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迷い込んだ森1

 座っていたところで事態は好転しまい。そう自分に言い聞かせると晴彦はやや重くなった腰を上げた。


(森……か。さて、どうするか。)


 なにせ、なぜ森にいるのか、それ自体がわからないのだ。気がついたら居た。正しくその状態であるため、その理由を考えることを晴彦は棚上げした。


 ふと上を見上げる。木漏れ日の隙間からほんのわずかに覗く青い空が不思議と美しく感じた。そして視線を落とし周りを見渡す。先が見えないほど続く木々は今いる場所が相当に深い森林だと思わせるのに十分だ。


(割と詰んでる? )


 別段余裕があるわけではないが、そんな考えが頭をよぎる。そう、こんな時に必要なのは


一つ、洞くつなど雨風を避けれる場所。

一つ、水。

一つ、食べ物。


 つまるところ、この三つに集約される。


(さて、どうするか。)


 黙考する。


(とりあえずは拠点を定めるべきだろう。とりあえず寝たいし。……探さないと、だけどな。)


 そう結論付ける。再びぐるりと見渡してみても、目に映るのは木ばかりだ。


(すこし、歩いてみるか。)


 この場に居続けたとして好転はしないだろう。そう見切りをつけた。


 歩いても、踏み固められていない土の上は妙にふわふわと不安定な感触を晴彦は覚えた。これまでコンクリートの上を歩き、アスファルトの上を歩いていた晴彦にとってその感触は以外にも心地よく心を弾ませるものがあり、しばしその感触を楽しもうとするが、寝る事すらままならない現状を思い出し頭を振るとあてもなく歩き始めた。


 脛が痛くなり、脹脛がだるくなり、腿もだるくなってきたころ、開けた場所に出た。

 ちょっとした広場のようになっており、辺りには見たことのないような花や草が生えていた。

 そして──。


「おぉ……。山だ……。」


 目の前には岩山があり、少しよじ登れば岩穴があった。わざわざ野生動物が入りそうにないところにある岩穴はまさにうってつけのように思えた。


 疲労の溜まった体に鞭を打ちなんとかよじ登ると、岩穴の中に身を放り投げるようにして寝ころんだ。


「っはぁ~~~ぁ。つ、疲れた……。」


 どれだけぼうっとしていただろうか、はっと気が付くと空が赤くなっていた。


(夕日か。そういえば、会社を出たのは深夜というか早朝というか……その辺りだったな。)


 この森林に来た時、空はすでに青かった。そのことを考えると


(ほ……ほぼ一日経ったのか……。 )


 その事実は晴彦に休日の終わりを告げるものであり、せっかくの休日が良くわからないことで潰れたということもあるが、何よりも


(仕事どうすんだよ……。)


 と、絶望する割合のほうが多かった。晴彦は愛社精神に溢れる。という訳では決してない。しかし、それでも就職氷河期とまで言われた時代に入社したこともあって、転職にやや否定的。というよりも、転職はできないだろう。と思っていた。そも、まだ新入社員と言ってもいい年代なのだ。それで転職では少々厳しいものがある。


(ここから帰ったらまたエントリーシート書くところから始めるのか……履歴に穴が開いてどうすんだ。営業だしなぁ……。)


 転職では第一に技量が求められる。一線級の人間だ。だが技術職ではなく営業職だったことを考えると、そう簡単に転職できるのもではないという考えにたどり着いてしまう。若ければ雇うところもあるかもしれないが、技術がゼロではやはり絶望的だ。

 そう考えながらコテンと横に倒れる。


(って、そうじゃねぇよ。)


 むくりと起き上がる。そう、気にするところはそこではないのだ。会社とか仕事とかそれ以前にあるフレーズが頭をよぎる。勿論脳内ではあの渋い音声付きだ。


(君は、生き延びることができるか? )


 そう、この森から脱出するには生き延びなければならない。晴彦はそう考えると転がり込んだ岩穴のさらに奥を見やる。明かりは多少入っているが、奥の方は暗く曲がり角があるようだ。


(まるでダンジョンだな。)


 場違いな考えに思わず小さく笑みを浮かべると、その先を見てみようと起き上がった。


 無意識のうちにソロリソロリと足音を消すようにして歩く。多少以上に緊張しているらしい。


(小学生とかそのあたりにこんな遊びやったことあったな。)


 某最終幻想よりは竜探索派だった晴彦にとって、このようなダンジョンアタックめいた行動は心ときめかせるような何かがある。童心を思い出し、深く考えずに壁に身を寄せ曲がり角をのぞき込む。

 すると、その先の広場に光が上から入っているのが分かる。


(天上に穴が空いてるのか? )


 そう予測を立てながら光のある方へ歩いていくと、そこはちょっとした広場になっていて、上部は予想通り穴があり、上から光が降り注いでいるのが分かった。穴と言っても人や動物が出入りできる様な大きさの穴ではなく、光がかろうじて入る程度の穴だ。


(なんというかまぁ……都合がいいことだ)


 ここならば拠点にするのに申し分ないだろう。穴から見える空はだいぶ暗くなってきていた。


(あとは明日か。あとは水に食糧に……あー。食糧。どうするか……)


 木の実を食べるのもいいだろう。ただし何が食べれて何が食べれないのか、それがわからない。あるいは、小動物を狩るのもいいかもしれない。捌けないし調理できないという欠点はあるが。


(あ……改めてわかるこの詰みっぷりよ。)

 しかし、ことはできるできないという段階ではない。やるしかないのだ。


(が、がんばろう)


 そう心に決めると壁際に寄りかかり、そのまま目を閉じた。

 


 軽い空腹を覚えて目が覚めた。夜は明け日も上がっているようだ。


(ここ、獣が入ってきたりとかしないんだな。入り口の段差よじ登れないのかねぇ。と、すれば結構良い場所だな。)


 そんなことを思いながら軽く体をほぐす。慣れない格好で寝たためか体中が凝り固まっている感じがする。


(食料もだけど、寝床の確保も必要か。藁とか…何かの葉が現実的か。……土を撒くだけでも効果があるかもな。)


 よい感じに体も解れ、少し体が温まった頃、今までいた広場の先にまだ道があることに気が付いた。昨日は暗かったのとすぐに寝てしまったため見過ごしていたようだ。


(まずは、あの先を見るか。)


 無防備に寝ておいて今更。とは思ったが、ともかく晴彦はまた忍び足で進むことにした。分かれ道も特になく、しばらく進むと少し開けた場所に出た。この場所も上部に穴があるらしく光が射し込んでいる。とはいえその光量は多くなく、薄暗い。そして晴彦の視線の先には──。


(鳥籠…にしてはデカいが。)


 鳥籠があった。ただし大きさは鳥を入れるような大きさではなく、人が入れるほどの大きさだ。そしてその籠の中に白い物が見えた。


(白い……骨!? )


 牢の中には人骨があったのだ。そしてその人骨の中に、不思議な光を放つ石と鉄の環が落ちていた。ここまでそろっていれば大抵はわかる。これは鳥籠ではなく所謂、人籠であろう。そして、鉄の環は中の人を縛るための枷だ。ここに人が囚われていたことになる。

 中をよく観察してみると、骨に混じって黒く焦げた鉄板があった。


(なんだ……? 鉄板……?)


 人骨に対する忌避感よりも、鉄板に対する興味が勝った。というのも、ただの鉄板には思えなかった。どうやらその鉄板は加工されたらしい形をしているのだ。そう、例えるなら多少小さ目ではあるが、上半身、その中でも胸部を包むような大きさだ。


(鎧……?)


 黒く焦げ、損壊が激しいが、まさしくゲームの中で見るような鎧がそこにあった。


(ふぅむ……うん?)


 グルグルと籠の周りをまわっていると、白い棒のようなものが落ちていることに気が付いた。


(なんだこれ?)


 しゃがみ込み手に取ると、やけに白さの目立つ棒で、長さは腕より少し短い程度。晴彦の腕、肘から手首までは30cm程度なので、この棒は20cm程度だろうか。少し反っていて握りやすい。


(棒……何かに使える……か?)


 棒を懐に入れ、立ち上がる。


(あの石……宝石か? っても、拾ったところで今時点では何の意味もないが……。)


 籠には錠がかけてあり、簡単に開かないようになっている。


(構造簡単そうだし、針金があればなんとかなりそう……か? いや、鍵を壊せばいいのか。)


 当然ながら都合よく針金など持っているわけもなく、錠前破りはあきらめて壊すことを考える。


(まぁ、壊すっても素手じゃ無理だしな。拾った棒……じゃ折れそうだな。それよりも、現状を何とかしないとな。)


 そう考えると、晴彦は森に出るべく籠のある広場を後にした。



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