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迷い込んだ森2

森2です。

 晴彦がその岩穴を出たのは日が南中に差し掛かったころだった。飲まず食わずで行動していたため、いい加減口に何か入れたかったのだ。とはいえ、サバイバルの経験などあるわけもなく岩穴を出たところで途方に暮れていた。


(さて、どうするか。待っていても食事は出てこない。どうにかするしかあるまい。)


 そう心に決めるも、どう行動すればいいかがよくわからない。川を探す、魚を取る、食べれる木の実を探す、動物を狩猟する。選択肢自体はそれなりにあるものの、それに対する知識がないのだ。


 例えば、山菜やキノコを取るにしても何が食べれて、何が毒なのか。それがわからない。幸か不幸か食べれるものによく似ている毒物があるという中途半端な知識がある分、余計だった。魚は釣竿を使った釣りですら碌にやったことがなく、道具を作るといっても検討すらつかない。魚や動物を狩猟するに当たっては、一番現実的だろうが、捌けず調理できず。そんな有様だ。とはいえ、現状をとてもではないが想定できるような事態ではないので、責めるようなことでもないのだが。


(学んでおくべきだった。)


 そう思ってしまうのも仕方がないことだった。知識がすべて中途半端な聞きかじりでしかないのだ。一般的な会話では少しディープな印象をうける知識でもその場に至っては中途半端な知識でしかないものだ。


 そう考えながら森をしばらく歩くと、


 ガサリ


 と音が聞こえた。反射的に音がしたほうへ向きなおる。何かいるようには感じなかったが、例えるなら営業会議、そこで一人だけ立ちノルマの達成度を言う時の注目される感覚。そんな感覚を覚える。


(なにか……いる。)


 そう、確信し足元に転がっている石を握る。投石器があるわけでもなし、ダビデ王よろしく石を投げるわけではない。どうにも無手では心細かったのだ。


 自然、緊張してくる。だんだんと息は浅く、細くなり、石を握りしめる。


 ガサガサッ


 葉が揺れ、草が擦れる音がする。さらに緊張は高まる。すると


 ガササッ


 そう一際大きな音がすると、大きな狼が飛びかかってくるではないか!


「うおぉぉぉ!? 」


 情けなく上擦った声を晴彦は上げた。だが誰が彼を責められるだろうか、彼は今まで命の危険のない場所にいたのだ。そうなるのは別段不思議ではない。それに、体高が胸のあたりまでありそうな巨狼だ。怯むな。というほうが無理がある。


 夢中で握りしめた石を側面より狼の頭に打ちつける。


「ギャウン!! 」


そう大きく鳴くと狼は少し離れた場所に着地した。だがふらふらとよろけながらも、まだこちらをかみ殺そうとこちらを睨みながら歯を剥き唸る。それに恐怖を感じた晴彦は、本能の命じるままに再び石をまだふらつく狼の頭に振り下ろした。


 数度振りおろし狼が痙攣すらしなくなった頃、晴彦は安堵し喘ぐように尻餅をついて上を見上げた。


「っはぁっ…はぁっ…はぁっ」


 初めて動物を殺した。しかし、その罪悪感のようなものは晴彦の中にはなかった。そうしなければ自分が殺されていた。弱肉強食の世界なのだ、迷っている暇などない。

 腹が一際大きく鳴る。自分は空腹だった。そう思い出す。今しがた仕留めたばかりの狼が目に映る。手を伸ばすが処理の仕方がわからない。何をすればいいのか、それが思いつかない。

 とりあえず、皮をはごうと石を打ち付けたときにできた裂傷に指をかけ力の限りに引っ張る。


 ミチミチィッ


 そんな感触が手に残る。とてもではないが気持ちの悪いものだ。多少できた隙間に手を差し込む。骨に気を付けるようにして手を動かすと動かした分だけ皮がはがれた。

 岩穴の中で白い棒を拾ったことを思い出し、胸ポケットに入れておいた白い棒を取り出しその棒を差し込んで動かす。すると、手で皮を剥がすよりより剥がしやすいことに気が付いたが、半分ほど剥いだところで皮が破けた。


(破けた……うまく剥げないものだな。)


 とはいえ、皮を使って何かする。というわけでもないので、剥げた皮を捨てると露わになった肉に目を向ける。誘われるように口を近づけ、齧り付く。


「うげぇっ! ぐっ! げほっ! げほっ! 」


 当然といえば当然である。狼の肉など食べたことはなかったし、なにより生だ。処理も何もしていない肉など到底喰えたものではない。


「ぺっ! ぺっ! 」


(こ……これは酷い。酷い目にあった。……生だし、そりゃそうか。)


 しかし、あまりもの空腹に視野が狭窄気味になっていた晴彦は正気に戻る。

 改めて偶然にも仕留めれた狼を見るとその大きさに驚かされる。前足も人の足位の長さがあるのだ。


(しかし、長い足だ。……ん? )


 閃くようにしてとあるゲームを思い出す。そのゲームは素材を組み合わせることによって武器や防具を作り出し、それらを持って強大なモンスターと戦う。そんなゲームだ。


(この足の骨……使えるか? )


 先ほども使った白い棒を使い前足の皮を剥いでいく。何度か破れるが気にせず剥いでいき剥ぎ切ると今度は肉を樹木にこすり付けたり石でたたいたりして落とし始める。

 すると、巨狼の骨が取れた。巨大な体躯に見合った太い骨だ。そして堅く、木に思いきりぶつけた程度では割れもしない。みっしりと中身の詰まった骨だ。


(これは良い。こんな狼も襲ってくる可能性があるんだ。こういったものも必要だろう。)


 数度素振りをしながらそんなことを考える。骨の先、窪んでいるところに石と石をぶつけて欠けさせた石を添え、木に絡まっていた蔦で固定をする。これで、原始的な打製石器の斧が出来上がる。


(しかし……武器か。)


 そう思いながら手にした石斧を見る。とてもではないが武器とは思えないようなものだった。素人が作ったにしてはマシなほうなのかもしれないし、悪いながらもキチンと使えるものなのは中々の出来と言ってもいいのかもしれない。


(ラッキーもあったけど、狩猟はダメか。調理できなきゃなぁ。)


 血抜きをし、焼く・煮るなどをしなければ、とてもじゃないが食べれたものではない。となれば、さしあたっては木の実を食べるしかないのだが、何が食べれるのかが解らない。


(わからない以上食べてみるしかないよな。……せめて見たことがありそうなやつにしよう。)


 上を見上げて実が付いていないかどうか。それを見る。


(無い…無い…無い…おっ。)


 クルミのような木の実が付いているのが解った。重量感もあり、一房にいくつも成っている姿はまるでブドウのようで、遠目で見て美味しそうに見えたのも良かった。


(登れるかな……っと! )


 木の袂に石斧を立て掛け、木を登ろうと試みる。木には出っ張った節がいくつかついていて、それに指をかけるとスルスルと登っていくことができた。

 太めの枝に乗りソロソロと進み、クルミに似た木の実を落とす。バランスを崩しヒヤリとする場面もあったが、無事に幹にたどり着き、地面に降りる。久しぶりの木登りは強く緊張したらしく、降りた後も指が痺れているような気がした。


(木の実だ。さっきは散々だったからな。これで人心地付けるだろう。……さて、殻を割らないとな。)


 多少疲れはしたものの、食べれそうなものを手に入れられたことに晴彦は足取り軽く殻を割るために岩を探すのだった。




 

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