害呪
ああ、いらっしゃい。
なに?不思議そうな顔だね。
ここがどこかって?
言われなくてもわかるんじゃないの?
死んだあとの世界だよ。
君は死んだんでしょ?
へ?何?
じゃあ何故同じ時間に死んだ奴は来ないのかって?
そりゃ来ないよ。
そういう人たちはここには来ないもの。
自分が選ばれたものだからって?
まあ確かに選ばれてはいるかもね。
……あのさあ、僕にそんなこと言われても困るんだけど。
僕きみが信じているような神じゃないよ?
僕はここの管理を任せているだけ。
神の名前を語る異端者?
僕、君の前で神だなんて言ったことないけど?
それからあまり胸倉つかまないでよ。
首しめないでよ。苦しいでしょ。
あー苦しい苦しい。
神を侮辱したんだから当たり前の罪?
じゃあ仕方ないね。
でも、かわいそうだね。
君の奥さん。
なに青い顔しているの?
君が首しめたんでしょ?
またしめる?今度は誰が苦しむの?誰を苦しめるの?
一生とどかない刃をどこに振りかざすの?
おまえはいったい何者かって?
だから言ったじゃない。ここの世界を任せている存在。
ここの世界は?だから死んだ後の世界って言っているじゃない。
……全く意味がわからない?
本当は分かっているはずだよ。何もかも。
君は何かを理由にして多くのものを傷つけた。
それは神様への敬意だったり、あるいはこの世そのものの憎しみだったり
あるいは、人を傷つけることの楽しさかな。
だから、ここに来たんだよ。それが僕の役目。
え?ここは地獄かって?
やだなあ。地獄って。
そんないつか改心する様な見込みのある人たちが行くところじゃないよ。ここは。
何?自分は神の命令のもとやったんだから天国へ行くはずだって?
ふーん。君が言う神様ってこの人のこと?
神様に何をしたって何もしてないよ。ほらほら僕をたたいたらだめだって。
神様かどうか知らないけどこの人がすごっく痛がっているでしょ?
あーあー自分の舌を切ろうとしたら駄目だってば。
神様もっと苦しそうじゃないの?
代わりに自分を傷つけろ?やだなあ。
思いっきり傷つけているじゃない。
自分の体を見てごらんよ。
ほら、全身まるでハチの巣みたい。
え?痛いから、苦しいからやっぱり助けてくれ?わがままだなあ。無理だよ。
ここはそういう場所だもの。
誰かを傷つけるのに理由をほしがる人間が来る場所。
神のため?家族のため?世界のため?
違うでしょ。自分のためでしょ?自分が世の中に何か行動をなしているって信じたいからでしょ?
教えてあげる。
お前のしたことに何も意味はない。
何一つとしてお前の望みは叶わない。
お前はなにも守れない。
守りたいものはこのように苦しむ。
守れたという免罪符すら許されない。
お前が守ろうとした神は人々の恨みで永遠に苦しむ。
お前が守ろうとしたものは凄惨に潰される。
お前は恐れられることなどない。
ただ、永遠に愚者として石に刻まれ、道化として笑われるだけだ。
お前が消したかったものにもお前が守りたかったものにも同じようにな。
わかるか?
お前の存在など何一つ価値はない。
んじゃ、まあこの先、この宇宙が滅びるぐらいまでだからせいぜい、苦しんでよ。
……あら?壊れちゃった?まあいいや。
明日になったらまた直せばいいし。
あーあ神様も奥さんもただの人形なのになんでこんなもろい人間が世界を壊そうとするのかねえ。
そもそもこの人奥さん居ないし。
神様や奥さんという偽りの記憶をここまで信じられるなんて。
なんでわからないんだろ。
まあこいつの場合は傷つけることを楽しんでたから仕方ないか。
偽りの愛、偽りの信仰心、偽りの誇り。
こいつが生きていたころに背負っていたものをあげただけなのに。
ただ、傷つける理由がほしいためだけに背負っていたものをあげただけなのに。
ここまで壊れるなんて。
俺は悪くない、俺は悪くないって聞こえているなあ。
悪いよ。
悪いに決まってるでしょ。
何かを守ることに理由をつけて剣を振りおろしたら。
そりゃ剣を振りおろされた人は相手を憎むに決まっているでしょ。
守りたい物ごとね。
そこでまた免罪符をほしがるんだろうけど。
そんなのこの世の中にはないよ。
さてと、また、ここに連れてくる人を選ばないと
あ、そうだ。一つだけ教えてあげるよ。
何かを傷つけなきゃ
イキテイケナイナラ
イマスグニ
ココニクレバイイヨ