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思い至るあたし。

指折り数えてそれが、限りなく近いという事実に気が付く。

まさか、この世界は。

「続編……」

あたしはこれの前作をプレイして死んでしまったから、続編の事は何一つ知らないんだけれど。

可能性は否定できないどころか、大いにありすぎる。

神様に愛された聖女。強い力を持っている、庶民の娘が王宮にきて、いろいろな事を経験する。

あたしは聖女が、いろんなイケメンの貴族たちと近づいているという噂を思い出した。

似過ぎている。

いいや……きっと、彼女が続編だろうゲームの主人公なのだろう。

前作で死んでいるはずのあたしが、断罪される意味が分からないけれど。

もしかしたら、あたしが続編でも悪役令嬢という立場なのかもしれない。

よくわからないけれど。

そして、いろいろな悪行を暴露されて、神の罰まで下されて牢獄に入れられる。

限りなく、典型的なパターンに似ている。

……結局あたしは、殺されるのか。

「冗談じゃないわよ」

幸いなのかあたしは、こんな牢獄に入れられていても精神を蝕まれていない。

あらゆるものが見える。

体力も落ちていない。

あたしはまだ、あたしのままだ。

だから、死にたくない。死ぬわけにはいかない。

だって、そうしたら。

「約束が守れない」

あたしがつぶやいた時だった。

ちいさな、呻き声が聞こえてきた。

それはどこか疲れ果てた声で、それと同時にその声の持ち主の、強い力も感じさせた。

こんな牢獄であたし以外に、まともでいられる人がいるというの?

あたしは周りに見張りの兵士がいないことを確認して、鉄格子越しに声をかけようとしたんだけれど。

「驚いたぜ、まだこんな場所で、お嬢ちゃんみてぇな子がまっとうなのかい」

その声の持ち主が、あたしに声をかけてきたのだ。

あたしは息をのんだ後にささやいた。

「ええ、あいにく」

「人間じゃぁ、ねぇな」

「そうかも」

「はっ」

相手は鉄格子の向こうで、笑ったらしい。

鉄格子が邪魔をして、相手が見えないのが難点だ。

「そうか。……知ってっか?」

「何を?」

「ここに、英雄姫とかいうお嬢ちゃんが入れられて、直に処刑されんだと。なんでも、悪魔だったとか」

「……そう」

あたしはやっぱり……と思った。この怪物の姿になって、処刑されないわけがない。

……本当にゲームみたいだ。

あたしには言い訳の余地もなく、殺されるあたりとか。あたしがやってきた事が皆嘘だっていうのを、誰もが疑いもなく信じる当たりとか。

……神の罰を疑わないところとかも。ゲームの強制力とかご都合主義とかを思い起こさせるものがあるわ。

それ以前に、神を疑わないあたりも。

だってこの国の信じる神は、王魚と呼ばれている存在だったのに、現れた新しい神様を皆してうけいれるあたりとかも。

ゲームの都合のいい展開だと、言いたくなりそうなくらいすんなり進んだ。

……だから、ドワーフたちはいなくなったのかしら。

あたしは、この国の大鉱山で暮らしてきていた、人と盟約を結んだ種族を思った。

彼らは、人間たちが新しい神を受け入れたその時から、姿を消した。

残されたのは、空っぽで生活用品なんて何も残らない鉱山ばかり。

人間の技術では掘り起こせない。そういう場所。

エンデール様の凍り付いた顔は、今でも覚えている。

彼らは、何も残さないでいなくなってしまった。

かれらは咒がつかえたから、人間がおかしな神を信じたあたりで見切りをつけたのかもしれない。

可能性は、ないわけじゃない。

それか、信じないから神に排除された……?

あたしは思い浮かんだ事があり得そうで、怖くなった。

信じないから、排除するなんて事が果たして神にできるのか。

王魚ならできただろう。やらないかっただけで。そんなのどうでもよかっただけで。

あの、絶対の力を持った魚の王ならば、それができたといえる。

「なあ、おめぇさん」

彼がまだ言葉を投げかけてくる。

「何?」

「おめぇさん、鍵開けられっか?」

「わからないわ」

「俺ぁ目もやられっちまってなぁ。鍵もこわせねぇ。でも、見えるおめぇさんだったら、できんじゃねえかってな、思うんだぜ」

「……」

あたしはこの数か月、ドワーフたちがまだ居た頃に教わった、鍵の秘術を思い出した。

どんな鍵でも思うがままに開けられる秘術だ。

……できない事はないと、思う。

それに、殺されてしまうんだったら。

「一緒に逃げねぇか? 地の果てまで」

『地の果てまで』

あたしは、ある人が言った言葉がよみがえった。どうして声も口調も違う人が、それを思い起こさせたのかわからないけれど。

「大丈夫なの?」

「ははっ、それができねぇ俺じゃぁねえぜ?」

決心は固まった。

「わかった、やってみる。一緒に逃げましょ」

「そうこなくっちゃなあ」

その時、遠くのほうで足音が聞こえてきた。

「誰か来るわ」

「おめぇさん……聞こえんのか」

「え?」

「いいや、なんでも」

あたしたちは会話を中断した。

「……アリア」

現れたのは、エンデール様だった。

彼は鉄格子越しに、明かりを頼りにあたしを見下ろした。

あたしは弱ったふりをして座り込んでいる。

「お前が、諸悪の根源なのか。信じたくないが、神の託宣があった。聖女を害した女は悪魔だと」

「……」

頭がおかしくなっている振りだから、何も答えない。

彼はしばし黙った後に続けた。

「お前は明日、処刑される。……いい夢をありがとうと、言いたかった」

……エンデール様も、神を信じるのか。

本当に、ゲームの強制力が働いているような感じだ。

普通に考えればおかしい事も、受け入れてしまうというあたりが。

それでもあたしは黙っていた。

何も言わないあたしに、もう弁解できる見込みがないと判断したんだろう。

彼は歩き去っていった。

……きっと、エンデール様は攻略対象だったんだ。

そうじゃなかったら、叫びたい。

いきなり現れた得たの知れない神様よりも、あなたと一緒にいたあたしを信じてくれないのか、と。

ソヘイルだったら信じてくれた気がして、あたしは唇をこっそりと噛んだ。


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