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迷い込んだ森3

異世界っぽさを演出するために魔法を出してみました。

いったいどうなってしまうのか(棒読み

 石の上にクルミもどきを置く。そして石斧を短く持ち、軽くたたきつける。そうすると、クルミもどきの殻が割れ、中身を食べることができる。味はとても美味しいとは言えないが、不味いとも言えない。味のない落花生。そんな感じだろうか。

 石斧を作成したのは良かった。何せ、現在唯一食べれるであろう木の実の殻を割ることができるからだ。石だけでも割れるだろうが、それはそれ、これはこれ。である。


(もし、あの岩穴がテロリストや賊の拠点だったとするのならば。)


 多少膨れた腹の影響で、ようやくまわり始めた頭で考え始める。脳裏に浮かぶのは人籠とでも呼ぶべき大きな籠とその中の人骨。

 自らが拠点に定めたあの場所が、何かしらの拠点だった過去がある場合。食糧。特に水場に関しては傍にあるはずなのだ。

 そう予測を付け、岩穴の周辺まで戻る。そして岩山をぐるりと回り込むようにして探索を始める。


 しばらく歩いた頃、流れる小川を発見した。どうやら近くに水が湧き出るポイントがあるらしい。少し上流のほうに行くと水溜りがあり、そこで川は終わっていた。その水溜り…天然の小ダムと呼べるような物で、その水溜りの上には水が湧き出る水源があった。

 その水源から手で水をすくい口をゆすぐ。いまだに油の感触が口の中に残っていたのが洗い流されるのを感じた。そのついで、というわけでもないが、手を洗い、石斧の柄に使っている骨についた狼の血や肉、油も落としていく。振るうには手元が滑りすぎていたのだ。


(やはり、そばに水源があった。ではあの人骨は……。)


 人籠とその中に入っていた人骨を思い出す。焦げた鉄板…鎧があった。しかし、少なくとも自身の記憶では現代社会の中で中世に使われた鎧を常用しているような国は無かったはずだ。


(鎧……なんで鎧なんかが? )


 いくら考えたところで、その答えは見つけることができなかった。



 拠点と定めた岩穴に戻った晴彦は大きな人籠のある広間へ来ていた。


(籠……白骨……壁……以上。……なーんもねぇ。)


 ぐるりと見まわし、ため息をつく。


 大きな人籠と、その中にある白骨。そして、周囲にある岩壁。それ以外のものは何もない。少し奥まったところの岩壁が、崩落したように崩れているのが解るくらいだ。


「何かないですかねぇ?」


 そんな言葉を白骨に語りかける。骨となっているとはいえ元は人。気味が悪いというのもあるが、無視するのは何となく気まずかった。

 すると。


 コトリ


 何もしていないのに、風も吹いていないのに籠の中の白骨の腕が動いたではないか。その腕は崩落した壁面を指しているようで。


「あそこに何かあるんですか?」


 崩落した岩を一つずつどかしていく。すると崩落し岩の中から小さ目の鞄が出てきた。


(鞄…? なんというか年代物っぽい形だな。使いやすそうではあるが。)


 最近では見ないような、昭和初期の学生が持っていそうな学生鞄と言えばいいのだろうか。そのような単純な作りをした鞄だった。

 明かりが差し込む場所で、胡坐を掻き鞄を開け中身をあさる。すると、二冊の本が出てきた。表紙や背表紙には何も書いておらず一冊手に取り中身を見てみても、見たこともない言語が書かれているだけだ。一冊はハードカバーと言えばいいのだろうか、B5くらいの大きさの本で硬い表紙を使った本だ。もう一つは紙の表紙を使った安っぽそうな本でそちらを手に取り一枚、二枚と捲ってみる。


”αΘηΩ□○α Ηθ◇○λ”


(よ、読めない……。)


 そこには見たこともない言語が書かれていた。

 もう一冊の本を手に取ってみる。こちらの読めない言語で書いてはいるが、数枚めくったところで精緻な紋様が描かれているのを発見した。それは、あまりにも細かく書かれていて、まるで文字で本の絵を描いているような、そんな紋様だ。


 インクを確かめるように手を乗せると、紋様が青白く発光し始めた。


「うおぁお!」


 思わず取り落とし、落とした拍子に閉じてしまった本を見ると


”魔法大全・上巻”


 そう書かれていた。


「は?」


 先ほどまで全く読めなかった本だ。急に読めるようになったことに晴彦は驚いた。

 再び本を手に取り、まずは裏返してみてみる。


”定価・580シェル”


「お、おう。」


 これは果たして良心的なお値段なのかそうでないのか──

 そんなどうでもいいことを思わず考えてしまい、頭を振ると表紙をめくり紋様が書いてあった箇所の続きを読み始めた。


”この文章が読めるようになっていれば、共通語の習得は完了です。おめでとうございます。魔法陣以外の手段で共通語を覚えた方は、魔法陣を起動すれば、共通語のスキルを入手できます。”


(共通語…?スキル…?解らないことだらけだ。しかし、魔法陣……まるでファンタジーだな。)


”この上巻では、生活に役立てる魔法から下級魔法まですべての属性について記載します。それぞれの魔法陣を起動し、自らの適性を確認してください。”


(魔法か……鎧と言い魔法と言い、それに見たこともない言語……やはりここは……)


 数ページ捲ると今度は火を象った紋様が書かれていた。今度はためらわずに紋様に触れる。

 赤く紋様が輝き数秒して光が収まる。


”適性があり、習得できる能力があれば紋様が光ります。紋様が光れば習得ができています。使用法は──”


「≪火≫」


 外から拾ってきた枝に手をかざし、書いてあった通りに魔法の構成を組み立てる。といっても”生活に役立つ魔法”レベルの魔法なので、構成もなにもないのだが。


 枝に火花が散ると勢いよく燃え始めた。


「おぉ……これが魔法…。」


 軽く力が抜けるような感覚と引き換えに、火が起こるという現象が引き起こされる。

 パチパチと爆ぜる音を聞きながらしばらくぼうっとする。火が発する暖かさと、その光に目を奪われたのだ。


(いかんいかん。)


 頭を軽く振り、ぼうっとした頭に活を入れ、今しがた使った魔法について少し考える。


(この力が抜けるような感覚。使いすぎると息切れしそうだけど、実際助かる。多用はできないが……)


 そんなことを考え、違う魔法も習得しようと意気込みページを捲る。魔法陣に手を触れ習得をしようと試みたが、いくつか使えないものもあるようだ。今のところ使えるのは先ほど習得した火の魔法と氷の魔法。そして治癒の魔法に斬撃の魔法という変わり種だ。


(火は解る。氷も解る。治癒もまぁ。映画やゲームで代名詞のようにして出てくる魔法だ。でも斬撃って。)


「≪斬撃≫」


 地面に手を着き構成を組み立てると、空気が裂けるような破裂音とともに床の岩が裂ける。


(これはまた……なんというかものすごいな。でも、火も起こせるし、コツはいるだろうけど解体もできる。これなら肉取って来ればよかったか。)


 失敗した──。そうは思ったものの、よく考えてみたらあの時は魔法を習得していなかったし、そもそも魔法があるなんて思わなかったのだ。仕方がないとはいえ、食べれる手段が目の前にあると後悔の一つも出てくるものだ。


(もう一度、狼……狙ってみるか?)


 そんなことを考え、岩穴をでると鬱蒼と茂る森の中へと入って行った。



 森に入り、いつ狼が出てきても大丈夫なように石斧を両手に構える。ジリジリ緊張で焼き付くような時間が過ぎ、


(さすがにそう簡単に遭遇しないか。)

 

 そう考え気を抜きかけた頃


 ガサガサガサッ 

 

 そう音がした。


 黒い影が走る。


 ──油断。


「くそっ!」


 その影に向かい慌てて石斧を振るうが、振るった石斧を特有のしなやかな動きで避けると晴彦の太ももに噛みついてきた。


「ぐっ!」


 声にならない程の痛みが晴彦を襲う。めまいが起きたように目の前が一瞬暗くなり体の芯から響くような痛みがガンガンと出てくる。

 痛みで震える手を、今まさに噛み千切らんと唸りながら首を振る巨狼の首に添えると


「ざ、≪斬撃≫!」


 痛みで錯乱気味の頭でどうにか構成を整え、斬撃の魔法を発動させる。


 バヅン!


 そんな音とともに巨狼の頭と体が切り離される。巨狼の体は2,3歩後ろへ後ずさるように歩いた後、伏せをするように倒れた。

 

「い、いてぇ……。」


 首を振られていない分、先ほどよりは痛くはないが、当然ながらやはり痛い。

 

(い、意識が飛ばなかったのは僥倖だった。意識が飛んでいれば、引きずり倒され腹を食われていた。)


 そう考えながら傷口を見る。


(うわぁ。グッサリだ……)


 噛みつかれた太ももには、当然ながら巨狼の牙が食い込んでいる。牙が栓のような形になり血こそまだ出ていないが、いずれにせよ巨狼の頭をどけなければ治癒の魔法もかけられない。

 治癒の魔法は試しようがなかったから初めての試みになるが、果たしてどの程度消耗してどの程度傷が回復するのだろうか──。そんなことを考える。

 狼の上顎と下顎を握り、力いっぱいにこじ開けると、牙が刺さっていた個所から勢いよく血が流れ出た。


「っと。≪治癒≫」


 むずがゆいような感覚とともに痛みが和らぐのを感じる。流れていた血は止まったようだが、牙が開けた傷穴は残っているのが見えた。


(数回魔法を使わないと傷口は塞がらないだろうか……魔法を使いすぎれば気絶するかもしれない。拠点に戻ってやるべきか。)


 そう考えると、晴彦は仕留めた巨狼と傷ついた足を引きずりながら岩穴へと戻ると治癒の魔法を使う。しかし、先ほどよりは痛みがましになったような気もするが、それだけだ。一度や二度では足りないんだろうか──。そう思い、何度も治癒の魔法を使う。傷が治っていくのは解るが、それと同じペースで頭が重くなるのを感じた。


(精神的な消耗か……治癒の魔法で傷が治るのはいいけど、痛みが引くのと気絶するのと、一体どちらが先になるのか……)


 魔法を行使しながら今までのことを考える。


(恐らく、ここは俺がいた世界じゃないんだろう。少なくとも魔法があるとか俺にも使えるだとか、そういったことを聞いたことがない。定価……通貨単位も見たことがない単位だ。)


 魔法大全を手に取り”定価”と書かれている箇所を見る。


(定価・580シェル。これが高級品なのかそうじゃないのか、それを判断することは出来ない。なにせ比較対象がないからな。もう一方の本は売り物じゃないのか定価の表記がないし。)


 魔法大全のインパクトがでかすぎて今まで見向きもしなかった安っぽい本を手に取る。表紙には日記と書いてあった。

 ページを数枚めくってみると、そこには女性の字だろうか、多少丸っぽい字でその日に起きたことを書いてあるようだった。


(人の日記だ。あまり見るものでもないか。)


 日記を閉じ、鞄の中へしまうと、先ほど戦った巨狼のことを考える。いくつか失敗した点はあるが──。


(第一の失敗は巨狼の力を完全に見誤っていたことだな。何とかなったのだから今回も。そう考えていなかったかと言われると、否定はできない。聊か以上に楽観的だった。)


 最初倒したときは拍子抜けするほど簡単に倒してしまった。それがいけなかった。とは言わないが、思ったよりも楽に倒せる。そういった意識を持ってしまったのは確かだ。


(第二の失敗は超常の力……魔法を手に入れたことによって自分の力を見誤っていたな。どんなに優れた武器を手に入れたところで、俺は俺だ。冴えないサラリーマンでしかない。)


 急に力を手に入れたことにより、持て余した。といえば聞こえがいいが、要は舞い上がってしまって自分の能力を冷静に分析できなかったのだ。敵を知り、己を知れば~などと言った言葉があるが、その己を知る事すらできなかったということだ。


(情けないことだ。完全に自業自得だ。強く。そう、先ずは強くならないと、生き残れないだろう。)

 

 石斧の素振りに魔法の練習に新たな魔法の習得に。出来る事、やれる事を考えていく。


(体力作りに筋トレ……筋肉は素振りでつけるか。)


 漫画か何かの知識だったかもしれない。例えば、石斧を振るのには石斧を振るのに必要な筋肉があって、それは腕立て伏せや腹筋などのトレーニングでは効率的につけることは出来ない──。そんなことを思い出す。先ずは必要な筋肉を必要なだけ。それ以上は不要。そう考える。


(さしあたっては食料を調達するのに必要な筋肉量か。)


 脳裏に浮かぶのは先ほど格闘したばかりの巨狼だ。最初に石斧を振ったとき、避けられた時点で振るのを止め、石斧を盾にして距離を取ることができたなら。また違った結果になっていただろう。それを実現するためには、それに応じた素振りと筋力作りが必要だ。


(回復したら、さっそく始めるか。)


 そう決めて、念入りに治癒の魔法をかけていくのだった。

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