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STAR・BLAZES  作者: 水無月 明
第1章,星の精鋭達
2/21

銀河の部隊

◎本日登場する敵:

☆封印怪獣、メガバラン。


 宇宙は幾つもの銀河に分かれている。


 その内の1つに異なる文化を持つ6つの惑星で構成された銀河があった。

 6つの惑星は宇宙の覇権を握ろうと漆黒の宇宙に戦艦を飛ばし、各地では異星人達による血で血を洗う日々が続き、多くの命が消えて行った。

 後に『銀星大戦』と呼ばれるようになった戦争は数十年の時を経てようやく終わりを告げ、各惑星の代表達は話し合いの末に『銀河連邦条約』を結び、この宇宙は『シルバー・クレスト』として統括される事になった。

 しかし戦争の爪後は深く、荒れた各惑星ではテロや暴動が頻繁に起こり、さらに自然界のバランスが大きく乱れた事により凶暴化した怪獣達が人々に牙を剥き始めた。

 事の大きさを知った各惑星は力を合わせて24時間体制で宇宙の平和を守る銀星系連合軍、通称『シルバー・フォース』を組織するとテロや犯罪などを撲滅、はたまた怪獣や自然災害などにも対処する事で人々の安全を確保した。

 こうしてシルバー・クレストは本当の意味での平和を取り戻し、破壊された街も直り直されると惑星間の貿易も盛んになり、新たな未来を歩み出した。


 それから十数年の時が流れた。


 星の海を行く一隻の戦艦があった。

 全長500メートルを超える真っ赤に燃える炎のような装甲と大きく広がる2枚の両翼はまさに夜空を飛び交う不死鳥だった。

 その戦艦は銀星系連合軍が誇る起動戦艦『フェニックス』と呼ばれ、ある部隊を乗せて飛んでいた。

 どこの星にもコロニーにも属さないその部隊の名は独立遊撃起動部隊『スター・ブレイズ』と呼ばれ、ロスト・テクノロジー(超古代文明に造られた遺産)の回収から怪獣退治・自然災害などに迅速に対応する部隊だった。

 

 フェニックス内部にある指令室。

 外装とは裏腹に白い壁と青く磨かれた塵一つ落ちて無い床の中央に設置された白い光沢を放つ機械の円卓状のデスクにはスター・ブレイズのメンバーが自分の席に着き、今度の任務の説明を聞いていた。

 説明をしているのはこの中で1番の年長者、歳は20代後半、整った顔立ちに切りそろえた後ろ髪と七三訳の前髪のスター・ブレイズ司令官『マーカー・ベイス』だった。

「今度の任務はエンフィールドの孤島で発見されたロスト・テクノロジーの回収、そして遺跡内のモンスターの討伐だ。まだ発掘されて間もない遺跡なのでどんなトラップが仕掛けられているのか分からない、気を付けて取り組むように…… 他に何か質問は?」

「あ、1つ良いですか?」

 すると亜麻色の短く切りそろえたショート・ヘアと緑色の瞳、雪のように白い肌、宝石の様な緑の瞳の少女が手を挙げた。

 彼女はこのスター・ブレイズの隊員、ルイス・フォーネットだった。

「今度この部隊に配属される事になっている新人隊員の事なのですが、彼に関してはどうなさるのですか?」

「はいは~い、アタシすっごくキョ~ミありま~す!」

 するとルイスの左に座っていた1人の少女が立ちあがった。

 ルイスより2回りほど小柄で、左右に分けた茶色い髪を耳の上で結んだ腰まである長いツインテール、大きな紫の瞳に白い肌の少女はリー・アイファだった。

「その人ってカッコイイですかぁ? お金持ち? パンツはブリーフ派? トランクス派?」

「おやめなさいな、みっともない」

 するとアイファの左隣に座っていた1人の少女が言って来た。

 透き通る程綺麗な青い瞳、ウェーブのかかった腰まである金の髪、ルイスよりほんの少し背が高くスタイルの良いリリーナ・アステリアが自分のティーセットで紅茶を淹れるとカップを口に近付けた。

「全く、これだからお子様は困りますわ、隊員が1人増えるぐらいで大さわぎだなんて……」

「誰が子供よ、厚化粧のオバさんの癖に!」

 アイファは眉を吊り上げながら言うとリリーナは口に含んだ紅茶を噴き出した。

 するとリリーナは震える手でティー・カップを皿の上に置くと上着のポケットからハンカチを取り出して口元を拭った。

「……今何か言ったかしら? 良く聞こえなかったのですが?」

「ハッ! アンタどこに耳付けてんの? モーロクしたなら老人ホーム行けば?」

「ふっ、ふふふ…… 言ってくれますわね」

 リリーナは不敵な笑みを浮かべながらゆっくり立ち上がり、目を吊り上げてアイファに向かって叫んだ。

「表に出なさい小娘! そのひん曲がった根情叩き直してあげますわ!」

「ジョートーだわ若年増っ! やれるもんならやってみなさいよ!」

 アイファもリリーナを睨みつけた。

 一触即発の2人の間には火花が飛んでいるかの様に見えた。

 呆れたルイスはため息を零しながら2人を宥めた。

「ちょっと2人供、止めなさいって」

「ほおって置けば良い」

 するとルイスの右隣で自分専用のパソコンのキーボードを弾いていた少女がルイスを止めた。

 金色の両目、銀色で後ろは腰まで伸ばしたストレート・ヘアに赤い縁取りのメガネをかけ、身長はルイスと同じくらのサリー・サンダーアイズは画面を見ながら言った。

「表は宇宙、外に出れば1分も経たないで死ぬ、それが分からないバカを相手にするだけ時間の無駄」

「「誰がバカだ!」」

 リリーナとアイファの声が重なった。

 すると今まで両肩を震わせて我慢していたマーカーの怒りが爆発した。

 マーカーは眉間に皺を寄せながら2人に向かって一喝した。

「お前ら黙れ!」

 上官に怒られたアイファとリリーナは両肩をすぼめながら申し訳なさそうにその場に座った。

 騒がしくなった指令室に静寂が戻り、マーカーは大きく息を吸って気を落ちつかせるがそれで終わりでは無かった。

 マーカーは頭を抱えるとさらに愚痴を零し始めた。

「ったく、毎度毎度つまらない事で喧嘩ばかりしやがって…… その度に上から叱られてるオレの身にもなってみろ」

 マーカーは忌々しくため息を零した。

 このスター・ブレイズはシルバー・フォースの中でも悪い意味で有名だった。 

 怪獣1匹倒すのに始末書を書かされ、ロスト・テクノロジー回収に遺跡を破壊してしまったりと苦情が後を絶たず、その結果『軍の盲腸』とか『落ち零れ部隊』などと言う最悪のレッテルを貼られてしまったのである。

 その度にマーカーはあちこちに頭を下げ、最近は胃腸薬を手放せなくなったのであった。

 だがそれも今日までだ。これからは少しは胃の負担が軽くなるだろう、その訳は……

「そ、それはそうと司令、あの件はどうなりましたの?」

 恐る恐るリリーナが言って来た。

「あの件? 隊長の事か?」

 マーカーは言い返した。

 問題ばかり起こすスター・ブレイズを見かねた上層部は現場で指揮をする行動隊長を決めるようにと命令が下ったのだった。

 リリーナは食い入るようにマーカーに尋ねた。

「はい、誰が隊長になるか決めましたの?」

「……やけに食い付くな?」

「当然ですわ、何たってリーダーはこの名門アステリア家の血を引く私が……」

「勘当されてるけどね」

「うっ……」

 アイファの一言にリリーナは顔を強張らせた。

 するとマーカーは今まで黙っていた残りの2人に尋ねた。

「どうした? お前等は興味が無いのか?」

 肩に刀をかけていた横色の肌と茶色の瞳、そして黒く短く切りそろえた髪の少年、キサラギ・ユウトが言って来た。

「別にオレ達の中じゃ誰が頭になったって同じっしょ…… ジンだって」

 ユウトは目の前にいる少年を見る。

 マーカーの目も1番体が大きく、灰色の瞳に青い散切り頭でポケットに手を突っ込みながら気だるそうに背を凭れている少年、ジン・オーウェルに向けられる。

 ジンはマーカーの視線に気づくと口をへの字の曲げながら目を背けた。

 マーカーもため息を零しながら気を取り直して話を戻した。

「まぁ、隊長の件は新人が入ってから話す、それよりもミッションの方は『くれぐれ』も問題を起こさないように解決してくれ、以上」

 マーカーが釘を差すとミーティングは終了した。

 命令が下るまでは基本的に自由時間となる、隊員達は席から立ち上がると指令室を出て行った。

 するとマーカーがルイスを呼びとめた。

「ルイス」

「はい、何でしょうか?」

 ルイスは振り向くマーカーの側までやって来た。

 するとマーカーはため息を零して一間置くと言って来た。

「なんやかんやでまた3人一緒になったな、まぁ、ある意味予測できてた事だけどな」

「司令、何度も言いますけど今の私達は……」

「別に今はお前と2人きりだし構わないだろ、昔は『お兄ちゃん』って言ってオレの後を追い駆け回してたくせに」

「い、何時の話しをしてるんですかっ! 用が無いならもう行きますよ!」

 ルイスは顔を赤くするとマーカーに向かって激を飛ばした。

 そして忌々しく顔を顰めて振り返ろうとした瞬間、マーカーはクスクスと笑いだしてルイスを止めた。

「まぁまぁ落ち付け、これからが本気の話しなんだ」

 つまり今までのはふざけていた事になる。

 そう思うとルイスの心に怒りの炎が点り、眉間に皺を寄せると美しい顔が歪んだ。

 一応度が過ぎたと思っているのだろう、マーカーは少し申し訳なさそうな顔をすると咳払いして言って来た。

「お前も知ってる通り、あいつがある意味この隊の中で1番厄介な奴になる、暴走しない様に支えてやってくれ」

「……司令」

 その言葉にルイスの怒りが吹き飛んだ。

 マーカーが小さく頷くとすると仕方ないとばかりに言い返した。

「了解、言われなくてもそのつもりです」

 ルイスは表情を曇らせて敬礼をし、マーカーから背を向けて指令室を出て行った。

 ただ1人残されたマーカーは懐からある物を取り出した。

 小さな手帳位の大きさで、表側全体は黒い液晶画面、裏側は白い外装に銀のフレームで銀製系連合軍の紋章が描かれたそれは電子端末『ライセンス・ギア』だった。

 マーカーは指で液晶画面を起動させて1つのデータを開いた。

 そこには今より少し若い自分が中心になり、左右にいる2人の子供の肩に手を回している映像だった。

 向かって左側には少してれた感じで頬を赤めた女の子、そして右側には同い年くらいの男の子が笑っていた。

 その女の子の方はルイス、そしてもう1人は……

「……アレン」

 マーカーは目を細めて呟いた。


 シルバー・クレスト第4惑星『エンフィールド』、ここは6つの惑星の中で最も水と資源の溢れる豊かな惑星である。

 さらに6つの惑星の中央に位置すると言う事でシルバー・フォースの本部が建てられ、明日の宇宙を守るべく気高く強い闘志を持った若者の育成に力を注いでいた。

 勿論養成所はここだけでは無く各惑星、はたまた宇宙コロニーにも存在する、しかしシルバー・フォース本部がこのエンフィールドにある為に軍の中でも特別優秀な人材が集まっていた。

 

 そのエンフィールドのとある海域を横切る一艘の戦艦があった。

 銀星系連合軍の紋章が描かれた白い塗装の200メートルはあろう大きな船体は真っ青な海面を横切り、巻き上げられた水飛沫が太陽光を受けて宝石の様に輝いていた。

 天気は良好、風も穏やか、釣り竿1本でも出したくなるこの陽気の下、軍艦の船首ではアレンがライセンス・ギアを眺めていた。

「よう、こんな所にいたのか」

 そこに1人の男がやって来た。

 年齢は40代後半、日焼けした肌に緑色の瞳とがっちりとした肉体、顎髭を携えた白髪の目立つ頭には錨の描かれた紋章が取り付けられた帽子を被っていた。

 彼の名前はボルス・バーツ、この船の船長だった。

「まだ到着まで時間がかかる、少し中で休んだらどうだ?」

「ありがとうございます、でも少し考えたい事がありますので」

 アレンは自分のライセンス・ギアを見降ろした。

 ボルスもそれに目が行くとため息を零しながら言って来た。

「しかし、何だな…… 結局お前さんも軍人になっちまったか、やっぱりあいつの倅だよ」

「親父は関係ありませんよ、オレはオレの意思で軍人になっただけですよ」

「ああ、分かってる、だけど別の道もあったんじゃないのかと思ってな?」

 そう言いながらアレンから離れると近くの手すりに寄りかかると水平線よりも遠くを見つめるかのごとく言って来た。

「人間には人間の進むべき道はある、勿論それは人それぞれだ。だがいくら親父が軍人だからって自分まで軍人になる必要はない、あの人から習わなかったか?」

 ボルスはアレンに背を向けながら目を細めた。

 するとアレンは後悔はしていないが、申し訳ないと言った感じで答えた。

「言われましたよ…… ですがオレはオレです、それに約束もありましたから後悔はありません」

 アレンは微笑するとボルスも口の端を上に上げた。


 するとその時だった。

 1人の若い船員が血相を変えながらやって来た。

「船長っ!」

「どうした。何かあったのか?」

「大変です、目的地からSOSコールです」

「ええっ?」

 アレンとボルスは顔を強張らせた。

 話によるとアレンを送り届ける予定の無人島の遺跡の中から怪獣が出現したとの事だった。

 発掘中だったロスト・テクノロジーは怪獣を封印する為の物だったらしく、目を覚ました怪獣が島で大暴れしていると言う。

 しかも発掘隊には大した武器が無く、また腕っ節は強いが怪獣との戦闘経験がまるで無い者達が多くいるらしい。

 それを聞いたボルスは顔をしかめて舌打ちをした。

「この船じゃどう急いでも1時間以上はかかる、無線で本土に救援を要請して……」

「待ってください、オレが行きます」

 アレンはボルスの間に割ってるとライセンス・ギアを構えた。

「行くって、ここからか?」

「助けを待ってたんじゃ間に合わない、お世話になりました」

 アレンは一礼すると少し離れてライセンス・ギアの銀星系連合軍の紋章が描かれたアプリを押した。

 途端眩い光が辺りを包み込んだかと思うとそれは空高く舞い上がり、あっと言う間に空の彼方へ消えて行った。

 後に残されたボルスは部下に命じた。

「船内から薬と包帯をかき集めろ、足りないならシーツでも何でも代わりになる物を用意するんだ」

「はっ? 怪獣の方は?」

「そんなモン、行った時にはもう終わってるよ、オレ達に出来る事は怪我人の輸送くらいだ。本土には応援じゃ無くて医療施設に連絡を入れておけ」

「は、はいっ!」

 命令を聞いた船員は敬礼をしながら去って行った。

 ボルスはアレンの飛び去った方を見るなり深くため息を零した。

「本当に…… お前のだよ、アルフ」


 事件の事を聞きつけたのはボルス達だけでは無かった。

 エンフィールドを目指していたフェニックス内部は慌ただしくなり、マーカーは無線で機関室に命令を下していた。

「人の命がかかってるんだぞ、多少エンジンに無茶がかかっても1分でも早くたどり着く事が最優先だ!」

「司令、司令あてに連絡が着ています」

 隣で無線連絡を受けたルイスはマーカーに言った。

 マーカーは眉間に皺を寄せながら答える?

「連絡? そんな物は後だって伝えておけ」

「そ、それが、どうしても司令にと……」

「ああ、ったく……」

 マーカーはルイスから無線を受け取った。

 そして乱暴に髪を掻き毟りながら忌々しそうにマイクに向かって口を開いた。

「はい、こちらスター・ブレイズ司令、マーカー・ベイス……」

『ああ、オレだ。久しぶりだな新入り』

「なっ、せ、船長でありますかっ? はい、自分であります! ご無沙汰しております! はい!」

 マーカーは顔を青くしながら背筋を伸ばし、相手が見えていないにも関わらず敬礼をした。

「どう言う事ですの?」

「あんな司令初めて見たぜ」

 その姿を見ていたリリーナとユウトは信じられない物を見たと言わんばかりに顔を見合せた。

 無線越しに話しをしているのはボルスだった。

『ああ、話しを聞くなりすっ飛んで行っちまったよ、全く変な所ばかり親父に似やがって……』

「そうでしたか、大変でしたね」

『人ごとみたいに言うな、今日からお前の部下なんだぞ』

「は、はい、申し訳ありません!」

 マーカーは頷いた。

 刹那の沈黙、無線の向こう側で一息ついたボルスはマーカーに言って来た。

『まぁ、とにかくだ。お前達が到着するころには全て終わってるだろ、怪我人の輸送はオレ達出行うから、事件処理の事は頼むぞ』

「はっ、ご苦労様です!」

 無線が切れるとマーカーは肩を落とした。

 そして機関室へ再び連絡を入れた。

「あ、機関室か? 悪いがさっきの命令は取り消しだ。エンジンに無理が無いように急いでくれ」


 島は大惨事だった。

 話しに聞いていた通り、蘇った怪獣により遺跡は内側から崩壊し、ベースキャンプに張られていたテント、および発掘用の機材や車はひっくり返って見る影も無く潰されていた。

 発掘に関わっていた人間達は、ある者は血まみれでぐったりとしていて、ある者は腕や脚がありえない方向に曲がってうめき声を上げていた。

『グオオォォ――――っ』

 怪獣が大きく咆えると大気が震えた。

 全長約7~8メートル、頭から牛の様な巨大な2本の角が生え、赤く血走った2つの目、大きく裂けた口に鋭く並んだ牙、黒く分厚い鉄板を幾つも重ねた様な身体に大蛇の様な尻尾、爪と言うより刃と言うべき鋭い5本指の太い腕、この巨体を支える巨大な足の怪獣『メガホーン』は発掘調査委員達に襲い掛かった。

「う、撃て、撃てぇ―――っ!」

 発掘調査員達の護衛で来ていた戦闘員達は銃器を手に応戦する。

 しかし相手の体が大きすぎる上に頑丈な体には今の武装では太刀打ちできなかった。

 彼らは決して準備を怠っていた訳ではない、むしろ最悪の事態に備えて万全の準備をして来たつもりだった。

 しかしこれは最悪の事態など遥かに通り越していた。

 メガバランの防御力は彼らの武装を軽くしのいでいた。怪獣と言う存在は人間の常識をはるかに超えた存在なのだ。

「くそっ、援軍はまだか? このままじゃ……」

『グオオオオっ!』

 メガバランが大きく口を開けると紅蓮の炎を吹き出した。

 たちまち辺りは炎に飲み込まれ、木々は燃え盛り、大地は焼け焦げた。

「うわあああっ!」

 炎に飲み込まれ、人々は逃げ場を失った。

 メガバランは地面を揺らしながら人間達に近付く、戦っても無駄、逃げる事も出来ない、最早これまでかと思われた時、昼間だと言うのに小さな光が輝いた。

 その光はやがて大きくなると地面と衝突、隕石でも落ちたかのように地面を砕き、巻き上がる突風により周囲の炎がかき消された。

 まるで空気の爆弾とも言うべき風圧に人々は吹き飛ばされて地面に転がった。

 細かく砕かれた土塊が頭上から降り注ぎ、慌てて上半身を起こすと土煙の中に1つの影が映っていた。

「な、何だぁ?」

 これ以上最悪な事は続かないで欲しい、刹那に願う彼らだった。


 土煙が晴れて小規模にできたクレーターの中央に立っていたのはアレンだった。

 アレンは右手のライセンス・ギアを見るなり顔をしかめながら舌打ちをした。

「チッ、結構使ったな……」

 アレンは周囲を見回し、現場の状況に顔を顰めた。

 発掘隊員達は突然現れた少年に頭が付いて行けず、メガバランもアレンに向かって目を細めながら低い唸り声を上げた。

『グルルル……』

 するとアレンは怪獣に向かって目を吊り上げた。

「お前かっ!」

『グウウッ!?』

 すると怪獣は身を震わせた。

 相手は自分よりはるかに小さな存在、踏みつぶせば終わりの虫けらの様な生物に怯える必要など無かった。

 しかし生物としての本能が目の前の少年を危険と判断していた。

「後少しだけど、仕方ないか」

 アレンはライセンス・ギアを構えてアプリを入れた。

 その瞬間、周囲を眩い光に辺りが包まれた。


 それから2時間ほどしてフェニックスが到着した。

 怪獣が封印されていた遺跡から少し離れた場所にフェニックスが停泊できる場所を見つけて着陸、船底のハッチが開くとスター・ブレイズ隊員達と調査隊の応急処置の為にありったけの薬や医療道具等を持った十数人のクルー達が表に飛びだした。

 マーカーの話しでは戦闘は終わっているとの事だったが、万が一の事を考えて医療班の護衛兼手伝いとしてスター・ブレイズも同行する事になった。

 現場まであと数メートルと言う所だった。

 少年少女達はその途中にあった物を見ると目を見開いて驚いた。

「なあっ?」

 それはメガバランの死体だった。

 すでに呼吸は止まり、地面に倒れて目を見開いたまま裂けた口から舌を出して絶命していた。

 しかもさらに驚くべきは一撃で終わっていると言う事だった。

 全体を見回しても額を大きく切り裂かれているだけで他に外相は見当たらない、一刀の元に瞬時に切り裂かれて切断面から緑の鮮血と脳漿の入り混じった液体が流れ、時間が立っているのであろうスッカリ固まっていた。

 しかも周囲には鮮血の雨が降り注いだんだろう、木の幹や地面が緑色に変色していた。

「ホントに終わってるぜ……」

「あ、あそこっ!」

 アイファが指を差した方には本来の任務で入ろうとしていた古代遺跡だった。

 しかし本来なら切り揃えた石を組み建てられていたであろう遺跡は怪獣の為に内側から破壊され、最早瓦礫の山と化していた。

 ここまで崩壊すると撤去に時間がかかる、さらに重症者が出たと言う事で発掘は延期になるのは確実だった。

 ルイス達が遺跡の近くまでやって来るとすると負傷した調査隊を介護する男達の姿があった。


 彼等はマーカーより聞いていた新人隊員を運んで来たシルバー・フォース海軍の軍人達だった。

 50人を超えるガタイの良い男達は骨折している者は添え木をしたあと包帯を巻いて固定し、出血の酷い者は止血剤を使って止血すると軍艦から持って来た血液で輸血していた。

 応急処置を済ませた後は担架で怪我人を運ぶと車に乗せて入り江に停泊してある軍艦まで搬送して行った。

 そしてその中で1人、自分達と同じくらいの年齢の若い1人の少年の姿を見つけた。

「どこか痛む所はありませんか?」

 上着を脱いだアレンも的確な処置で負傷者を手当てしていた。

 それを見たルイスはアレンに向かって叫ぼうとした瞬間、ライセンス・ギアに通信が入った。

 その通信はフェニックスにいるマーカーからだった。

 液晶モニターに映るマーカーはルイス達に言った。

『早速やってくれたみたいだな』

「司令!」

「あいつが新人なんスか?」

 ルイスの後ろからユウトが液晶越しのマーカーに尋ねる。

「ああ、さっき話した通り、あいつがお前等の新しい仲間だ。そして……」

 マーカーは静かに目を閉じると目を細めて呟いた。

 そのセリフに誰しもが驚いた。

 

投稿2回目です。

まだ2話目ですが楽しんで頂けるなら幸いです。

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