8話『魔人』
「レクドがいない!」
千尋が突然叫ぶ。
「なに!」
すると机に書き置きがあった。
『さがさないでください。たびにでます。
(おつかいにいってきます)byレクド』
それを見た二人は叫んだ。
「「なにやってんだアイツ! 今、狙われてるつってんだろがぁぁ――!」」
寝巻き姿の二人はそんなことを叫んだ。
《〇》
「――――♪」
レクドは鼻歌を歌いながら、掠め取った進九の財布を握り締め、町を歩いていた。進九と千尋に自分の作った食事を食べて欲しいと思ったのだ。
「たまねぎ♪ にんじん♪ じゃがいも♪ お肉に――♪ カレール――♪」
そんな鼻歌を歌っていると、突然首根っこを掴まれる。路地裏に連れ込まれ、壁に体を押さえつけられる。
「こいつか……。俺を雇うほどのことか? あのエセスーツ」
レクドは連れ込んだ相手を見据える。
「あなた、誰?」
「俺か? 俺はダクト。魔人だぁ」
緑髪のチンピラはそう名乗った。
その瞬間、空から人が降ってきた。ダクトはレクドから手を離す。その人は千尋だった。
「一体なんだぁ?」
「その子の護衛だよ」
千尋は駆鋼剣を構えて言った。
ダクトの影が魔力を帯びてユラユラ揺れいた。
《〇》
「へぇ。裂姫か……。少しは楽しませてくれるんだろうな! ああ!?」
ダクトの体から魔力が流れ出す。
「目覚めよ剣! さぁ、かかっておいで!」
千尋の祝詞によって駆鋼剣が起動し、刀身が輝く。
「上等だぁ! 跳ね起きろ! バリオッル!」
ダクトの背後から、ダクトの獣僕である巨大な象が現れる。
「魔人!?」
千尋はダクトが魔人であったことに驚く。魔人は人間とほぼ変わらない見た目をしている。
「なに、ビビッてやがる! 容赦しねぇぞ! なぎ倒せ! バリオッル!」
ダクトの指示で獣僕バリオッルは、千尋に突撃してくる。
千尋はレクドを抱え、バリオッルの突撃を回避する。
そして、駆鋼剣を地面に突き刺す。そして祝詞を上げる。
「かしこみかしこみ申し上げる! 我が祖たる歯車よ。邪気を祓い、百鬼を滅す、創世の一柱を我が元に! 廻し祓え、裂り滅せ! 駆鋼剣裂槍!」
祝詞を唱え終わると、駆鋼剣が更に輝き、柄が伸び槍へとへ変貌する。
「関係ねぇ! ぶちのめせ! バリオッル!」
バリオッルは地面に自らの鼻を叩きつける。すると、地面から鋼鉄の杭が出現する。しかしその杭は千尋達を貫く事は無かった。
「吠えろ、裂槍!」
千尋が祝詞ともに槍となった駆鋼剣を振るうと、杭は姿を消す。
「何!?」
そのまま、千尋は姿勢を低くし、バリオッルに接近する。当然、バリオッルは反撃するために前足を上げ、振り下ろそうとする。
だが、それよりも早く、千尋は槍を振るった。
「一つ!」
容赦の無い一撃が、バリオッルを切り裂く。
バリオッルの右前足が、中を舞う。
右前足を失ったバリオッルはバランスを崩し、倒れる。そこを飛び上がり、千尋は槍を振り上げる。
「駆鋼剣裂槍! はぁぁぁああ!」
「舐めるなぁぁあああ! バリオッル!」
倒れたバリオッルは地面に鼻を叩きつけ、その強烈な反動で起き上がる。
その巨体に千尋は弾き飛ばされる。
(しまった!)
「バリオッル!」
そして起き上がったバリオッルは、中に舞った千尋に襲い掛かる。
「くっ!」
死を覚悟した千尋は目を瞑るが、その必要は無かった。
「繋ぎ止めろ。四番目、エイル・ドグス」
その言葉と共に、黒色の鎖がバリオッルの足元を突き破り、大量に現れる。そしてバリオッルを縛り上げる。
「なんだと!」
驚きの声を上げるダクト。しかし突然、背後から蹴り飛ばされる。
そして落ちてきた千尋を受け止める。
「間に合ったか」
そこに黒い鎖を、手に巻いた進九がいた。
黒い鎖の正体は、進九の四番目の狗の王獣僕、エイル・ドグスだ。
エイル・ドグスの能力は拘束。あらゆる力、存在、事象を拘束する力を持っている。それによってダクトの獣僕を拘束したのだ。
「進九?」
「おう。ギリギリセーフだったな」
ニコッと笑う。
「シンク――」
進九に向かってレクドが向かうが、ゴスッとレクドの頭にゲンコツが炸裂する。
「ほあっ!」
あまりの痛みにレクドは声を上げる。
「ったく。心配かけさせやがって。狙われてるって言ったろうが」
レクドは頭を抱える。そしてプイッと顔を背ける。
「……ごめんなさい……」
か細いでそんなことを言う。こんな姿でも、彼女は虚飾王だ。
精一杯強がったのかもしれない。
「全く、今度は俺と一緒に行こうな。買い物なんて幾らでも付き合ってやっから」
そういうと顔を綻ばせるが、すぐしかめっ面に戻る。
「そ、そう」
その態度を見て、進九は呟く。
「ああ、憂鬱だ」
「その憂鬱、増やしてあげますよ!」
そんな声が響き渡る。
『グォォォオオオオオオオオオオオオ』
続いてそんな雄たけびが周囲から上がり、周りの建物が破壊され、ブレイクを投与された。獣人が大量に出現する。
そしてそれ気付いた一般人が逃げ出し、始める。
「お待たせしました! パーティーを始めましょう!」
そう宣言しながらシルクハットとスーツを着た犯罪者ログスが、空から降ってきた。
「ホントに憂鬱だな、全く!」
進九は、若干キレながらそう吠えた。