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STAR・BLAZES  作者: 水無月 明
第1章,星の精鋭達
6/21

信頼と疑惑

◎本日登場の敵:

☆メサイア

★メサイア信者スパイ

★デーモス(写真)

 現場の状況からして先に手を出したのは明らかにジンだった。

 幸い被害を受けた第7支部の軍人達の怪我は大した事は無いのだが、それでもスター・ブレイズの不祥事と言うのは紛れもない事実だった。

 アレンとルイスはジンを連れて支部長室に戻ると直ちにバーンズに謝罪をした。

 目の前のソファーには怒りに顔を歪ませたクラウスが腕を組みながら座り、横にはロイド、そして手当てを受けた2人が並んでいた。

 するとクラウスは両腕をテーブルに叩きつけるとアレン達を怒鳴りつけた。

「一体どうなってるんですか、貴方達の部隊はっ!?」

「申し訳ありません、自分の監督不行き届きです」

「問題の多い部隊と聞いていましたが、ここまで酷いとは思っていませんでした。何もしていない我が支部の隊員達に暴力を振るうとは……」

「本当に申し訳ありません、ジンも謝りなさい!」

 ルイスはジンを見る。

 しかしジンはポケットに手を入れたまま顔を背けていた。

 あまりにも態度が悪過ぎる、その顔には反省の『は』の字も見当たらなかった。

 その態度にクラウスはおろかルイスの怒りも頂点に達し、小さな肩が震えると細くて長い眉を吊り上げてジンに叫んだ。

「ジンっ! いい加減に……」

「よせ、ルイス少尉!」

 アレンはルイスを止めた。

 止められたルイスは気持ちは収まらないが隊長の命令である以上逆らう事が出来ず、忌々しそうに口を紡いだ。

 アレンは一間置くと軽く深呼吸をし、深々と頭を下げてバーンズに言った。

「この度の事は隊長である自分の責任です。返す言葉もございません」

「そう言う問題ではありません! これは規律違反を通り越して立派な犯罪です、お前達も何か言いたまえ!」

 クラウスは被害者の部下達を見た。

 すると部下達は一瞬何か言おうとしたが突然口を紡いで目を反らした。

 その事に疑問を抱いたクラウスは眉間に皺を寄せて質問をした。

「どうした?」

「い、いえ、別に……」

「お前達は被害者なんだぞ! ハッキリ言ったらどうだ? この落ちこぼれ達の責で酷い目にあったってな!」

「は、はぁ……」

「ですが……」

 部下達はいまいちハッキリしない返事をする。

 一方ルイスはクラウスの発した落ちこぼれ『達』と言う言葉に顔を顰めた。

 あくまでも事件を起こしたのはジンだ。それは自分も認めている、しかし今の言葉では部隊全体への悪口にしか聞こえなかった。

 ルイスは食ってかかろうとするが、アレンが左手を伸ばして制した為に再び口を紡いだ。

 するとロイドが隊員達とクラウスの間に割って入った。

「支部長、もうその辺で…… 今は揉めている場合ではありません」

 ロイドが言うとクラウスはまだ言い足りないと言わんばかりに歯を軋ませるが、深くため息を零すとアレン達に言った。

「まぁ、良い…… この事は少し置いておきます。しかしこの責任は必ずとって貰いますからね」

「はい、誠に申し訳ありませんでした」

 アレンは頷くとルイスも頷いた。

 しかしジンだけは仏頂面をしているだけだった。


 アレンはフェニックスに戻った。

 待っていたのは騒ぎを聞きつけて頭を抱えていたマーカーだった。

「ジン、またやったのか……」

 マーカーは呆れてため息を零した。

 勿論他の隊員達や職員も良い顔はしていなかった。

 明らかに噂の周りが早すぎる、恐らくクラウスが振りまいているのだろう、アレン達もここに来るまで第7支部の者達に冷たいを通り越し、まるで汚物を見るような目で見られていた。

 しかし起きてしまった事をいつまで言っていても仕方が無い、マーカーは気を取り直すとルイスに依頼の詳細を尋ねた。

「ルイス、皆に説明してくれ」

「了解」

 ルイスは頷くとライセンス・ギアを自分の机に繋いだ。

 すると第7支部よりあずかって来たデータが各自の机の画面に映し出された。

 隊員達は自分の席に着いて画面を見た。

 画面に映っていたのは3つ、メサイアの紋章と今収容されている人達の写真と1匹の毒蛾の写真だった。

 毒々しい紫色に無数の目玉が生えた様な4枚の羽根と4本の触角を持つ蛾だった。

 それが現在この第7支部を騒がせているデーモスだった。

「今回の奇病の原因が人工的に行われた事、そして根源はメサイアにあると言う事です」

「って事は、アタシ達の役目はメサイアの撲滅?」

「あ、違うの、私達の目的は……」

 ルイスは話した。

 内容を聞いた瞬間、他の者達の眉間に皺が寄った。

「はぁ? 昆虫採集?」

「人聞きの悪い事を言わないの、正確に言えば血清を作る事よ」

 ルイスは説明の補足をする。

 デーモス病を治すには血清を打ち込む他は無い、しかし血清はベルシエールには存在せずエンフィールドから送って貰もらうしかなかった。

 現在エンフィールドの銀星系連合軍の医療施設でも大量生産が行われているが、ワープ装置を使ってベルシエールに送り、各医療施設まで運ぶのには軽く見積もっても4~5日はかかるのだと言う。

 収容されている患者の数とタイムリミットを考えると助かるのはおよそ半分以下、特に体力の無い年寄りや子供を考えると現地でも血清を作った方が良いと第7支部は結論を出した。

 ルイスは次に血清の作り方を説明した。

「血清の作り方はそんなに難しくは無いの、ただ作るにはデーモスの血が必要らしいの」

「最終的に同じだろ、単に雑用押しつけられてるだけじゃねぇのか!」

「私も、他の部隊の厄介事なんて気乗りしませんわ」

「でも私達に断る権利は無い」

 サリーは言って来た。

 スター・ブレイズに寄せられる指令は軍上層部によって決められて送られて来る、銀星系連合軍に所属している者は余程の事が無い限りは上層部の決定に逆らう事は許されない。

 さらに今回はジンの暴力事件もある為、解隊とまではならないだろうが、逆らえばスター・ブレイズ隊の信頼はさらに落ちてしまう。

 しかも勿論自分達の問題だけでは無い、この第7支部では今もなおデーモス病で苦しんでいる人達がいる、彼等を見捨てる事は決して許されない事だ。

「アタシは行く、そんでアレンさんと一緒にあばんちゅ~るな一時を過ごすのよ~」

 するとアイファは踊るようにアレンの右に立って腕を組んだ。

 それを見たリリーナは細い眉をヒクつかせ、アイファの反対側に回ると自分の腕をアレンの腕に回して引っ張った。

「隊長は私と捜索に出かけるのですのよ、貴女の出る幕はありませんわよ」

「何よ! アンタ行きたくないって言ったクセに!」

「別に行かないとは言っておりませんわ、それに乳臭い小娘とデートなんて100万年早いですわよ、昆虫採集など1人でやってなさいな」

「何が乳臭いよ、アンタこそ1人で行きなさいよ! そんな臭い香水付けて歩いてれば蛾の1匹や2匹寄ってくんじゃないの?」

「2人とも、遊びに行くんじゃないのよ!」

「じゃあ血清を作る準備はこちらでしておく、お前達は直ちにデーモスの捕獲に向かってくれ」

「お前達もって、まさかジンもですか?」

 ルイスは不思議そうに顔を顰めながらジンを見た。

「ああ、第7支部からの要望でな、1人だが参加してくれる事になった」

 マーカーは頷きながら言って来た。

 だがそれには誰もが納得できなかった。

「待てって、また問題起こすかもしれねぇぞ」

「アタシも~、とてもじゃないけど信じらんな~い」

「任務の効率を考えると…… 連れていかないのが得策」

「どうせまた何かやらかすにきまってますわ」

「そうです、規律違反なんですから処分が決まるまで謹慎にするべきです」

 ルイス達はジンの参加を否定する。

 今に始まった事ではないが先ほどの事もあるので風あたりはさらに強かった。

 肝心のジンは顔色1つ変えずに腕を組んで立っていたが、そんな中1人だけ彼の味方をする者が現れた。

「いや、参加させよう」

 アレンはリリーナとアイファの手を払うとジンの側までやって来ると庇う様に言った。

「隊長、本気ですか?」

「ああ、今はデーモス捕獲の為に人手が必要だ」

「アレン様、そう言う問題じゃ……」

「オレが責任を取る」

 アレンはリリーナの言葉を遮ると今の言葉に誰しもが口を紡いだ。

 指令室に刹那の沈黙が流れるとアレンは軽く息を吐き、野太い少し眉を吊り上げて言った。

「もしジンが問題起こしたら…… オレは軍を辞める」

 最早誰も何も言えなくなった。

 ジンもまさかこんな事になるとは思わなかったのだろう、目を見開いて驚いていた。

 それを聞いたマーカーはしばらくアレンをジッと見つめていたが、やがて口元を緩めて言い返した。

「分かった。隊長はお前なんだし、お前の好きにやると良い」

「し、司令っ?」

「アレンの言う通りだ。謹慎や処分なんて後でも出来る、今はオレ達のやるべき事をやるだけだ」

 マーカーの言葉に反対していた者達はぎこちないながらも納得した。

すると一間置くと席から立ち上がったマーカーは改めて部下達に命令を下した。

「直ちにスター・ブレイズ隊は第7支部の協力者と合流し、デーモスを捕獲しろ、時は一刻を争うぞ!」

「「「「了解」」」」」

 アレン達は敬礼をした。


 任務を受けた隊員達は指令室を出ていく中、アレンはサリーを呼びとめた。

「あ、サリー、君は残ってくれ」

「なぜ?」

「司令と一緒にデーモスの血清を作る準備をして欲しいんだ。それと1つ調べてもらいたい事がある」

 アレンは口をサリーの耳元まで近付けて呟いた。

 

 フェニックスの格納庫の扉が開くと収められていた2つの装甲車が出発した。

 白銀の車体に前輪4つ後輪4つのゴムで作られた丈夫なタイヤ、6人は登場できるスペース、屋根には2重砲の高射砲、荷台にはマシンガン搭載のこの車は銀製系連合軍の戦闘装甲車『バッファロー』だった。

 1台目にはルイス・アイファ・リリーナが搭乗し、2台目にはアレン・ジン・ユウト…… そして目付役のロイドが搭乗すると第7支部を後にした。


 2番目を走っていた車の中でルイス達が言って来た。

 後部座席に1人で座っていたリリーナは腕を組み、細めた目で外を見ながら愚痴を零した。

「はぁ、どうして私が庶民2人と…… 私はアレン様と行きたかったのに」

「アタシだって、何でオバさんかなんかと~」

 助手席に座っていたアイファが両手を上げた。

 するとリリーナは目を吊り上げながらワザとらしく言い返した。

「あ~ら、嫌なら降りてもらっても構いませんのよ、ルイスは運転手だから良いとしても、山猿の小娘がいなくなるのは清々しますわ」

「アンタが降りりゃ良いでしょ、余計な贅肉付いたアンタが乗ったら車が可哀想よ!」

「お、大きなお世話ですわ! ……そりゃ、2キロ増えましたけど」

「ププッ、太ったんだぁ!」

「うるさいっ! 上も下も真っ平らの小娘に言われたくありませんわっ!」

「そんな事無いわよ! 出てる所はちゃんと出てるもん!」

「2人供いい加減にして! 今は喧嘩なんてしてる場合じゃないでしょう!」

 運転していたルイスが一喝する。

 ルイスの怒りに両肩をビクつかせる2人は口をへの字の曲げながら目を反らした。

 明らかにいつものルイスと違っていた。いつもは呆れながら仲裁して来るのだが、今回は虫の居所が悪いようだった。

 するとルイスはため息を零すとずっと気になっている事が頭に浮かんだ。

(アレン、何を考えてるの?)

 アレンがジンを庇った事にルイスは胸騒ぎがしてならなかった。

 騒動を起こしたのはジン、しかも普段の行いや協調性も見られない態度にルイスにも一抹の不満はあった。

 それでも隊の存続や他の部隊や被害者達に謝罪するマーカーの姿を見て我慢をし続けてきたのだが、ルイスも人間である以上は限界と言う物がある。

 以前ジンの存在は明らかに部隊の士気や名前に関わる、どうにかするべきだとマーカーに助言した事があった。

 だがマーカーは……

『その人間にはその人間の考えや人生がある、ここの連中は皆そうだろ…… 無理に1つにする必要はない』

 と言い返した。

 言いたい事は分かる。

 ただ組織に属している以上は銀星系連合軍の規律や信頼は何よりも大事だった。

 だがアレンはそれらよりもジンを優先した。それが気がかりでならなかった。


 その頃、戦闘を走っていたバッファローの中は険悪で重苦しい雰囲気が漂っていた。

(やべぇ…… なんなんだよこの空気)

 助手席に座るユウトは刀を肩にかけて車内の空気に耐えきれず、亀の様に首をすぼめていた。

 自分が何とかしなければならないのは分かっている、だがアレンはジンを一方的に庇っているし、そのジンも刺激すればこれ以上何をしでかすか分からない…… さらに被害者の第7支部のロイドも下手な言い訳をしようものならさらに無理難題を押し付けられるのは火を見るより明らかだ。

 今は見守るしか無かった。もし身内に過ちがあれば自分が何とかするのが正しい…… しかしユウトは経験豊富な年長者のマーカーと違い口が回らない、ましてアレンの様にジンを強く信じていない。

 隊長を助けたい、部隊も助けたい、そして第7支部との信頼を回復したい…… 全部できれば最高なのだが、ユウトにはその自信が無かった。

 そんな事を考えている時だ。意外な人物が意外な言葉を言って来た。

「すみませんでした」

「えっ?」

 ユウトは後ろを見た。

 ロイドが軽く頭を下げていた。

 そして一間置くと再び口を開いた。

「お気を悪くして申し訳ありません、支部長はああ言っていましたが、悪気があった訳ではありません」

「ああ、それは別に…… 大体こいつに問題があったんですから、何言われても仕方が無いですよ、そうっスね? 隊長っ?」

「……ん? ええ、まぁ」

 アレンは素っ気ない態度で即答する。

 明らかにいつものアレンの反応とは違っていた。

 アレンは正義感が強くて不正や悪事を許さないが、気さくで誰に対してもわけ隔てなく接している。

 G・S・Bの戦いの後でもアレンはモラウス支部の者達からはまるで昔からいる友人の様に扱われ、スター・ブレイズに配属してからは僅か2日で艦内のクルー達から家族の様に溶け込んでいた。

 そんなアレンがロイドと距離を置いている、まして抉れた状況を何とかする訳でも無い、この状態を維持している様だった。 

「あ、そうだ。少し寄り道させてもらってよろしいですか?」

「寄り道?」

「必要な事なんです…… 是非デーモス病にあった村をこの目で見たいんです、本部へも報告してください」

「それなら資料にあった事を……」

「手間は取らせません、それに事件に関わってる以上は僅かな望みも捨てたくは無いんです」

 アレンは強く押す。

 するとロイドは顔を曇らせて少し考えると息を吐いて頷いた。

「……分かりました。では本部に報告しておきましょう」

「ありがとうございます…… ユウト、ルイスに目的地を変更するって連絡を入れてくれ」

「あ、はい」

 ユウトは頷くと懐からライセンス・ギアを取り出した。

 アレンはバック・ミラー越しにライセンス・ギアを取り出してメールを打ち出しているロイドを見て目を細めた。


 バッファローを飛ばして約1時間後、アレン達は1番近いアターブ村へやって来た。

 ここは3番目に被害にあった村で、普段は人工50人程度の小さな農村なのだが、現在は村人や家畜全てがデーモス病に感染してしまった為に無人の村と化していた。

 だがアレン達は村に入る前にまず入り口である門を調べた。

 ベルシエールの村や町等にはモンスター避けの結界が施されている、かつては結界を操る魔道士が数人いて、魔力を込めた札を町のあちこちに貼りつけて魔法を発動してモンスターの侵入を防いでいた。

 しかし銀星系平和条約が結ばれた今では門の頂に魔力を込めたジェネレーターを設置し、囲いを伝って町全体を守る様にしている…… 一行は門を潜ると近くに建ててある管理事務所へやってきた。

 その中でルイスがコンピューターを起動させるとシステムを開いて画面に村全体の地図が映し出され、門と囲いの部分が青く表示されていた。

 アレンが隣で目を細めながら見ていると後ろにいたユウトが言って来た。

「なぁ、隊長、こんな事してる場合じゃねぇだろ? 時間の無駄だって」

「アレン少尉、システムの方はすでに我々が調べました。システムにも何ら以上はありませんでしたよ」

「すみません、少し気になる事がありまして……」

「気になる事?」

「ええ、ですので1時間…… いえ、30分で構いません、民家の方も見せて貰ってよろしいですか? 勿論ジンも連れていきます」

 アレンは壁に背をかけて腕を組んでいるジンを見る。

 ロイドはアレンの言っている意味が分からずに顔を顰めたが、しばらく考えると頷いてこれを承諾した。


 管理所を出たアレン達は手分けをしながら片っ端から民家を見て回った。

 木造の2階建の多いこの村の…… ほぼ空き家同然となった民家はデーモス病にかかった当時のままとなっていた。

 台所の床には割れた皿やナイフやフォークなどの食器が散乱し、他の部屋ももがき苦しんだ際につかんで破れたのだろう引き千切られたカーテンや、元々は綺麗に活けてあった花が花瓶ごと床に倒れて枯れていた。

 厩舎も物家の空となっていた。デーモス病に感染した家畜は全て死に絶えてしまい、死骸は第7支部が全て片付けてしまったからだった。

 2階に上がってもほぼ同じ状態だった。家主の寝室であろう部屋にやって来るとベットの布団が乱れて家具が散乱していた。

 子供部屋も似たような状態で、飾ってあった玩具やぬいぐるみが床に落ちていた。

「酷い、こんな子供の所にまで……」

 ルイスは落ちてあった熊のヌイグルミを手に取って顔を顰めた。

 テロリストに『女子供を狙うな!』と言うのは無理な話、しかし力無き者の生活を脅かして苦しませる権利は誰にも無かった。

 アレンは壁の方を見る、ジンは相変わらず壁に背をかけているが、今回は鋭い目を余計に鋭くしていた。

 その目線の先にはユウトが持っているぬいぐるみがあり、それを見ながら眉間に皺を寄せていた。

 

 村中探したが結局は何の手掛かりも得られず、約束の刻限を迎えるとアレン達は本格的にデーモスの探索に乗り出す事になった。

 停車してあるバッファローの場所まで戻って来ると1号をアレンが、2号をルイスがドアのロックを解除した。

するとルイスの後ろでアイファが両手を上げながら言って来た。

「結局無駄だったね、デーモスの手がかりも無かった」

「大人しくデーモスの捕獲しときゃ良かったんじゃ無ぇのかよ、隊長?」

 仲間達もアレンに愚痴を零し始めた。

 いくら隊長の命令とは言え、関係の無い場所に引っ張り出され、結局無駄足で終わったのはさすがに骨折り損のくたびれ儲けだった。

 決して疑う訳でも信用して無い訳でも無い…… ただ自分達の中にアレンへの不満の影が生まれたのは事実だった。

 しかしアレンはそんな事を気にしないと言わんばかりに答えた。

「……いや、無駄じゃ無かったさ、収穫はあった」

「どう言う事ですの?」

「そうだよ、もったいぶって無いで教えてくれよ!」

「自分も、納得のいく説明が欲しいですな」

 ロイドが会話に加わる。

 最早我慢の限界だったのだろう、目を吊り上げながら言って来た。

「何度も言いますが、被害にあった村や町は全て第7支部が調べました。これ以上の我儘は我々への冒涜とみなされても致し方ありませんよ?」

 自分の目で確かめたいと言う気持ちは分かる、しかし自分達の管轄内での仕事に落ち度があったと疑われているようで良い思いはしないのだろう。

 ロイドの説教にルイス達は顔を顰めて肩を落とした。

 これでは折角険悪だった第7支部の…… 唯一の味方と言える人間さえも敵に回してしまう事になる。

 するとアレンは深く息を零して言って来た。

「じゃあ少し早いけど言いましょうか? 演技は止めろってね」

「えっ?」

 アレンはロイドに向かって身構えた。

「た、隊長?」

「なっ、アレン少尉っ?」

「資料でも見せてもらったけど、調べてた民家から金目の物が消えていた。明らかにおかしい事だ」

「いあ、おかしくねぇだろ、メサイアの仕業じゃねぇのか?」

「違うな、メサイアの目的がテロ行為なら、金目の物は狙わない…… いや、そんな暇が無いはずだ」

 アレンは言った。

 通報を聞きつけて第7支部が駆け付けた時には村人全員が感染されていた。

 デーモスは元々人間の掌ほどの大きさしか無いモンスター、いくら鱗粉に猛毒が含まれていると言えど、1匹1匹が出す鱗粉の量などたかが知れている。

 しかもその鱗粉は直接触れなければデーモス病にはならないので空気感染の可能性も無い…… しかもデーモスは人間と違いコミュニケーションが取れず、勝手に飛び回ってしまう以上感染され無い人間が存在しても不思議では無い。

 しかもまだある、それはモンスター避けの結界装置が無事だったと言う事だ。

「メサイアが外からデーモスを放とうものなら結界に阻まれて入れないはず、仮に何らかの方法でデーモスを侵入させたとしてもこれだけの大きさの村人達を感染させようものなら、軽く見積もっても30万~40万匹以上の数が必要となる、大きな町となるとその倍は必要だ」

「確かに…… それだけいると、デーモスの回収が忙し過ぎて強盗どころじゃありませんわね」

「ちょっと待ってください! 我々がやったと言うのですか? 無礼にもほどがありますよ!」

「メサイア以外の健康状態で、しかも村や町を自由に動き回れるのは、貴方達第7支部だけだ」

 アレンは人差し指を向けた。

 他の仲間達もロイドを見ると顔を強張らせた。

 するとロイドはしばらく口をへの字に曲げて黙っていたが、やがて眉間に皺を寄せると息を零しながら言って来た。

「全く、部下が部下なら隊長も隊長ですね、暴力だけでなく我々を泥棒扱いなど…… 大体証拠があるのですか?」

「そ、そうだよ、ショーコが無いよ!」

 アイファも慌てながらアレンを見た。

 確かに決定的な証拠が無い限りアレンの推理は推測でしか無い、確証も無い疑問や疑惑は返って自分の首を絞める事になる。

 ただでさえ信用の薄いスター・ブレイズ隊の立場はさらに悪化してしまう。

 皆が心配そうにアレンの方を見つめる、アレンは怯む事無く口を開いた。

「証拠ならありますよ」

「何っ?」

「そうだろ? ジン」

 アレンはジンを見た。

 他の者達がジンを見るとジンは鋭かった目が丸く…… と言うより元が元なのでラグビーボールのようになった。

 するとジンはアレン達から目を背けた。

 一間置くとルイスがアレンに尋ねた。

「隊長、どう言う事ですか? 何か関係があるんですか?」

「そうだな、頼んでおいた物が来てくれれば早いんだけどな……」

 アレンが言いかけた時だ。アレンのライセンス・ギアに通信が入った。

 それはフェニックスに残して来たサリーからだった。

「ナイスタイミング」

 アレンは通信を繋げた。

「サリー、何か分かったか?」

『隊長の言う通りだった。不正を犯してたのは第7支部の方だった』

「やっぱりな」

 アレンは微笑する。

 するとアレンはライセンス・ギアをロイドに向けた。

「サリー、説明してくれ」

『了解、隊長に言われて第7支部の記録を調べた。ジンが暴力を振るった場所には隠しカメラがあって…… 映像自体は死角になってて映って無かったけど、音声は小さいけど登録されてた。それを最大限に引き出した』

 サリーの声が途切れた。

 すると次に2人の男達の声がライセンス・ギアから聞えて来た。

 それはジンに殴られた第7支部の軍人達だった。

『この間行ったあの村も結構宝石持ってやがったな、売っぱらったらそうとうな額になるぜ』

『バカ、そんな事したらオレ達がやったってバレちまうだろ…… ほとぼりが冷める頃に少しづつ売って行くんだよ、現金だって沢山っただろ』

『そうだな、全く良い現金収入だぜ…… これもメサイア様々だな』

『全くだ。罪は全部メサイアがかぶってくれる、後始末も今来た落ちこぼれ部隊がやってくれるだろ』

『違ぇ無ぇ、ギャハハハ!』

『ん? な、何だテメェはっ? うわああッ!』

『ぎゃああッ!』

 ここで会話は途絶えた。

 この会話を聞いた者…… 特にロイドは顔を青ざめた。

 するとユウト達が言って来た。

「これって、火事場泥棒じゃねぇかよ、そんな事してやがったのか?」

「しかも自分達の不正を隠す為に、私達を利用しようとしたんですわね」

「じゃあ、ジンはそれを聞いて……」

 アイファ達はさらにジンを見る。

 するとジンは顔を顰めながら舌打ちをした。

「チッ」

 明らかに動揺していた。

 そんなジンにルイスが言って来た。

「知ってたらどうしてあの時言わなかったの? そうすれば何とかなったかもしれないのよ?」

「ま、大体想像は着く…… ジン、もう良いだろ、君の過去、君が『オーガ』の末裔だって事を言わせてもらうよ」

「っ!!」

 ジンは顔が強張らせるとアレンを見た。

「オーガ? それって確か……」

「かつて『グラム』に住んでいた傭兵民族だ。ジンはその末裔だよ」

 アレンは続けた。

 シルバー・クレスト第6惑星グラム、星全体が1年中雪と氷に閉ざされた過酷なこの世界にかつて『オーガ』と言う最強の戦闘民族が名を轟かせていた。

 彼等は幼少の頃より極寒の大地で修業し、その拳は分厚い氷の大地を粉砕すると噂され、彼等の名は星中に知れ渡って皆恐れを成して怯えていた。

 しかしその無敵の傭兵部族は元々数が少なかった上に己の肉体を過信した為にシルバー・ウォーズにて滅びの日を迎えた。

 戦場に赴いた大人達は皆戦士し、力を失った女子供のオーガ達は人々から迫害されて住みかを失い散り散りになった。最強の戦闘傭兵部族オーガの栄光はここで潰えた。

 ジンは赤ん坊の頃にグラムの孤児院に捨てられていたが、オーガの末裔と分かるやいなや、周囲の目はジンを恐れ、さらには町の者達からも差別や虐待の日々が毎日の様に続いた。

 少しでも抵抗しようものなら『オーガ』の事を棚に上げられてしまい何も出来ず、それに耐えかねたジンは施設を飛びだして銀星系連合軍に入ったのだった。

「軍なら人種や星なんて関係無いからな」

「……そんな事が」

「結構ハードな人生だったんだね……」

 ルイスとアイファが顔を顰めた。

 するとアレンは続けた。

「仲間や財産を盗まれた人達の為って…… 口が裂けても言えなかったんだよな、ジン?」

「……チッ、お喋りめ」

 ジンは舌打ちをすると、いつもより恥ずかしげに顔を顰めて目を反らした。

 早い話がジンは不器用過ぎたのであった。

 怪獣を退治する時も仲間達に怪我をさせまいと1人で立ち向かって行ったり、ロスト・テクノロジー回収も周囲にトラップが無いかどうかを確かめている時にうっかり自分がトラップを発動させてしまい、古代遺跡を破壊してしまったのも力余って風化したダンジョンが崩れ落ちてしまっただけの事で、決してジンは周囲が言うような人間では無かった。

 ただ過去が過去な故に何を言っても理解してくれない物だと思いこみ、さらにどう言って良いか分からず、拳を振るう事でしか解決できなかったのだった。

「いや、不器用って言うか…… ドジっ子じゃん?」

 アイファは目を細めながら言った。

 真実を知って周囲が呆れて見つめる中、ジンは心なしか頬が赤くなっていた。

 ジンにとっては何よりも辛い拷問だった。

 アレンが苦笑していると、再びライセンス・ギアからサリーの声が聞こえて来た。

『ちょっと良い? まだ話が残ってる』

「まだあるのか?」

『まだある』

 アレンが聞くとサリーは言い返した。

『第7支部は2年ほど前から上層部に断りも入れずに税金を上げていた。殆ど民間人の生活に支障が出無いくらいの額だけど、集めれば結構な金額になる』

 サリーは続けた。

 しかもそれは第7支部の口座に振り込まれておらず、行き先を調べたらベルシエール支部本部の幹部達の個人口座に送られているのだと言う。

 いくら人々の生活に支障が出ないとは言え理由も無しに税金を上げ、他の者達に流出すれば立派な賄賂だ。

「なるほど、もうすぐベルシエールでは人事異動の時期になる、上層部に賄賂として送っていたとしたら……」

 アレンは言う。

 すると仲間達は怒りに身を震わせながら言って来た。

「火事場泥棒に税金の不正利用…… 明らかに汚職ですわ!」

「最ッ低! メサイアよりタチ悪いじゃない!」

「テメェ、俺達をはめやがったのか!」

 ユウトは刀の柄を握り締めて身構えた。

 一方ロイドは身を震わせると目を閉じて頭を下げた。

「も、申し訳ありませんでした! 今回の事は我々の責任と認めます、ですがここは私に任せてください」

「はぁ? 何それ! ようするに逃げるって事じゃ無い!」

「そうです! そんな言い訳、誰が信じるんですかっ!」

「謝って済む問題では無いのは分かっています、ですが第7支部全体が汚職に手を染めている訳ではありません、自分も知らなかったとは言え責任を感じています、どうか自分に免じて……」

 ロイドはさらに両膝と両手と額を地につけて土下座をした。

 するとルイス・ユウト・リリーナ・アイファの4人は顔を見合せながら言葉を失った。

 彼は悪い人間では無い、職務に忠実と言うだけで人の為に頭を下げられる人間だった。

 だがアレンだけは違った。

「もう演技は止めろって言ってるだろ」

「た、隊長っ?」

「話しは戻るけど何で第7支部がデーモスを捕獲出来なかったと思う?」

「何か方法がありまして?」

「そうだな、1匹くらい捕まえても良いはずだけど……」

「……まさか!」

 ルイスは顔を強張らせた。

 アレンは土下座しているロイドに近付くと胸倉をつかんで持ち上げた。そして思い切り引っ張ると制服の首元から胸元までが左右に分かれた。

 そこにあった物を見ると皆驚いて叫んだ。

「「「「あああっ!」」」」

「ッ!」

 ジンも驚いて身を乗り出した。

 何とロイドの首にはメサイアのメダリオンがぶら下がっていた。

 アレンは眉間に皺を寄せると右手を離すと力いっぱい握りしめ、渾身の力を込めてロイドを殴り飛ばした。

「これが答えだっ!」

「ぐはぁあっ!」

 ロイドは地面に転がった。

 しかしその時、アレン達はまだ気付かなかった。

 自分達を見つめている不気味な視線、そしてこれから立ち向かう事になる敵の存在に……

6話目です。

お楽しみいただけたら幸いです。

更新が止まってしまい申し訳ありませんでした。



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