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序話

以前投稿していた、死にかけて、全部思い出しました! の第二部のようなものですが、これだけでも読めるものにしてあります。

どうぞよろしくお願いします。

その華奢で可憐な横っ面を力の限りこぶしで殴りつけた時、あたしは思った。

あ、終わった。

皆絶句。誰もが絶句。皇帝陛下も皇太子殿下も宰相殿も公爵様も、侍従に至っても絶句。

貴婦人たちに至っては絶句を通り越して倒れてしまいそうだ。

でもあたしは止まらない。

「イリアスをそれ以上侮辱するんだったら表に出なさい。その自称も他称も可愛いだのお綺麗だのが通常運転の面を修復不可能なくらい痛めつけるわ」

「ひぅ……」

殴られた痛みとショックでぽろぽろと涙をこぼしているその顔。

「アリア、それ以上はやめろ」

皇太子殿下があたしの腕を掴んで抑えようとする。

あたしは吐き捨てた。

「は? 何言ってんの。この女の子はあたしにとって何にも代えがたい許せない事を笑いながら言ったわ。止めないで、エンデール様」

言いながら怒りがさらに燃え上がってくる。

終わったって思ったけど、終わるんだから言いたいだけ言わせてもらおう。

怖いものは何もないんだから。

あたしは座り込む桃色がかった緩いウェーブを描く髪を持った女の子を、見下ろしている。

「イリアスはいなくなったから誰もが喜ぶ、薄汚い世界の無駄な屑って言ったわね?」

あたしは皇太子殿下であるエンデール様の腕を払って、彼女の髪をひっつかもうとした。

彼女は身をすくめる。

「助けて……」

弱々しい声だ。あたしには到底出せない可憐な声。正直反吐が出る。あたしはその女の子を見下ろしたまま手を伸ばして、引きちぎる勢いで引き寄せた。

「きゃああ!!」

女の子が悲鳴を上げる。

「アリア、神罰が下ってしまう!」

エンデール様が、あたしを止めようとして声を発する。

あたしは彼を見もしないで、女の子を見下ろして睨み付けて、吐き捨てた。

「神罰程度が怖いあたしだと思う?」

「アリア!」

「来るなら来なさいよ。どんな神罰だろうが、あたしにとっては大したものじゃないわ!」

あの人のいない世界という罰以上の罰を、あたしが受けると思えない。

あたしの声におびえたらしい女の子が、ぎゅっと目を閉じて両手を組んだ。

瞬間、鋭い光があたしを貫いた。

続いて迫ってきたのは激痛で、あたしは痛みに座り込みながらも、拍子抜けした。

神罰が痛み程度なんて、なんてちゃちなんだろう。

あたしは、もっとひどい罰を知っている。でも、痛い、痛い、めちゃくちゃ痛い!

あたしは歯を食いしばった。背中を丸めて激痛をやり過ごそうとした。

骨が組み変わる音がした。なんでかはわからない。何が起きているのかもわからない。

でも、ばきばきと骨はきしんで、まるであたしがあたしじゃない何かに変質していくみたいだった。息もできない、そんな激痛。

それでもあたしは、気絶できない。それはあたしが、もっとひどい激痛を知っているせいだ。

涙も浮かびやしないわね。

ああ、この野郎。本当に神罰を下させやがった!

でも許せなかったから、あたしは怖くはないのだ。

痛みが消える。あたしは荒い息で座り込んだ。

これが神罰、ずいぶん軽いじゃない。

あたしはそんな風に言おうとして、誰もが凍り付いているから怪訝な顔になった。

「きゃあああああああ!!」

少女がエンデール様に縋りつく。

そんな彼女を振り払えずに、エンデール様もあたしを見ている。

何。というか、女嫌いのその人に縋りついたら、あと大変よ。

あたしは忠告しようとして、周りの殆どの人間が青ざめている事実に気が付いた。

何。

「化け物!!!!」

誰か貴婦人が、絹を引き裂くような引きつった声を上げた。

「ほ、本性を現したのです! 英雄姫は、人間のふりをした悪魔だったんだわ!」

少女がそんな事を言う。

だから、何。誰かまともに説明してくれる人いないの。

あたしは周りを見回して、誰もがあたしを嫌悪の表情で見ているという事実に絶句した。

本当に皆さんどうしたの。

あたしはぐるりと周りを見回して、兵士たちがあたしに武器という武器を向けてきている事実にまた何も言えなくなった。

聖なる力を操るといわれている、聖騎士たちも、あたしに武器を向けている。

彼らも力を発動させかねない。

何が……?

あたしは自分の、両手をそこで見やった。

魚の鱗の肌。白くきらめく鱗があちこちに生えている。

そして、至る所が樹木のような肌で覆われていた。

あたしは今度こそ、頭が真っ白になった。

呆然としすぎて、言葉が出てこないし、抗う根性も忘れてしまって、引きずられていった。

鏡があらゆる所に設置されている舞踏会用の広間の鏡に、あたしだと思われるそれが映っていた。

それは、植物と魚と、人間を混ぜ合わせたような、異形の姿だった。


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