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74階層ー1

 物語世界75階層『地底人が創るハーレム物語の世界』を抜け出した二人は、74階層の世界に辿り着いた。




 そして現在、荒野の真ん中にポツンと存在する、地底へ向かう階段の前で途方に暮れている。今回のゲートは、その階段の下にあるのだ。


「これは、ちょっと無理じゃないか? どうやって進むんだ……」


 そう言いながら、フレアが近くに落ちていた、人の頭ほどありそうな石を階段下に向けて放り投げる。すると、階段の左右の壁から強烈な炎が噴き出した。その炎の熱は、階段から5メートルも離れていた、フレアの前髪をチリチリと焦がす。炎が消えた時、石はドロドロに溶けて地面を流れていた。


「うーん、厳しいよね。設定が『通り抜ける物、全てを焼き尽くす地獄の業火』だからね。ちょっと、作戦を考えるから待ってね」




 困った困った、と独り言ちながら、ルーラがセディーラの書を取り出して、読書を始める。フレアは、その隣に座って、良い案を出してくれるのを待つばかりだ。


 二人が辿り着いた74階層は、正統派のファンタジー。勇者が途中で出会った姉妹と共に、邪神を倒しに向かうという物語だ。なお、倒す物語ではなく、倒しに向かう物語である。


 それは、どういう意味かと言えば……。




「なあルーラ、この物語は最後で邪神に敗れて、続きを仄めかしながら完結するっていってたよな? それって続編が書かれたら、どういう扱いになるんだ?」


 この物語はハッピーエンドではない。邪神の居城に向かう道中で、仲間の姉妹の内一人が脱落する。その後、二人で邪神に辿り着くが、勇者は心臓を貫かれて命を失い、死にかけの仲間が、その姿を見つめながら意識を薄れさせていく。というところで最後の戦いが終わる。そして『勇者が倒れた時、一人の子供に勇者の紋章が現れた』という一言で物語は幕を閉じる。


 質問されたルーラは、読んでいるページに指を挟んで、栞代わりにした後、背表紙を開いて、暫し文章に目を通した。


「ん……あった。……えっとね、その場合は平行世界が生まれるんだって。1部が終わった時点で、ここの住民は自由意思で動き出すからね。整合性をとるため、そうなるんじゃないかな?」




 それだけ言うと、指を挟んでいたページに戻り再び読書に戻った。そして、暫くは、本をめくる音と風の音だけが聞こえていた。やがて、ポンッと本を閉じる音が響き、再びルーラが話し始める。


「あのね。主人公は、この階段を『守護の指輪』を装着して下っているんだ。その指輪の持つ異能は『絶対障壁』効果は10秒間、あらゆる攻撃を防ぐフィールドを展開。使用回数に制限はないけど、一度使うと5分は再使用できないって設定だね」


「じゃあ、それを手に入れれば、俺達もこの階段を下れるって事か?」


「そうなんだけど。この世界に3個しかないみたいなんだよ。それは全て勇者とその仲間の手に渡ってるんだ」


「だめじゃないか……、クリエだから襲って奪うってわけにもいかないしな。……まあ、できてもやらないが」


 落胆した声を出すフレアの肩に手を置いて、不敵な笑みを浮かべながら、ルーラが口を開く。


「それが、そうでもないのさ! とりあえず1個は、手に入れる算段がついたよ」





 それから二人は、三日かけて、とある場所まで来ていた。なお、道中アンデット系のモンスターが嫌になるほど襲ってきたが、難なくフレアが退けている。


 とある場所とは、背後には高さ30メートルもありそうな岩壁、足元には岩壁にへばりつくように作られた細い道。その細い道から一歩でも踏み外せば、さらに下にあるマグマの海に飛び込む事になる。


 マグマの熱で浮き出した汗を拭いながらルーラが告げる。


「そろそろ降って来るんじゃないかな? 準備しておいてね!」


 道中の街で購入したピッケルを岩壁に差して、それをしっかりと左手で掴んだフレアが「ああ、任せてお……あっ!」そう言い始めたのと同時に、大きな物体が上から降ってきて、マグマの海に落ちて行った。


 ……やばっ! 『戻れ!!』――頼む間に合ってくれ!!


 時間が戻った時、その物体はフレアの頭の高さを落下していた。すかさず手を伸ばし、その物体を捕獲する。軽くマグマの海に引き込まれそうになったが、フレアが想像していたより衝撃は小さかった。そのまま掴んだ物体を引き上げて足元に降ろす。


「いやー、ギリギリだったね! でも無事みたいで良かったよ!」


 そう話すルーラの足元には、猫の耳が生えた15歳程に見える少女が倒れている。その指には、二人が探し求めている『守護の指輪』が嵌められていた。



 この少女が脱落するシーンは、こう書かれている。


『無防備なミウに、水平に振るわれた巨大なハンマーが迫る。しかし、そのハンマーが捉えたのはミウでは無かった。ミウを守るべく飛び出したミヤが、身代わりにそのハンマーを体に受けた。小さなミヤの体は、高く放り出され、マグマの海に向かい真っ直ぐに落ちて行った』



 壁に打ち込んだピッケルを回収しながらフレアが話す。


「確かに死ぬとはどこにも書いてなかったけど、本当に助けられるとは思っていなかったよ」


 フレアは、そんな揚げ足を取るような行動が、本当に認められるのかと冷や冷やしていたが、助けてみれば、世界が壊れる事は無かった。


「まあ、クリエとしては死んだけどね。もう彼女に物語での役割は残されていないんだ。再び戦線に復帰する事は、世界の意思が絶対に許さないよ」


 ルーラはそう話しながら、落下してきたミヤに手をかざした。そして『ヒール』傷だらけだったミヤの傷が瞬く間に癒されていく。


 傷が癒えても、意識を取り戻さないミヤを背負って、二人は崖下を抜け出して、事前に見つけていた無人の炭焼き小屋を目指した。




 少し時間が流れて、現在は炭焼き小屋の中。


「というわけで、その指輪を俺達に譲ってくれないか?」


「嫌にゃ。ミヤは、邪神を倒しに行かなきゃならんのにゃ」


 二人は大いに苦戦していた。寝ている間に奪うという選択肢も有ったが、生真面目なフレアに、それを選ぶことはできなかったのだ。




 フレアが、我慢できずに小声で、ルーラに囁く。


「……なあ、こいつの語尾は何なんだ? ふざけているのか?」


 ルーラもミヤに聞こえないように小声で返答した。


「……フレア君、作者の意思なんだから仕方ないんだよ。彼女に罪は無いんだ。作者が語尾は『にょろ』だと決めたら、実際にそうなってしまうんだよ」


「おまえら、今ミヤの事バカにしなかったかにゃ?」


 動物の耳は、飾りでは無かったようだ。


 理解を得るために、物語世界の構造については話してある。どうやらミヤは疑う事を知らない性格のようで、言った事をそのまま信じてくれた。信じてはくれたが、それでも行くと言って聞かないのだ。行っても無駄だというのに。


 しかし、フレアとルーラにとっても、邪神の居城で戦う勇者達が持っている、二つ目の指輪は必要だった。結局ミヤにひきずられて、邪神の居城に向かう事になる。




 ミヤは最後の戦いに挑む道程で脱落している。それは邪神の居城のすぐ近くに居たという事に他ならない。3人はその日のうちに、辿り着く事に成功していた。


 邪神の城と聞いていたフレアは、西洋風の城を想像していたが、実際辿り着いた居城は予想と大きく違っていた。


 広大な敷地の中央に巨大な半球状の建物がある。ミヤの話だと、その中は一つの広大な空間になっており、邪神はその場所を動かないという話だった。そして、その半球を囲むようにリング状の建物が存在している。


 3人が辿り着いた時には時系列的にクライマックス。邪神の居城では最後の戦いが繰り広げられている頃だった。リング状の建物は既に勇者とミウが突破しているので、楽に通り抜けられるはずだったのだが、そう上手くは行かないようだ。




 壊された門の奥から、身長3メートルほどもありそうな、巨大なスケルトンが向かってくる。その手には、人では到底使いこなせないような長大な剣を握りしめて。


「おまえら、さがってるにゃ。ミヤが、守ってやるから後ろからでるにゃよ」


 フレアが止める間も無く、ミヤがスケルトンに攻撃を仕掛ける。ミヤの武器は両腕に付けた小手から生える鋭い爪。飛び上がりながら全身を弓なりにして、力を貯めたミヤは、両手の爪をスケルトンの右腕目掛けて叩きつける。


『ガッ』と硬い物同士がぶつかり合う音を立てて、スケルトンの腕が削れ、骨片が宙を舞った。すぐさまミヤは、スケルトンを蹴りつけ、反動で後ろに下がる。


「やっぱり、ラスボスを守るスケルトン兵は硬たいにゃ。腕がジンジンするにゃ」


「ミヤ君、もし良ければ……」 ルーラが話しかけるが、それを遮って、ミヤが叫ぶ。


「だーかーらー、こっちくんにゃ! 危ないって言ってるにゃ!!」


 言い終わると、再びスケルトンに攻めかかる。今度は下がる事無く、懐に入り込んで、次々と連続攻撃を行っている。絶え間なく細かい骨片が舞い散っているが、同時にミヤの体に細かな切り傷が目立ち始めた。




 ミヤの顔を立てて、後ろで観戦していたルーラがフレアに問いかける。


「フレア君、どう思う?」


 主語の無い質問に戸惑ったフレアは、やむ無く聞き返した「何の事だ?」


 ルーラは、その問いに答えず黙考を始めてしまった。あまりに真剣な表情で考え込むルーラの様子に、フレアは口を閉じて、ただミヤの戦いを見守り続ける。


 ミヤが息切れし始め、これは顔を立てるなどと言っている場合ではないと、フレアが思った時、ルーラが口を開いた。


「フレア君。バッドエンドは覆せないけど。少しは救いのある結末になら辿り着けるかもしれない」


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