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71階層ー1

 ゾンビが徘徊する72階層を抜けた二人は、物語世界を上り始めてから、最大の危機に直面していた。――いや、これは人生最大の危機と言っても過言ではないかもしれない。



 ……クソッ!! クソォォォォォ!! なんで、こんな事に!! このままじゃルーラが!!!!


 二人がゲートを潜った先は、よりにもよって水中だった。さらに最悪なのが、その深さだ。必死に水を蹴っても水面が近付いてこない。必死に泳ぐフレアの口には、塩辛い味が広がっている。――そう、転移した先は海中だった。それも限りなく海底に近い海中なのだ。




 フレアの肺活量は、人並外れている。だが、ゲートを潜る前に、大きく息を吸っていたわけではない。そう長く持たないのは、フレア自身が一番理解していた。


 だがフレアにとって、それは、些細な事だった。それよりも、腕に抱いたルーラだ。ルーラは既に、窒息で一度死んで、復活している。そして、2度目の死がフレアより早く訪れるのは疑いようも無かった。――――もう時間がない。




 ……頼む! 頼む!! まにあって、間に合ってくれ……。


「ボコォ……ゴボォ……ボコォ……ボコォ……」


 最後の賭けとばかりに、デュアルブーストを発動させようとしたフレアだが、それは、肺に残った空気を無駄に吐き出すだけで、身体に力が漲らない。


 フレアは今まで考えた事すらなかった。水中で、発声を必要とする異能が使えるのか。その答えを身をもって知る事になった。


 そうしているうちにも、ルーラの体が淡く発光して、2回目の蘇生が行われる。残す命はたった一つ。次に命を失った時、ルーラの物語は幕を閉じる事になる。


 ……嫌だ! 死なせない!! 絶対に死なせない!! 『戻れ!』何か方法は無いのか、この窮地を『戻れ!!』抜け出す方法は……………『戻れ!!』………『戻れぇぇぇ!!』………………。


 時間遡行は、頭の中で唱えるだけで使用が出来る。だが、それは今回の場合、考える時間を30秒稼ぐことしかできない。それでも、何か策が見つかる可能性に懸けて唱え続ける。




 ――――何も思いつく事がないまま、10回目の時間遡行を使い切った時、フレアの意識が徐々に薄れていく。どうやら、このままだと最初に死を迎えるのは、ルーラでは無く、フレアだったようだ。


 ……ここで…………終わりなのか……………………。




「動かないで!!」その時、水中であるというのに人の声がフレアの耳に届いた。薄っすらと開いた目に、こちらへ向かって泳いでくる女性の姿が映る。


 その女性は、フレアの足を掴んだと思うと、何かを取り付け始める。その作業を終えると、そのままルーラの足を掴んで、同じ作業を繰り返した。




「これは……」意識が朦朧としていたフレアは、思わず言葉を発してしまった。本来なら空気を無駄に吐き出すはずだった、フレアの口から言葉が漏れた。


 ――いや、それは口からでは無かった。女性が足首に取り付けてくれたアンクレットが、フレアの声を発している。 


「う……うぅ……あ、あれ? フレア君、ここ水の中だよね? 息が……息が出来るよ」


 蘇生直後で、朦朧としていたルーラが、覚醒して辺りを見渡しながら、そう呟く。――そして、発見する。足元にいる女性を、魚の下半身を持つ女性の姿を。


 見た感じ、女性は20歳くらいで、二人よりも少し年上に見える。水流に揺れる、明るい色のロングヘアーに貝殻の水着。――その姿は、絵に描いたような人魚であった。



 件の女性は、胸の前で両腕を組みながら、二人に話しかける。


「君達! 地上の人が準備も無しに、こんなところまで来ちゃダメでしょう! 私が来なかったら死んでるよ?」


 ……いや、そう言われてもな……好き好んで来たわけじゃないんだが……まあ、素直に聞いておくか、……………ルーラの命を救ってくれた恩人だ。


「ああ、次からは気を付ける。――心から感謝する。この恩は、決して忘れない」


 深々と頭を下げてフレアが礼を述べると、すぐにルーラも頭を下げた。


「ボクからも、お礼を言わせてよ。――本当に、ありがとうね」


 二人の言葉を聞いた人魚は、ヒレで水を蹴って滑るように二人の周りを一周した後、手招きをしながら、話しかける。


「素直でよろしい!! さあ、私についてきなさい。街で休んでいくと良いよ」



 言われるがままに人魚の後をついて泳いだ二人は、辿り着いた先で息を飲む事になる。海底には、石造りの住居が立ち並び、街を形成していた。そして、街の中央には城が立っていた。


 その様子を見たルーラが、ポカンとした顔で、呟く「これ、本で見たままだよ……」


 ――その城は、ルーラが72階層の本屋で集めた本の一冊に載っていた、竜宮城そのままの姿だった。 



 ルーラは城に案内されるのではないかとウキウキしていたが、実際に連れて来られたのは、街外れにある工房のような建物だった。


 工房の扉を潜ると、下半身が魚の中年女性が、二人を連れてきた人魚、ルーラ、フレアの順に鋭い視線を送る。その視線が二人の足元に向いた時、バンッ! とカウンターを叩いて、ドスの聞いた声をあげる。


「リーリヤ!! あんた大事な売り物を勝手に使って、何やってんだい!!」


 二人を連れてきた人魚の名は、リーリヤと言うようだ。なお、中年人魚は上半身に麻の服を着ていた。ここに辿り着くまでも数人の人魚を見たが、貝殻の水着を着るのは、若い女性だけのようだ。


 怒鳴りつけられたリーリヤは、両手を前に突き出して、ヒラヒラと手のひらを振りながら、慌てた様子で弁明する。


「かあさん! 人道支援だって! 死にそうだったの! 仕方ない……よね?」


 これはまずいと判断したフレアは、咄嗟に会話に割り込んだ。


「いや、これは無謀な事をした俺達が悪い。リーリヤは、俺達を助けてくれただけだ。……だから、責めないで欲しい」


 深く頭を下げたフレアの様子を、しばらく見つめていた工房の女性は、フンッと鼻を鳴らした後に、リーリヤに再度話しかける。


「サイズ調整しなきゃいけないからね。使い終わったら、さっさと持ってくるんだよ!! いいね!」



 リリーヤは、オッケーオッケーと、母親に軽い返事をしながら、フレアとルーラを引き連れて、自分の部屋に案内した。


 座る事も出来ずに、プカプカと部屋に浮かんでいるフレア達に、リーリヤが、胸の前で手を合わせて、申し訳なさそうに話しかける。


「と、いうわけで、早めにそのアンクレット回収しなきゃいけないから、もう少ししたら地上に送ってくね」


 いつになく真剣な顔のルーラが、真っ直ぐにリーリヤの目を見つめて、問いかけた。


「リーリヤ君。このアンクレット、ボク達に売ってもらう事はできないかな? この力が、ボク達には必要なんだ! 黄金でよければ、5キロでも10キロでも支払うよ」


 実際の所、この世界を抜けるのに絶対に必要なものではない。もしゲートが海中でも、リーリヤをゲートの傍まで連れて行って、階層を上る直前に渡せば、多少苦しむかもしれないが、次の階層には移動できる。


 だが、ルーラにとって、この異能は、いくら払ってでも手に入れたい物だった。物語世界は、人々の夢を形作ったもの。人の夢は、広大な海や、果てしない空、そういったものにこそ向けられやすい。必ずこの先、必要になってくると確信していた。

 

 その切実な願いに、リーリヤは、胸の前で合わせていた手を少し離した後、パチンと合わせなおして、答える。


「ゴメン! それは、お金の問題じゃないんだよね。材料がね、年に3個しか取れないの! それで、予約が20年先まで埋まってるんだな」


 フレアは、ルーラがこの異能を求める理由を理解している。当然フレア自身も強く欲している。――なにせルーラが溺死する姿を2度も見てしまったのだから。故に、無いと言われても諦められない。


「ちなみに、その材料ってのは、一体何なんだ?」


「特殊な珊瑚が、年に3個だけ小さな宝玉を作り出すの。名前は『珊瑚の珠玉』だね。今、その珊瑚が確認されているのは2か所。うち一か所は危険すぎて取りにいけないの」




 危険な理由について聞きだした後、リーリヤは、地上に向かう準備があると言って、部屋を出て行った。残された二人は、セディーラの書を取り出して、この世界の物語について確認中である。


 例え危険でも、取りに行く覚悟はある。しかし、その行動で世界が崩壊してしまえば、本末転倒なので、入念に確認する必要があった。


 ――言うまでも無いかもしれないが、セディーラの書は、水に濡れた程度で痛んだりしない。



 

 フワフワと室内を漂いながら読書していたルーラが、この世界の物語について語り始める。


「この世界は、人魚姫の世界だね。人魚姫と言えば、地上の男性との恋。そして……」


 フレアの世界にも人魚が登場する物語があった。その結末を思い出しながら、予想を述べる「悲恋か?」それに、ルーラはコクリと頷くことで答えた。そして、続ける。


「地上の男性に恋をした人魚姫は、王家の秘宝である『人化の宝玉』を使って人の姿になり、地上の男性と暮らし始めるんだ。――その時、姫は14歳。――『人化の宝玉』は、効果が5年で切れてしまう。――そして、19歳になった姫は、海底に戻る事になる」


 そこで一度区切ると、伏し目がちに、続きを述べる。


「幼かった姫は、後先考えなかったんだね。人魚と、人魚だった女性が、子供を産めるようになるのは20歳。――『人化の宝玉』は、入手困難な素材で作られていて、一個しかなかった。――愛する人との子が欲しいと願う、姫の願いをかなえようと、男はアンクレットを付けて海底に潜る」


「そして、命を落としたんだな……」


「まさにそれだよ。そして、男が求めた『人化の宝玉』の素材は『鋼刃鮫の瞳』ボク達が『珊瑚の珠玉』を取りに行いかなくてはいけない、海域を守っているのは鋼刃鮫」


「鋼刃鮫はクリエだから、倒さずに逃げ回りながら、『珊瑚の珠玉』を採取しなきゃいけないって事だな」


「うん。鋼刃鮫は、世界に一匹しかいないんだ。もし、命を奪えば、71階層の崩壊が確定するよ」


「………………………………。」


 少しの静寂の後、フレアは、不敵な笑みで問いかけた。


「行くんだろ?」「当然さ!!」


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