表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/46

71階層ー2

 鋼刃鮫を躱しながら『珊瑚の珠玉』を集めてくると、心に決めた二人だが、重要なことに気付く。フレアは『時間遡行』の残り回数が0、ルーラは『三つの命』の残りが1。とても、戦いに出られる状況では無かった。


 どちらの異能も、深夜0時に回復するので『珊瑚の珠玉』探しは、翌日からという事で、話がついた。――しかし、二人が決めたところで、アンクレットを貸してもらえなければ、作戦は遂行できない。


「ったく、仕方ないねえ。――いいかい? 絶対に壊すんじゃないよ」


 二人は、リーリヤの母に、三日だけ貸して欲しいと、必死に頭を下げて、なんとか了承を得ることに成功していた。



 その後、フレア達は、リーリヤが荷物を纏めて、工房を出ようとしているのを発見する。


「リーリヤ君! そんなに荷物を持って、どこに行くんだい?」


 ルーラが呼びかけると、背中からはみ出す程、大きなバックパックを工房の扉に引っ掛けて、立ち往生していたリーリヤが、苦笑いしながら答える。


「あははっ、これからお仕事だよ。地上に商品を届けにいかなきゃいけないんだな。二人は私の部屋でゆっくりしてなって!」


 そう言われて『はい、そうですか』と、言うほど二人は薄情ではない。リーリヤの方が、海の中では、自由かつ、力強く動き回れるのを承知で、フレアはバックパックを引き受けた。



 そうしてやって来た地上の世界は、ゾンビの世界とは打って変わって、二人にとって馴染み深い、中世ヨーロッパに近い街並みだった。


 防波堤に上がったフレアが、背負ったバックパックを、陸で待ち構えていた男に手渡した後、辺りを見渡すと、水面から顔を出して、地上人と話す人魚の姿がチラホラ見られた。その中には、荷物の受け渡しを行っている者もいる。――どうやら、人魚と人間は交易が盛んなようだ。


 そうしていると、バシャ! と、水音が響いて、リーリヤが水面から跳ねる。陽光に照らされてキラキラ光る水滴を引き連れながら、フレアの立つ防波堤に着地して、そのまま腰かけた。



 フレアは、まだ水中に居たルーラを陸に引き上げて、防波堤に3人並んで腰かける。暫く他愛もない話をしていたが、何かに気付いたリーリヤが、それを指さして二人に話しかける。――その声に、若干覇気が無いのをフレア達は感じていた。


「ほら、あそこに居る二人。――女の子は、人魚の姫だよ。人化の宝玉を使って人の姿になってるから、気付かない人の方が多いんだよね」


 その言葉の後に、消えそうな声で囁かれた言葉。恐らく二人に対して話したのではないだろう。しかし、ルーラとフレアには、聞こえてしまった。


「…………ほんと、姫は、ばかだよ……」


 フレアが戸惑いながら、指さす方に目を向けると、10代後半とみられる女性と、20代前半くらいの男性が、手を繋いで歩いている姿が見えた。


 ……あれが人魚姫か。時系列的に、今は18歳だったな。残り1年か……。


 なんと返して良いか分からず、フレアが考えていると、ルーラがリーリヤに答えた。


「へー。あの人が人魚姫か! 思っていたより……」


 ルーラがそこまで話した時、バシャンと水音を立てて、リーリヤが海中に飛び込んでしまう。


 フレアは見ていた。リーリヤの視線が人魚姫達から外れて、横に居た男性を発見するなり暫し凝視したのを。その後、ハッとした顔で、防波堤の縁を両手で押し飛び込んだのも、はっきりと見た。


 その時、男性は、目の前で転んだ小さな子供を抱き起して、頭を撫でていた。その顔は慈愛に満ちており、よほど子供が好きなのだと、見ている者に感じさせる表情だった。


 男は、リーリヤが飛び込む直前にこちらの存在に気付いたようで、子供を置いて必死に駆け寄ってくる。フレアは身構えて男の様子を窺っていたが、フレアとルーラの事などお構いなしに、防波堤の縁に手をつくと、海面を穴が開くほど見つめていた。


 やがて、リーリヤが浮かんでこないのを悟った男が、フレアに話しかける。


「今のリーリヤですよね?」そこまで言って、フレアの足を見た後に続ける「お願いです。リーリヤにシェデルが会いたがっていると伝えてもらえませんか?」



 海に飛び込んでしまったリーリヤの事も心配だったが、シェデルと名乗る男の、今にも海に飛び込みそうな様子を見ていると、放っておく事はできなかった。そして、話を聞く事になる。


 リーリヤとシェデルは、元恋人だった。時折ケンカもしたらしいが、二人の仲は至って良好だったと話す。だが、ある時、シェデルはリーリヤに突如別れを告げられる。


 もう、聞くまでも無かった。メインストーリーと酷似したストーリーがもう一つ展開されている。――伝えるだけは、伝えておくとシェデルに言って、フレアとルーラは海の底へと戻っていった。




 リーリヤは少し潜った所で、二人の事を待っていたようだ。不自然なほどに明るい笑顔で、謝罪する。


「ごめん、ごめん! なんか急に足が渇いちゃってね! いやー危なかった。干乾びる寸前だったわ」


「それは仕方ない」と、話しを合わせた後は、先を進むリーリ―ヤの背中を追って、静かに海底へ向かって泳ぐ。徐々に数を減らす魚を眺めながら『無言のまま街に着きそうだ』と思った時、リーリヤが、肩越しに振り向いた。


「……聞こえちゃったんだけどさ。『珊瑚の珠玉』を取りに行くんでしょう? もしだよ? もし、鋼刃鮫が、既に死んでいてさ、遺体が落ちていたりしたら、その眼を持ってきてくれないかな? ……それが有れば、うちの工房で『人化の宝玉』って貴重な道具を作れるんだな。……もし作れたら、一気にお金持ちになっちゃう」


「……ああ、もし見つけたら、拾ってくる」


 二人にクリエである鋼刃鮫を殺す事はできない。そして、物語の最後に登場する鋼刃鮫が、病死などするわけがない事も分かっている。――結局フレアは思ってもいない事を言わざるを得なかった。


「あっ! でも、間違っても鋼刃鮫を倒そうとしちゃダメだからね。あれは、人や人魚がどうこう出来る相手じゃ……いや……ゴメン……やっぱりさっきの忘れて……」


 それを最後に、再び無言で泳ぎだした三人は、街に着くまで口を開く事はなかった。結局二人は、シェデルの言葉を伝える事も出来なかった。




 リーリヤの部屋で一夜を明かしたフレアとルーラは、朝早くに海面付近まで上がっていた。隣にはリーリヤと、体長10メートル近くある、巨大なシャチがいる。


 リーリヤはシャチの体をポンポンと叩きながら、フレア達に、話しかけた。


「ちゃんと言い聞かせたから、安心して乗っていきなさい! 送った後も、一日は同じ場所で待つように伝えてあるよ」


 リーリヤは二人に道案内兼、送迎役としてシャチを用意してくれたのだ。リーリヤの隣で、シャチをペタペタ触り、早く乗りたいと言わんばかりのルーラが、リーリヤに笑いかける。


「ありがとうリーリヤ君! シャチに乗れるなんて、海の物語の主人公になった気分さ!」


「必ず、『珊瑚の紅玉』を持って帰るから、アンクレットの土台を準備しておいてくれ」


 フレアは、そう言うと、先にシャチに乗って、ルーラを引き上げる。すると、指示せずともシャチが泳ぎだした。


 大きく手を振るフレアとルーラを見たリーリヤは、口に両手を添えて、力一杯叫んだ。


「危なくなったら、すぐ帰って来るんだよー!! 絶対無理するんじゃないよー!!」


  

「キュイィィィィィィィィ!!」


 シャチは速かった。72階層で、フレアが暴走させて破壊したトラックよりも、まだ速い。風にあおられた前髪が、すっかり癖になり、下がって来なくなった頃、二人は目的の海域に辿り着いた。


 直しても直しても、ビョンビョン跳ね上がる前髪を撫でながら、ルーラが言った。


「じゃあ行こうか! ここの海底に、一本だけ生えている珊瑚が目標だよ!!」


 フレアがシャチを撫でながら、それに答える。


「ああ、コイツをあんまり待たせちゃ悪いしな。さっさと貰って戻って来るぞ!」



 話し終えた二人は、真っ直ぐに海底へ向かって下っていく。フレアは元から夜目が効くので、あまり重要な異能では無いのだが、アンクレットには海底でも辺りを見通せるように暗視の効果も備わっていた。


 しかし、ルーラにとっては有難い異能だ。この先、海中以外でも、十分役に立ってくれるだろう。



 鋼刃鮫どころか、普通の鮫にすら出会う事もないまま、二人は海底付近まで辿り着く。――目標の珊瑚は、探すまでも無かった。潜る程に海中が赤く輝き、珊瑚のある場所を教えていたのだから。


 海底に着地した二人は、照明器具と見紛うほどに、煌々と輝く赤い珊瑚に向かって歩いて行く。それは、海底に出来た、深い窪みの底に存在していた。


「フレア君、これで間違いないよ!」ルーラは、そう言いながら、珊瑚に実った小指の爪程の大きさの珠玉をもいで目の前にかざす。


 その朱玉は、色も大きさも、二人のが装着するアンクレットに付けられた、ものと同一だった。


 ルーラが、さっそくとばかりに、実っていた3個の珠玉を全て回収して、魔法のポケットにしまった時、その隣で上方をねめつけながら、フレアが呟く。


「まあ、期待はしてなかったけどな」




 フレアが見つけたのは、決して倒してはいけない相手『鋼刃鮫』その名前の由来は、見た瞬間に分かった。背びれが刃物ような光沢を持っており、触れば切り裂かれるのは、想像に難くない。体長は20メートルはありそうだ。――窪みの上で、二人が上がってくるのを今か今かと待ち構えているようだ。


 鋼刃鮫を見つけた後、フレアは首をひねった。鋭い背びれ以上に、気になる事があるのだ。


「ルーラ、なんでアイツは隻眼なんだ?」


 『人化の宝玉』の材料になるという、眼球が一個無くなっていたのだ。


「あっ! 言ってなかったね! 作中でも隻眼で描かれてるよ。無くなった一個は、人魚姫が使った『人化の宝玉』の材料になったのさ」


「そうか、生きたまま片目だけ抉られたって事か。まあ、逃げる身としては死角があるのは、有難いな」


「……………………………………………………」


 ルーラからの黙り込んだのを不思議に思ったフレアが、声を掛けようとすると、その前に、ルーラが声を上げた。


「フレア君、人魚姫の悲恋は、止められないけど、リーリヤ君の思いは遂げさせてあげられるかもしれない」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ