1話『魔王』
毎日午前七時に投稿します。
楽しく読んでいただければ幸いです。
『七つの大罪をご存知だろうか?
失礼、まずは自己紹介をしなくては……。
私は嫉妬の名を冠す七人の魔王が一人、
ミレイ=ヴァイオレット、
オーストラリアを支配する引きこもりの魔王だ。
さて、話を続けるとしよう。
七つの大罪をご存知だろうか?
暴食、色欲、強欲、憤怒、怠惰、傲慢、嫉妬。
人間の持つ感情で、罪源といわれているものだ。
元々は八つあったもので、
暴食、色欲、強欲、憤怒、怠惰、傲慢、憂鬱と虚飾があった。
そしてある時を境に、憂鬱は怠惰へ、虚飾は傲慢と統合された。
そこに嫉妬が追加される。
そして七つの大罪となった。
今この世界は、七人の罪と竜の名を冠した魔王によって支配されている。
その世界に魔王の名を失ったものが二人いた。憂鬱と虚飾だ。
これはその二人の出会いと罪の物語
全く羨ましい。嫉妬してしまうよ』
《〇》
世界には昔から、人外種と呼ばれる種が存在した。
獣人種、幻獣種、能力種、擬態種、そして魔人種。
どの種も突出した力を持ち、人間は魔術、科学、陰陽術などを駆使し、力を拮抗させていた。ある種を除いて。
それは魔人種だ。魔人種は高い身体能力に加え、体に強力な魔力を持ち、それによって一体の獣僕と呼ばれる魔力を具現化させる強力な獣を持っていた。
さらに魔人種には決まって九人の王が生まれる。正確には引継ぎ受け継がれているのだが。
その王は魔王と呼ばれ、それぞれに罪と竜の名を冠しており、竜の刻印が体のどこかに刻まれている。
そして魔王は一人一人、魔人と比較にならないほど強力な魔力を持ち、王獣僕と呼ばれる島一つを軽く吹き飛ばしてしまうほど、強力な力を持つ獣を複数従えている。
その圧倒的な力により、世界は今、力を失った二人を除いた、七つに分割支配されている。
暴食は、ロシアを
色欲は、アメリカ大陸を
強欲は、中国を
憤怒は、南アメリカを
怠惰は、日本から太平洋を
傲慢は、ヨーロッパを
嫉妬は、オーストラリアを支配下においている。
お互いの力が拮抗しているため、世界はつかの間の平和を手に入れていた。
その七人以外の二人の魔王が、何故どこも支配していないかというと、理由はただ一つ。継承が途絶え、その最強ともいえる存在が消えたからだ。彼らの行方は誰も知らない。
故にその存在は、消失を意味するロストと呼ばれた。
《〇》
薄く不気味に、夜空が仄かに霞む。
空へ昇る煙を、バチバチと音を鳴らしながら揺れる炎が照らしている。
パラパラやガラガラと、粉塵と共に轟音を鳴らしながら、ビルや建物が崩れていく。
その中で一人の少年が、地面を這いずって進んでいた。顔から血を流し、しかし頬には熱い涙で頬を濡らして叫ぶ。
『――――――っ!』
その先には、黒のワンピースを着た幼い少女が、悠然と佇んでいた。
肌は浅黒く、髪と瞳は透き通った銀色をしていた。
少女は、薄くしかし柔らかく微笑む。
ゆっくりと近づき、少年の頬に手を添える。
『……憂鬱だ。私は疲れた。長く生き過ぎた。お前は言ったな。『私の憂鬱をお前が埋める』と。自惚れるなよ。私は魔王だぞ。私の憂鬱は私だけのものだ。それに私は直に死ぬ』
そう言われて、少年は声を無くす。
しかし何かを言おうと口をあけるが、掠れた音が漏れるだけで、声にならない。
『……ぁ、……ぁ!』
そんな姿を見て、少女は少年の体を抱き寄せた。
『無理をするな。お前は私が唯一認めた人間なのだから。だがな、そんなお前に悪いが、お前にはこの魔王を受け継いでもらう』
その言葉に、少年は首を激しく振る。それを否定するかの様に。だが、少女は聞き入れない。
『さあ、目覚めてもらうぞ。私に出来ないが、お前には、まだやることがあるだろう?』
そうじゃない、そうじゃないんだ。と言いたげに少年は泣きながら首を振る。徐々に少女の体は輝き、少年に吸い込まれていく。
『最後に一つ。お前の言葉は私の憂鬱を消してくれた』
もう顔と手だけしか残っていない少女は、両手で少年の頬を掴み、そっと告げた。
『ありがとう。進九』
次の瞬間、少女は跡形も無く消える。
『――――――――――――ぁぁぁぁぁっっっっっ!!』
声にならない奇声を、ボロボロの少年は叫び続けた。