5話『三番目・猪』
「ようやく見つけましたよ! 雛! その少女を頂きます!」
そう言い、獣人に指示を出す。獣人の豪腕が進九に迫る。
本当なら、その拳によって、進九は叩き潰される所だった。故に、千尋は目を瞑った。
しかし、進九は潰れることは無かった。
獣人の拳は空中で何かに押し返され、止まっていた。
「おや?」
少女を守っている少年の姿に気付いた時、ログスは驚きの声を上げる。
「やれやれ、今日は本当に客が多いな」
そう言った進九の右腕には『猪』の装飾が象られた籠手が身に付けてあった。
「三番目=ガレス・バッファ」
そう呟き、空中に留まっている拳に籠手を叩きつける。
「ぶっ飛べ」
次の瞬間、何かに弾き飛ばされたように、獣人が吹き飛ばされ幾つもの壁を貫き、激突し体をめり込ませる。
進九がつけている籠手は進九の王獣僕が姿を変えたものだ。
その正体は進九に宿っている九体の王獣僕の一体、三番目の猪の姿のガレス・バッファだ。ガレス・バッファの能力は斥力を操る能力だ。斥力は物体に対して反発する力のことをいう。
故に最初は、拳と同じ強さで反発させ、空中で止め、次は圧倒的な斥力で獣人を吹き飛ばしたというわけだ。
「おっと」
その衝撃に巻き込まれながらも、ログスは獣人から飛び降りることで事なきを得た。
「やべ、ちと加減を間違えたな」
進九の力に目を輝かせるログス。
「素晴らしい力だ。聞いたことがあります。魔王の中でも、唯一、王獣僕を武器に変換する力を持ったものがいると。もしや、あなたはロスト、憂鬱王ですかな?」
はぁ、とため息を吐き進九は言う。
「全く俺の憂鬱を増やすなよ」
そんな一言で明確な敵意を感じ取ったログスはすぐ行動に出る。
「おやおや、嫌われてしまいましね。今日は退くとしましょう。ですが、準備が整いましたら、またすぐお会いするとします」
ボンッと、煙を出し、ログスは消えた。
しばらくすると、治安維持部隊『ガート』の専用車両のサイレン音が聞こえてくる。
「残っていると面倒な事になる。とりあえず、ここから離れるぞ」
進九はそう言い、レクドを抱え千尋の手を掴み、走り出す。
《〇》
それを監視カメラから見ているものがいた。
「おやおや、進九の奴、幼女と美少女ボクッ娘を捕まえて愛の逃避行か?」
それは進九の学友、棒飴を加えた星木の姿だった。
「まったく、いいご身分なこった」
はぁ、とため息を吐き、パソコンを弄りだす。
「さて、監視カメラにハッキングして記録改竄しときますか? ウチの王様には困ったモンだぜ」
そう言いながら、電話をする。
「あ、もしもし。進九が雛と接触しました。ええ……、ええ。定期報告ですよ。後の事はお願いします。こっちはこっちで忙しいので。はい……、はい。また何かありましたらご相談を。ええ。どうも」
そう一通り電話を終える。
「全く、ホントに忙しいよ」
星木はそんなことをぼやいた。