相手とは言え、あまり気分の良い倒し方じゃないな……あんた、怪我は無いか?」


 フレアは、そう言いながら、改めて女性の姿を確認した。歳は二人よりも少し下に見える。肩より少し長い、カラスの濡れ羽色の髪を、顎の高さで左右対称に結わえている。服装は、飾り気のないスカートとブラウスで、どこにでも居る村娘と言った感じの様相だった。


 地べたに座り込んでいた女性が、ヨロヨロと立ち上がった後、フレアの顔をしげしげと見ながら口を開く。


「ちと足を捻ったが、どうという事も無い。――さて、汝には世話になったのう。何か礼をしたいところじゃが、生憎差し出せるような物はない」


「別に見返りを求めて助けたわけじゃない」そこまで言ったフレアの横に、グリフォンが着陸して「そうさ! 礼なんて要らないよ」と、ルーラが笑顔で女性に告げる。


「ふむ、感謝する」と、庶民らしからぬ礼を述べる女性に、グリフォンから降りたルーラが近付き、赤く腫れあがった右足に手をかざす。


「結構痛そうだし、治しておくね! ――ヒール!」


 ルーラの魔法で、足首の腫れが見る間に完治する。それを見た女性が、目を大きく見開いて「さ、再生じゃと……もしや汝は、ふ」


 そこで女性の言葉は途切れた。『ヒュン!!』と風切り音が聞こえた直後『グシャ!』と、音を立ててグリフォンのフレームが変形する。


「くそっ! 崖の上にも居やがったか」フレアがそう言いながら上を見ると、石を投げ終わった体勢のまま、着弾地点を眺める魔物の姿が見えた。


 魔物は、フレアと目が合った後、ゆっくりと反転して視界から消え去る。


「フレア君! 早く時間遡行!!」ルーラがそう叫んだ時には、すでに3秒が経過しており、グリフォンが壊れる前まで巻き戻す事は、できなかった。




「彼奴は、崖から飛び降りては来んよ。恐らく、放る為の石でも探しにいったんじゃろう。――今のうちじゃ、その乗り物を押してこちらへ来るのじゃ」


 女性はそう言って、崖の一角を指さす。そこには、崖にぽっかりと空いた洞窟の入り口が存在していた。


「フレア君、ここは、彼女の言う通りにしよう。ここにいたら、一方的にやられるだけだよ!」


 フレアは、頷く事でルーラに答え、グリフォンを肩に担ぐと、洞窟の入り口目掛けて歩き始める。


 フレアがグリフォンを担ぐ姿を見た女性は、肩をすくめながら「汝は、本当に人の子か?」と、言った後、フレアに続いて歩き始めた。




 這入り込んだ洞窟は一本道だった。20メートルほど直進したところで右に折れ曲がり、曲がった先は5メートル程で行き止まりになっている。


 行き止まりの手前にグリフォンを降ろしたフレアは、エンジンの始動スイッチを押してみる。『カッカッカッカッカッカッ』と、音を立ててスターターは回るのだが、何度やっても肝心のエンジンが掛からない。


「まいったな。これを修理できる人間を探すのは、至難の業だぞ」


「うーん。これを買った所じゃないと、修理は難しいかもしれないね。――もう戻れないんだけど……」


 二人が暗い表情で、話し合っている様子を見た女性が、提案してくる。


「丁度良い。先程の礼じゃ。吾が、この乗り物を直してやろう」


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