信じる者の力
◎本日登場する敵:
☆邪教団メサイア
★大神官ハーデス
★神官(内通者)ロイド
★メサイア信者
時間は少し戻る。
アレン達がアターブ村を捜索中、マーカーはサリーと供に第7支部の不正の証拠を持って支部長室へやって来た。
証拠を突きつけられたクラウスは青くなった顔を俯かせて両肩を震わせていた。
そんなクラウスにマーカーは言った。
「音声だけでも十分な証拠になります、ウチの者が手を出したのは認めますが…… これは明らかな犯罪だ」
「ぐっ、ぬぬぬ……」
クラウスは身を震わせながら唸った。
まさかこのような事になるとは思わなかった。
実はメサイアのテロが起こり、自分達もデーモスを探したのだが1匹も捕える事が出来なかった。
状況を見てデーモスはメサイアの元にあると判断したのだが、肝心のメサイアの居場所が分からず、悩んだ末に考えたのが『自分達の代わりに探してくれる者』だった。
だが他の部隊に救援を要請した所で手柄が山分けになってしまうのは必至…… 丸々手に入れるには他の惑星の部隊、しかも横取りされても問題にならない『雑用係』が必要だった。
スター・ブレイズ隊がデーモスを探し、居場所を報告した所を武装した第7支部が総出でメサイアを撲滅する予定だった。
だがそうは上手くいかなかった。
マーカーは証拠の音声が録音されたライセンス・ギアを手に取ると懐に仕舞った。
「これは忌々しき事態だ。上層部に報告させてもらいます、ジンにはそれ相当の処罰が下るでしょうが…… 少なくとも貴方達にはさらに厳しい沙汰がくだろうでしょうね」
「ま、待ってくれ!」
クラウスは部屋を出ようと振り向いたマーカーとサリーを呼びとめた。
そして2人の前にやって来ると土下座をして頭を下げた。
「頼む、黙っててくれ…… 今回の事は全て無かった事にする、だからこの事だけは!」
クラウスは愛想笑いを浮かべながらマーカーを見上げた。
しかしマーカーは太い眉を吊り上げて眉間に皺を寄せて見下していた。
言わなくても分かる、明らかに答えは『NО』だ。
「いくぞ、サリー」
「了解」
サリーは答える。
暖房が効いているので寒くは無いのだが、自業自得とは言えクラウスは破滅する恐怖に怯えていた。
「そ、そうだ! 君達に毎月1千万ビアス払う! どうせ安月給で出世に縁が無いんだ。だったらこっちの方が……」
「ふざけるなっ!」
マーカーは振り向いて一喝する。
鬼の形相、咆える獅子と言わんばかりの迫力にクラウスは身をビク突かせて何も言えなくなった。
サリーも表情こそ変えていないが、目を見開いて驚いていた。
マーカーは大きく息を吸って吐いて気持ちを落ち着かせると再び口を開いた。
「……貴方も昔は純粋に平和を願っていたはずだ。その事を思い出してもう一度やり直せ、それが出来ないなら軍人を辞めろ!」
マーカーはそれだけ言うと支部長室を後にした。
扉が閉まる際、何もかも失ったクラウスは、全ての力が抜けてソファーに座って首を項垂れた。
フェニックスへ帰る最中、マーカーの後ろを歩いていたサリーが尋ねて来た。
「司令、1つ良い?」
「何だ?」
「今回の事、司令は気づいてた?」
「……さぁな、だがあいつがああ言った以上、何かあると思ったのは事実だ」
「どうして隊長をそこまで信用できるの? 確かに隊長は信用できるど…… いくら知り合いだからって100パーセントの保証は無い、と言うより私情で決めてるのは良く無い」
「別に私情って訳じゃ無いさ、ただオレも信じて見たくなっただけだよ」
「信じる?」
サリーは首を傾げた。
一方マーカーは鼻いながら笑うとふと目を閉じるとマーカーの脳裏にアレンと初めて会った時の事が浮かんだ。
10年前、前隊長アルフ・ブルースターが殉職、彼の葬儀が故郷であるエンフィールドのフィーンと言う町で行われた。
近隣住人に慕われていたアルフの葬儀には軍だけでなく町中の人達も賛同し、天さえも彼の死を嘆くように涙を流した。
勿論当時部下であったマーカーを含んだ前スター・ブレイズ隊員や、幼いアレンとルイスの姿もあった。
アルフとルイスの父ヴィーン・フォーネットは古い友人同士の為にアレンを家に預ける事が多かった。
周囲の人々の声がマーカーの耳に入った。
『勇者アルフ・ブルースターが殉職か……』
『まだ息子さんも幼いのに、可哀想に……』
『まだ遺体も見つかって無いんですって』
『部下を庇って亡くなったんですってよ』
『その部下も葬儀に参加してるらしいぞ』
アルフが庇った部下、それは他ならぬマーカー自身だった。
彼にとってこの状況は針のむしろであった。
軍人に取って『死』とは隣り合わせの者、どの様な理由であれ一度その職に付いた以上任務の最中に命を落とすのは珍しく無い、上層部や仲間達も『気にするな』と言ってくれたがマーカーの心に突き刺さった自責の念は抜ける事は無かった。
葬儀が終り、誰もいなくなった墓地にマーカーは1人でやって来た。
すると懐から一丁の拳銃を取り出すと右のこめかみに銃口を当てた。
理想の上司を失った悲しみと自責の念、そして死への恐怖とノコノコと生きている自分への怒りと絶望が心の中が埋め尽くされると震える右手の人差し指を引き金に触れた。
あとはこれを引くだけで終わる…… 目を閉じて意を決したその時、全く意識していなかった反対側の左手を誰かがつかんだ。振り向くとそこに立っていたのは幼いアレンだった。
マーカーは身を振るわせると銃が右手から滑り落ちてアレンに抱きついて泣き崩れた。
雨の音で鳴き声はかき消されたが、マーカーにとってはそれが生きて行く希望になった。
それからアレンはルイスの家に引き取られ、マーカーはかつて所属していた部隊に戻り懸命に働いた。
無論アルフへの償いの為であったが、それ以上に希望を与えてくれた恩返しでもあった。
決して多くはないが、せめて大学を出るまではと生活費を送り、休日になるとプレゼントを大量に買ってルイスの家に預けられたアレンを訪れて3人で遊んだ。
そんな暮らしが2年ほど続いたある日、アレンは今の養父の元に行く事が決まり、マーカーも再結成された新生スター・ブレイズ司令官への着任辞令が下りて宇宙へ飛ぶ事になった。
一通り回想が終わるとマーカーは足を止めて振り向くとサリーを見た。
「サリー、そろそろ『あれ』を届けてやれ」
「了解!」
サリーは敬礼するとマーカーを残して走って行った。
時は今に戻る。
アレンに殴られたロイドは右手で口元を拭いながら目を吊り上げてアレンを見た。
「な、何故分かった?」
「初めから信じて無かったよ、お前が同行するって聞いた時からな」
アレンは言った。
普通事件を起こした奴の所には誰も来たく無いものだ。
仮に上の命令だとしてもロイドは嫌な顔1つしなかった。
例え人間の出来た人格者だとしても怯えたりはするはずだ。
「確信行ったのは車内の連絡の時だ」
立ち上がるロイドにアレンは言った。
この村に立ち寄ると決めた時、ロイドはライセンス・ギアでメールをして連絡していた。
普通なら無線を使うはず、つまり聞かれてはいけない会話があると言う事だ。
「ちょっと待てよ、それってオレの連絡が邪魔になるからじゃねぇのか?」
「あのな、何で君に先に連絡させたと思ってるんだ?」
「……あっ」
ユウトは気が着いた。
ユウトがルイスに連絡を入れてる最中なら納得がいく、しかしロイドがメールで連絡を入れているのには理由があると思ったからだ。
何しろメールでは会話ではできない連絡も出来る…… 履歴さえ消してしまえばどこに連絡したかも分からない。
もしそれが『本部では無い所』だとしてもだ。
「大方森にデーモス探しに行かせた所を仲間達と狙って一網打尽…… まぁ、そんな所だろ、少し試したら案の定だ!」
アレンは言う。
すると他の仲間達は怒りに顔を歪ませながらロイドを見た。
「じゃあ、始めから私達を始末するつもりでしたの?」
「上手い話しには裏がある…… って奴だな」
「最低通り越して最悪っ! こいつ許せないっ!」
リリーナ、ユウト、アイファが身構える。
するとルイスは右手を懐に入れて拳銃を取り出すと銃口をロイドに向けた。
「ロイド大佐、貴方をスパイ容疑で拘束します!」
ルイスはロイドに向かって歩み出した。
全ての企みが暴かれて肩を落とし、首を項垂れるロイドにルイスが一歩一歩と近づいて行く。
だがアレンがルイスを止めた。
「待てルイス、まずは『お客様のもてなし』をしないと」
「お客様? ……あっ!」
ルイスは首を傾げると思いだした。
さっきのアレンが言っていた車の中でのロイドの『連絡先』だった。
アレンは息を吐くと目を吊り上げながら叫んだ。
「いるのは分かってる! いい加減に出て来い、メサイア!」
アレンが言うとそいつ等は現れた。
灰色のフード付きのマントを羽織り、その下の素顔には黒い楕円型のゴーグルの白塗りの仮面、首からはメサイアのメダリオンがぶら下がり、その手に剣や銃などを持って武装していた。
ざっと数えて60はいるだろう、建て物や物影から飛び出したメサイアの信者達はアレン達を取り囲んだ。
アレン達は敵に背を取られない様に互いに背中を合わせた。
援軍が来た事に勝利を確信したロイドは口元を歪めながら嘲笑った。
「ハハハハッ! 形勢逆転だな、落ちこぼれは落ちこぼれらしくしてれば楽に死ねた物を…… 感が良過ぎた事を恨むんだな!」
本性を現したロイドは大きく口を開けて下衆な笑い声を上げた。
そして手を上げると仲間達に言い放った。
「やってしまえっ!」
ロイドが命令するとメサイアの信者達は手に持つ銃の引き金に触れている右手人差し指に力を入れた。
だがそれよりも早くルイスのレーザー銃が火を噴いた。
ただ相手はテロリストである以上生身の人間なので致命傷を負わせる事が出来ず、圧縮されたレーザーは相手の肩や足を撃ち抜いた。
「うぐっ!」
「ぎゃあっ!」
「ぐわあっ!」
数人のメサイアの信者達は素顔こそ仮面で隠しているが悲鳴を上げた。
早討ちと正確な射撃だけならルイスの方が上だった。
「これ以上の抵抗は無意味よ! 大人しく投降しなさい!」
ルイスは目を吊り上げて言った。
だが銃で撃たれたはずのメサイアの信者達は虫でも払うかのように撃たれた箇所を手で払った。
良く見るとローブの撃たれた箇所は焼け焦げているのだが血が全く出ていなかった。
「なっ?」
スター・ブレイズ隊は目を見開いて驚いた。
特にルイス本人が1番驚いていた。
だがその訳は直ぐに分かった。
メサイアの信者達はフードを取るとその下には鈍い光沢を放つ鉛色のヘルメットを被っていた。
撃たれた者達もローブを引き千切るとその下に着込んでいた鉛色の鎧を露わした。
ナイトのようなパワード・スーツでは無いようだが、銀星系連合軍の技術で作られたレーザー銃を防ぐとなるとかなりの防御力を誇っていた。
するとロイドは鼻で笑った。
「馬鹿め、自分達がいつ間でも優秀だと思うな! 我等の技術も日々進化している…… さらに我々は神を超える力を手に入れたのだ!」
「神の力? 何だそれは?」
アレンは尋ねた。
しかしロイドはもったいぶる様に答えた。
「知りたいか? だが今更知った所で遅いわ! ここで全員ハチの巣になれ!」
そう言われてメサイアの信者達は再び武器を構えた。
一方アレンの隣にいたユウトは刀の柄を構えながら尋ねて来た。
「どうすんだよ隊長?」
「オレ達のやる事は変わらない、こいつ等を拘束してデーモスの居場所を吐かせる!」
アレンは言った。
するとロイドが噴き出しながらアレン達に指を差した。
「バカめ、これだけの人数にどうやって勝つと言うのだ?」
「勝てるね、オレは仲間の力を信じるっ!」
アレンはカッと目を見開いた。
そして最も信頼している『仲間達』に命じた。
「全員突撃、メサイアを倒せっ!」
「「「「了解っ!」」」」
スター・ブレイズ隊は四散した。
メサイアの信者達も別れた敵を追ってバラバラになった。
「くらえ!」
轟音を立てて飛びかかる銃弾の雨の中をアイファは棍をプロペラのように旋回させながら進んで行った。
メサイアの銃弾が全て叩き落とされ、一気に間合いをつめたアイファは棍を持つ手を引くと力強く左足を大地を踏みしめて腰を捻った。
「はああっ!」
アイファは渾身の力を込めて棍を突き出した。
体のバネを利用した棍の先端はメサイアの信者の仮面をブチ被って顔に深々とめり込んだ。
「ぐはぁあっ!」
メサイアの信者の棍が退くとその下の素顔が現れた。
その正体は青い瞳と白い肌の20代前半のエンフィールド人で、潰れた鼻から血が噴き出して歯が折れると白目を剥いて倒れた。
勿論アイファの攻撃はそれだけでは終わらなかった。棍の柄の部分に6つの亀裂が入ると内側から鎖が飛び出して七節棍になった。
そして七節棍を頭上で鞭の様に激しく旋回させると別の敵に向かって行った。
「やあああぁぁーーっ!」
アイファは叫びながら次々とメサイアの信者達を攻撃した。
アイファの七節棍は龍のごとく宙で舞うとメサイアの信者達を頭部を叩きつけた。
いくら防御を固めていても頭は生物共通の弱点、銀星系連合軍が開発した特殊金属スター・メタル製の棍に遠心力がプラスされた事で攻撃力は2~3倍に膨れ上がっていた。
「がはぁ……」
「うげぇ……」
「ぐがぁ……」
メサイアの信者達はたちまち脳震盪を起こすとその場に崩れ落ちた。
建て物の影に隠れたルイスは壁を背にレーザー銃を構えた。
そっと壁から顔をのぞかせると5~6人のメサイアの信者達が自分を発砲した。
慌てて顔を引くとレーザー銃を見た。
現在手元にある武器はこの銃一丁だけ、しかも相手に致命的なダメージを与える事は出来ない…… だが方法が無い訳では無かった。
「よし!」
ルイスは気を落ちつかせると目を見開いた。
銃弾が止んだ僅かな隙を狙うと一気に飛び出すと、その鋭く尖らせた大きな瞳を輝かせた。
狙う先は1つ、相手の急所でも急所以外の所でも無かった。無数に放たれたレーザーの行きつく先は相手の銃口の中だった。
「「「「「ぎゃあああっ」」」」」
メサイアの信者達の銃が暴発して粉微塵になって地に落ちた。
しかしそれだけでは無かった。
銃を持つ両手にはめているグローブは細かい動きを重視する為に…… その為に銃の暴発に耐えられず、布部分が弾け飛んでその下の皮膚を傷つけた。
骨折はしていないだろうが銃の金属片が突き刺さり、爆破の高温で酷い火傷を負ってしまった。
そして戦闘不能となった彼らにルイスが銃を向けるとメサイアの信者達は仮面越しに舌打ちをしながら肩を落とした。
ユウトは剣を持つメサイアの信者達を相手にしていた。
だがあろう事かユウトは敵に背を向けて逃げていた。
「逃がしはしねぇぞ!」
「待ちやがれ!」
メサイアの信者達はユウトに向かって叫んだ。
だがユウトは足を止める気配は無かった。何故ならこれはユウトの罠だったからだ。
メサイアの信者達も人間である以上足の速さは人それぞれ、つまり足の速い順番に自分を追い駆けて来ていた。
次第にメサイアの信者達が一列になるとユウトは左手に持った刀を腰に構え、右手で柄を握り締めると踏ん張って足を止めた。
そして180度向きを変えると足に力を入れて逆走した。
「無限心刀流・烈風斬ッ!」
まさに刹那の出来事だった。
ユウトは抜刀しながらメサイアの信者の間を駆け抜けながら抜刀した。
ユウトが立ち止まるとメサイアの信者達はまるで人形の様に固まって動かなくなった。
そしてユウトは深く息を吐きながら静かに刀を鞘に仕舞うとメサイアの信者達の剣が真っ二つに切り裂かれ、それと同時に上半身のローブやその下のアーマーも切り裂かれ、地肌に着込んでいた黒く袖の無いアンダー・シャツだけとなってしまった。
「うおぉっ?」
メサイアの信者達は信じられなかった。
銀星系連合軍のレーザー銃を跳ね返した頑丈な鎧を細く曲がった剣で切り裂かれてしまったからだ。
抵抗手段の無くなるとメサイアの信者達はその場に膝を着いた。
一方剣も銃も駄目となると次の手段は魔法だった。
メサイアの信者達は右手を広げると全神経を集中させた。
右手の中に集中された魔力が膨れ上がると目の前の敵目がけて解き放った。
「「「ファイザッ!」」」
メサイアの信者達の手から放たれたエネルギーが炎となり、尾を引きながらリリーナに放たれた。
だがリリーナは三つ巴を描きながら迫りくる炎を避けるどころか余裕と言うばかりに口の端を上げると左手を伸ばして叫んだ。
「ウォールドッ!」
途端リリーナの前に長方形の金色に輝く光の壁が現れるとメサイアの信者達の魔法攻撃を防いだ。
魔法障壁により火炎魔法が四散した事でメサイアの信者達は動揺する…… 一方リリーナは光の壁の向こう側で余裕の笑みを浮かべていた。
すると残された右手を広げると自分の魔力を集中させた。
「本当の魔法と言う物のは、こう言う物でしてよっ!」
リリーナの手の中の魔力が紅蓮の炎を纏うと右手を突き出して魔法を唱えた。
「メガ・ファイザッ!」
リリーナの右手の平からメサイアの信者達が唱えた魔法よりも強力な炎が噴き出した。
その桁違いの火炎魔法はメサイアの信者達の足元で爆発すると轟音を立てながら吹き飛んだ。
「「「ぎゃあああっ!」」」
メサイアの信者達は爆風で吹き飛ばされ、元いた場所に立ち昇っていた黒い煙が晴れると地面が隕石でも落ちたかの様に抉れていた。
「ひ、ひぃぃ!」
メサイアの信者達は腰を抜かして慄いた。
スター・ブレイズとの戦闘でメサイアの信者達は1人、また1人と倒れて行った。
メサイアはシルバー・クレストでも名の知れたテロ組織、ここにいる者達も末端ではあるが戦闘能力は決して低くは無かった。だがそれに関らずに戦況は劣勢だった。
数・武装供にメサイアの方が上、だがスター・ブレイズ側には一切被害が出ていなかった。
戦いは基本は数と力なのだが、それが全てでは無い、少ない武力が大軍に勝利する事はさほど珍しい事では無かった。
大軍は力押しは出来るが、その分隙が出来やすい、戦う者が少なければその隙を狙う事が出来た。
そしてなお且つスター・ブレイズ達は相性の良い敵と戦っていた。
身長が低く敏捷性の高いアイファが敵を翻弄、銃を使って来る敵には射撃の得意なルイスが対抗し、接近戦には宇宙一の切れ味を誇るジパーダ・ソードを持つサムライ・ユウトが相手をし、魔法攻撃にはエリート魔道士リリーナの魔法が炸裂する。
例え相手が重装備で攻めて来ようとも、相手が人間ならば問題はなかった。
「アイファ、あまり前に出るな! リリーナは魔力を温存するんだ。まだ増援が来るかもしれない!」
アレンは的確に指示を与えていた。
勿論アレンも得物の長剣を使い、アイファと同じく刀身を頭部に叩きつけて脳震盪を起こさせていた。
そして……
「オラァ!」
ジンの両手にはめた黒いグローブをギチギチと言う音が出る位握りしめると渾身の力を込めて突き出すと相手の腹部にめり込んだ。
勿論プロテクターを装着しているので攻撃は効くはずが無い、ジンの拳の方が壊れてしまった…… と思いきや、壊れたのはメサイアのプロテクターの方だった。
ローブ越しで確認こそ出来ない物の、バキバキと言う音を立てると腹部のプレートが砕かれた。
「ぐほぁあああっ!」
メサイアの信者は体をくの字にしながら吹き飛んだ。
そして地面に転がると慌てて仮面を外して胃の中の物をぶちまけた。
プロテクターのおかげで骨折はして無いだろうし内臓も傷ついてはいないだろう、しかし衝撃は伝わっていた。
「くっ…… こいつ、本当に人間かっ?」
メサイアの信者達はジンに怯えていた。
勿論他のスター・ブレイズのメンバーも警戒はしているが、ジンの場合は違う、何しろただの力任せだからだ。
隠す必要が全く無い、その圧倒的な戦闘力…… それがかつて最強と謳われた戦闘傭兵民族オーガの象徴だった。
しかしオーガと言えども人間は人間、弱点が無い訳では無かった。
ジンの遥か後方の民家の屋根の上で黒い銃身のライフルを構えたそのメサイアの信者がジンの頭部を狙っていた。
「化け物め、死ね!」
ライフルのスコープがジンの頭を捕えるとメサイアの信者は引き金を引いた。
銃口が火を噴くと大型のライフル弾が放たれて空気の壁を貫きながらターゲットへ向かって飛んで行く、だがそれをアレンが見ていた。
「ジン、危ない!」
アレンはジンの前に出ると両手を広げてジンを凶弾から庇った。
「がは……」
アレンの左胸に風穴が空くと体を仰け反らせた。
「なっ?」
「アレンっ!」
ジンは目が見開き、ルイスは叫んだ。
ユウト、リリーナ、アイファもアレンを見た。
いくら戦況が優勢でも頭は1つ、指導者を失ってしまえば敗北は確定だった。
アレンがやられた事にロイドは大きく声を上げて笑い始めた。
「アハハハハッ! おろか者め、部下の1人や2人見殺しにすれば良い物を、命を粗末にしやがって……」
静まり返った村の中でロイドの笑い声が響いた。
アレンは糸が切れた人形の様にグラいて地面に崩れ落ちた…… と思いきや、左足を踏ん張って倒れるのを防ぐと目を吊り上げると左手が左腰のホルダーのレーザー銃を引き抜くと自分を撃った敵に向かって発砲した。
「ぎゃああっ!」
メサイアの信者は右肩を撃たれると屋根を転がって地面に落ちた。
「痛っつぅ~~~……」
アレンは顔に脂汗を滲ませながら得物を持ったままの両手で撃たれた左胸を抑えた。
敵味方問わずに信じられなかった。左胸を撃たれて生きてる者などいない、だが良く見ると服から血が出ていなかった。
「お前、なんで……」
ジンは尋ねて来た。
アレンは右手の長剣を地面に突き刺すと上着を脱ぎ捨てた。
なんとアレンは制服の下に防弾チョッキを着ていて、左胸にライフル弾がめり込んでいた。
「フェニックスの格納庫に置いてあったのを借りて来たんだよ、これが無かったら二階級特進だったよ……」
アレンは苦笑する。
だが、本人は冗談のつもりでも周囲は笑える状況では無い、特に庇って貰ったジンにはだ。
ジンはアレンの胸倉をつかみ上げて怒鳴りつけた。
「馬鹿野郎! 何でこんなくだらねぇ真似しやがんだ! 俺の命よりテメェの命の心配しやがれ! 頭湧いてんじゃねぇのか!?」
「……分かって、無い?」
アレンの顔から笑みが消えた。
すると歯を軋ませると眉間に皺を寄せ、右手を伸ばしてジンの胸倉をつかみ返した。
「分かって無いのはお前の方だ!」
アレンは怒鳴り返した。
途端ジンは息を飲んで両肩をビク突かせた。
それは他の者達もそうだった。何しろアレンが怒鳴った所など見た事がないからだ。
「くだらない命なんてこの世には無い、お前も今ここで生きてるならその命を大切にしろ! そんなの、このオレが許さない!」
「ああっ? テメェの命1つ守れねぇ奴が偉そうに説教たれてんじゃねぇぞ! 他の奴等が迷惑する事が分からねぇのかッ?」
「迷惑なのはお前の方だっ!」
アレンがそう言うと今は亡き父の事を思い出した。
実はアレンはアルフの事を嫌っていた。
勿論一度任務で出かけると中々家に帰って来れず、帰って来たとしても直ぐにまた出かけてしまい、挙句の果てには誕生日すら一緒に祝って貰えた事が無かった。
よってルイスやルイスの家族と一緒にいる事の方が多く、父が殉職した時も悲しいと言うより不満の二文字が大きかった。
葬儀の時は我慢していたが、幼い頃に母が物心つく前にいなくなり、街の人達も散々悲しませ、そして何より息子の自分を残して逝ってしまった事にアレンは文句を言ってやろうと誰しもが寝静まった夜にルイスの家を出て墓地へ向かった。
絶対に賢く生きてやる、普通の家庭で普通の生活をして長生きしてやる、そう言ってやらなければ気が納まらなかった。
夜の墓地は子供の頃のアレンには不気味で恐ろしかったが、父の墓前で自殺しようとしているマーカーを見た時、アレンは思わず止めていた。
その時にアレンは2つ気付いた事があった。
それは自分もアルフと同じく人を見捨ててはおけない事、そして誰かがいなくなって1番苦しむのはその人を大切に思っていた人だと言う事をだった。
それを踏まえて誓った。マーカーの様な人を絶対に出してはいけないと言う事、その為に自分が戦うと言う事を……
「誰かが犠牲になって助かって、それで1番苦しむのは助けてもらった方だ。オレの前で二度と言うな! それが何よりの迷惑だッ!」
「………」
アレンはジンを強く見つめるとジンは何も言えなくなった。
すると心の奥底から熱くて震える物が浮かび上がってきた。
今まで自分を同列に見てくれる者などマーカーだけだった。しかしマーカーの場合庇ってくれる事はあってもそれ以外は良く言えば自由、悪く言えば放置だった。
だがアレンは毎朝毎朝懲りもせずにトレーニングを誘いにきたり、こうして自分を怒鳴ってまで止めてくれた。
次第に右手がアレンの胸元から外れるとアレンも逆にジンの胸元から手を離した。
「ジン、改めて頼む、力を貸してくれ…… 君の力が必要だ」
アレンは言った。
するとジンはアレンから目を反らして仲間達を見た。
自分達が口喧嘩をしている間メサイアと応戦してくれていたのだが、仲間達も疲労が顔に出ていた。
いくら個人の能力が高かろうと人間だ。動き続ければ体力に限界が出て来る…… 持久戦に持ち込まれたら厄介だった。
ジンは舌打ちをすると両手の指を鳴らし始めた。
「……俺は俺のやり方でしかやれねぇぞ」
「ああ、構わない」
「また嫌な奴等に頭下げるかもしれねぇんだぞ」
「それがどうした?」
「それで良いってのか?」
「隊長だからな!」
「フンッ、勝手にしろ!」
「勝手にするッ!」
アレンが鼻で笑うと2人は再び戦火の中に飛び込んで行った。
アレンの剣が空を斬り、ジンの拳が唸りを上げる…… 2人は片っ端からメサイアの信者達を倒して行った。
「す、すげぇ……」
ユウトは呆気に取られた。それは他の者達も同じだった。
何しろ2人供小細工が無く、真っ向から撃退して行ったからだ。
怪物が2人になった事でメサイアの信者達の数はさらに激減した。
死人こそ出ていないがメサイアの信者の半数が倒されて地面でうめき声を上げ、残された者達は力の差を見せつけられて戦意を喪失しつつあった。
「ク、クソっ! もう駄目だ!」
「こいつら強すぎる!」
「逃げろ!」
「あ、待てお前等!」
そして背を向けて逃げようとするメサイアの信者達にロイドが手を伸ばした。
だがその時、彼等の数メートル先に赤く輝く五亡星の描かれたサークルが浮かび上がると中央からある人物が現れた。
単眼のゴーグルに鈍く光る白銀の仮面、白いフード付きの半袖の膝の足首まであるローブと黒いブーツ、半袖の下の腕には中指のリングと一体化したアーム・ソックスを付けていて、右手には二又に別れた柄の短い音叉の様な杖を持っていた。
「お前達、どこに行くつもりだ?」
その者は野太い声で言った。
すると今まで恐怖で怯えていたメサイアの信者達は口数を揃えてその者の名を叫んだ。
「おお、ハーデス様!」
「大神官ハーデス様っ!」
メサイアの信者の声に生気が戻った。
それを見たスター・ブレイズ達は突如現れた新たな敵に目を細めると息を飲んで身構え直した。
7話目です。
少々長くなってしまいましたが、お楽しみいただけたら幸いです。
ご感想、ご意見お待ちしております。