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宿場町1

町に到着しました。

 その町の門前に晴彦が着いたのは、昼を過ぎ買い物客で俄かに活気付く頃だった。


「止まれ! ……何者だ!」


 中世的な鎧と槍を持った二人組の兵士が晴彦に向けて槍を構え誰何する。

 その声に反応し、晴彦は目の前の二人組の兵士を見る。一番近い兵士の毛髪は燃えるような赤髪であるし、瞳に至っては深い紫色をしている。加えて、その隣にいる兵士は緑色の髪に明るい茶色の瞳だ。晴彦の常識ではどう考えても尋常な色ではない。が、白雪姫の日記を読むと、それらは一般的な色であるということが分かる。


(何者だ! ときたか。ここが兵士の鎧のように中世的な世界観なら……苗字はいらないか?)


 苗字・家名などは貴族の証として最たるものだ。「貴族の名を騙った!」などとして牢屋に放り込まれ処刑されるなどとあっては目も当てられない。


「これは失礼を。……晴彦と申します。」


 軽くお辞儀をしながら伝える。すると、槍を下した兵士が幾分か柔らかい口調になった。


「ふむ、盗賊などの類ではないようだな。随分とボロを羽織っているようだがどうしたのだ?」

 

 それでもまだ警戒しているのだろうか、いつでも突きかかれるような姿勢を崩さないままだ。


(さて、嘘を言ってもどうしようもないが……無事に入れるかどうかは交渉次第か。)


 異世界から来ました!などと言ったところで信じてはもらえぬだろうし、最悪捕らわれて牢屋行き。などということもあり得る。とはいえ、ゼロから作り話を離すというのも、どこでボロがでるかわからぬのである。ならば、と全てを話さずに真実を告げることにした。


「いえ、(異世界から来たので)金が全くありませんでね。なんとか金を稼ごうと(森の中から)出てきたところなんです。」


 すると兵士は隣の兵士が頷いたのを見て驚いたような顔をした。この茶色の瞳をした男、真偽の魔法が籠められた魔道具を使っていたのだ。嘘か誠かを見抜く魔道具はこうした門番などに支給されることが多い。


「なるほど、苦労したようだな。しかしそこもとの村にもギルドはあるだろう? なぜそちらに行かぬのだ?」


「ギ……ギルド? ですか?」


 片眉をあげ、よくわかっていないような顔でそう返答した晴彦に兵士は訝し気な顔を浮かべると、すぐに「なるほど」と何かしら納得した顔で


「ふむ、ギルドの無い村の出か。珍しいものだ。」


 構えを解き、人差し指を立てながら言葉を続ける。


「傭兵のことは知っておろう。それの組合といったところよ。」


 待機の姿勢なのだろうか、槍を体の横につけ"気を付け"の姿勢でそう話す。


(傭兵……ギルド)


 少し考え込んだ晴彦を見た兵士はさらに言葉を重ねる。


「ま、行ってみるがよろしかろう。求めれば説明もされるはず。」


 兵士はそう言いながら門から体を横にずらし道を開ける。


「そのギルドはどのあたりにありますか?」


 行ってみるは良いが場所もわからぬでは行けもせぬ。そう思いながら兵士が立っている先にある町の中を覗く。轍が残るような大きな街道が中心に走り、その街道の周りに宿や店などが立ち並んでいる。


(宿場町なのだろう。)


 無論、宿や万屋などばかりでなく、見える範囲にも野菜を売る店や、辻で何かを広げて売っているものなどを見ることができる。


「ふむ、そうさな。この町は街道沿いに発展した町なのだが、ちょうど町の真中あたりにひと際大きな建物がある。そこが公営の傭兵ギルドとなる。」


 道が緩やかに曲がっている、その中心だと添えて教えてくれた。


(公営……私営もあるのか。複雑そうだな。)


 「有難うございます。行ってみます。」


 問題はないだろうが、気を付けろよ。そんな言葉を背に宿場町へと入っていった。


 宿場町といっても、宿のみあるわけではなく、その町に住む人や店を開いている人など通常の町と変わりはない。晴彦が宿場町に入ったとき最初に耳に入ってきたのは野菜を売る人の活気のある声だった。


「どうだい奥さん! 今日は葉物がやすいよ! 買って行ってよ!」

「あら、もう少し安くならないの?」

「ん~。しょうがねぇなぁ!それじゃ──。」


 久しぶりに聞く活気ある人の声に軽く感動を覚えながら歩くと、まもなく兵士の言っていた大きな建物の前についた。


(傭兵ギルドか。やっぱり腕自慢が多かったりするのかね。んで、バーのカウンターみたいなところがあって髭親父が居たりな。そして古参の傭兵から「お前みたいなギルドの面汚しが~~」とか言われたりな。)


 そんなどうしようもないことを考えながらドアを開く。晴彦の目に飛び込んできたのは


(市役所だこれ……。)


 予想とは全く違う光景だった。バーのカウンターなどではなく、横に長いカウンターをパーテーションで区切ってあり、ブースなっていて、そのブースの中に事務員がそれぞれ一人ずついる。そのうちの眼鏡をかけた中年の事務員があたりを見回して声をかける。


「次の方どうぞー。」


 待っていそうな人は誰もいないのでブースまで進み事務員の目の前の椅子に座る。


「ご依頼ですか? 受注ですか?」


 何度も繰り返したマニュアルなのだろう、こちらをちらりと見てすぐに視線を外し手元にある書類を整理しはじめる。


「あ、いえ、仕事を探してきたのですが……。」


 書類を整理していた手がピタリと止まる。そこで初めてしっかりと顔を向けてにこやかな顔になり。


「あぁ、ご登録の方でしたか。公営ギルドを選んでいただきましてありがとうございます。……こちらの紙にご記入願えますか?」


 そう言いながら一枚の用紙を出してくる。


「わかるところだけで結構ですので、記入をお願いします。代筆、代読が必要であるのならばおっしゃってください。」


 ざっと用紙を眺める。あの魔法大全のおかげだろう。共通語で書かれているらしく、読み取ることができる。


「大丈夫です。すぐ書きます。」


 書類の欄を埋めていると事務員が奥から手帳を持ってきた。


「これは公営ギルドに所属した方に配布している傭兵手帳です。身分証も兼ねますのでどんな状態になったとしてもこれだけは手放さないでください。」


 晴彦から受け取った書類を手帳の上に置くと、掌くらいの大きさがある判子のようなもので上から抑える。一瞬光り、手帳の中身をパラパラ確認してから渡してきた。


「はい。これで登録完了です。依頼の受注をする場合はまたこの窓口まで来てください。受注した依頼の報告や町の外で魔物や動物を狩った場合の素材買取はあちらのカウンターまでお越しください。」


 そういいながら奥のほうを指した。カウンターの中でも特に広いスペースがあり、査定待ちだろうか、何人か並んでいた。


「それから、右手側にある階段から2階に上がりますと、正面に図書室があります。資格情報など得たい場合は活用されるとよいでしょう。」


(資格……? 取得すれば何かに有利になるのか? ……就職とか?)


 そんな疑問を浮かべていると、察したのだろうか事務員は続けて


「あ、傭兵にはレベルがありまして。そのレベルを上げる際に資格があると有利になります。なので積極的に取得されることをお勧めします。」


 手渡された手帳を捲ってみる。捲った一枚目、それの左上に大きく "Lv.0" と記載されていた。


「レベルは貴方の貢献度を数値化したもので、信用・信頼の目安になります。依頼をこなしたり、先ほど申し上げた資格を取得されることによってレベルを上げることができます。レベルを上げれば、土地を借りたり、購入したり。そういったことができるようになります。」


 ずり下がってきた眼鏡を"クイッ"と直しながら事務員は続ける。


「要は、傭兵ギルドが保証します。というお墨付きを得ることができるわけです。孤児等が傭兵になるケースが多いので、保証人を持てない・持たない方が多くてですね。そういったことになっています。」


 誰でもなれる職だが、それだけに無頼者が多いのが傭兵という職業だ。そこで、ギルドに対する貢献度を数値化し、貢献度に応じた保証をギルドがすることにより、ようやく傭兵という職は得体のしれない無頼者から一人前の扱いを受けれることになる。当然、晴彦は貢献を何もしていないのだからレベルは0だ。"得体のしれない無頼者"ではあるが登録したばかりということもあり、対外的にはともかくギルド内部的には


「期待のホープ。といったところです。」


 という扱いになる。無論、数か月レベルが0から上がらないとかだと、"無頼者"扱いされるが。


「なにか狩ったものをお持ちでしたらこちらで処理しておきますが?」


 武器や防具を揃える──どころか、今夜泊まる宿代すらない。そのことに気が付いた晴彦は、その提案に有難く乗ることにした。


「≪空間・転送≫」


 巨狼の遺骸を3つ転送する。解体して無いのが3体分しかなかったのだ。解体したものにしても、晴彦の使いやすいように解体しているため、売れるとは思わなかったのだ。


「……ん?今何か……っと、おぉ、ガルム種ですか。近辺ではまず見かけない珍しい種ですね。オークションでもいいですが、買取依頼のほうが期待額よりも高いですからそちらで処理しましょう。」


 先ほどとは違う書類をだし、事務員が枠内を埋めていく。


(近辺では出ない種……? あの森で狩った巨狼・ガルム種。あそこで出るべきではない? まぁ、近づくべきではないな。)


 埋めていく意外と流麗な事務員の文字を見ながらそんなことを考えた。


「あぁ、そうでした。手続きには多少時間がかかりますから、しばらくしてからきていただければ結構ですよ。」


 2階にはどうやら図書室があるらしい、そう考えた晴彦は、了承の旨を伝え、できた時間を有効に使うべく2階に足を向けた。






 

 




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