3話『幼女』
ケーキ店『アルバス』
「なあ、これ以上は勘弁してくれね?」
頬杖をつきながら座った目で進九は、向かいに座った二人を睨んでいた。
その視線の先の二人は、ケーキを美味しそうに食べていた。
「何言ってんだよ。まだまだだろ? それに悪いのは俺らに掃除当番を半年押し付けた、お前だ」
向かいの内の一人、三好星木。髪は白く、イケメンな男子だ。
「そうだぞ。こんなの序の口だ。恨まれるのは筋違いもいいとこ。そもそも、毎日、真面目に授業受けてたらこんなラッキーな事にならずに済んだのにね」
もう一人は真坂雪。茶髪でこれまたイケメンな女子だ。
放課後、この二人に進九はある理由で貸しがあり、それを返すため、二人の好物であるスイーツをご馳走していた。
「そうは言われても、財布がとっくに空なんだが」
そう言って、進九は財布を逆さにして金がない事をアピールする。そもそも進九にとってはどうしよもなかった期末テストについては諦めていることにしている。それにあの日は自分が魔王になった日だ。なんとも言えない。
「ちぇ、もう終わりか」
頬にクリームをつけたまま、星木はフンと鼻を鳴らす。
「仕方ない、進九は解消無しだから、何を言っても無駄だぞ」
ため息を吐きながら、雪は自分の頬を指差して星木に見せる。
その行動でクリームがついていたことを知った星木は、ナフキンでクリームを拭う。
「んじゃあ、俺は帰るからな」
欠伸をして進九は、鞄を持ち店を出た。
「もう掃除当番を押し付けんなよ――」
そんな星木の声を背に受けながら、蒸し風呂のような暑さの中に体を晒した。
「くそ、憂鬱だ」
《〇》
進九が帰宅しようと、歩いていると後ろから、テテテと、覚束無い足取りで、追いかけてくる影がある。
無論、それに進九は気付いている。
そのため、曲がり角を曲がると、直ぐに振り返る。すると、案の定、何かの影が、進九の足につっ込んでくる。
「ふぎゃっ!」
それは幼い少女だった。
(年は〇〇〇と同じくらいか?)
髪は長く燃える様に赤い。髪同様、瞳も赤い。身長は低く、肌は病的なほど白く、白いワンピースを着ていた。
「……」
一通り観察し、進九は屈んで話しかけた。
「君は誰?」
「……レクド」
思っていたより、素直に答えてくれる。
「どこの子?」
「しらない」
「親はどこ?」
「しらない」
「なんで、追いかけてきた?」
「しらない」
訂正、全然、素直じゃない。それに何やら起こっているようで、頬をリスのように膨らませている。
「知らないこと無いだろう?」
なにを聞いても少女、レクドは進九に『しらない』を突き通す。
しかし、埒が明かないと思ったのか、レクドが言った。
「だって、名前、教えて、くれなかった……!」
「あ、あ――――。そういう理由……。俺は黒城進九だ。それにしても随分強がりだな」
「強がりじゃない。虚飾」
「いや、虚飾じゃないだろ」
「それは、あなたの、感覚。私にとっては、これが虚飾」
「…………はぁ」
なんか変な子だと進九は思った。
「どこの子?」
「ほんとにしらない」
「……親はどこ?」
「いない。捨て子だから」
「…………なんで、追いかけてきた?」
「あなたから、似た臭いが、したから」
そう言ってレクドは進九に抱きつく。
進九は頬をかき、レクドを抱き返す。
「はぁ。分かった。憂鬱だけど。行くとこないなら内に来るか?」
その言葉を聞くと、レクドは目を輝かせ、コクリと頷いた。