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いきなりだがどうやら俺、一之瀬恭耶には前世というものがあるらしい。
はじめは高校見学のときだった。桜ノ宮学園。いわゆる伝統ある名門校というやつである。偏差値はそれなりに高いがかなり自由な校風であると聞く。しかし今は関係ないのでそのあたりの詳しい話はいったん置いておく。この学校であるがそのとき俺は間違いなく初めて来たはずだった。なのに妙な既視感を感じた。『自分はこの場所を知っている』と。その感覚は入試、合格発表と学校に足を運ぶごとに強くなった。そうして向かえた先日の入学式。俺はこの既視感の正体を唐突に理解した。『あ、この学校乙女ゲームの舞台だと』。
『恋咲くGAKUEN』という乙女ゲームがある。いや、正確にはあった。内容は、良くも悪くも普通に学園ものだったはずだ。正直話の大筋は覚えているが細部はまるでわからない。まあそもそもこのゲーム、前世の妹が兄である俺にほとんど一方的に話して、薦めてきたゲームだから仕方ない。
そしてここからが大事だが、俺一之瀬恭耶はそのゲームの中において攻略対象の一人である。そんな俺の立ち位置は……ヒロインの教師である。
つまり何が言いたいかというと前世の記憶の中にある物語の時間軸とひかくしてまだ10年近く前なのである。
ならば俺は今何をすべきか?
ここ数日俺はそれを考えていた。
そして出た結論が『まずはここがホントに乙女ゲームの世界か確かめてみよう』というものであった。
そもそもである。自分の頭の中に突然浮かんだこの前世の記憶であるが、はたして本物であるか。まずそこからして疑わしい。事実は小説より奇なりなどというが、前世の記憶を思い出し乙女ゲームの世界にいるなどということ常識的に考えて意味がわからない。正直自分の今の状況と同じような話を友達にされたらそいつの頭を疑うだろう。だからこそ確かめなければ。この記憶らしきものが本物なのかどうかを。
それに乙女ゲーム云々を度外視しても、この記憶が本物ならばいわば未来の記憶である。つまりうまく使えればいろいろとやれることがある。
こうして俺はこの世界が本当に乙女ゲームの世界なのかを確かめる決意をしたのだった。
「おい恭耶、一緒に部活見学にいかね?」
俺が決意を固めた次の日の放課後、俺は早速行動を開始しようとしていた。そうして帰宅準備をしていたときである。俺の前の席のやつから声がかかった。
「いや、遠慮しておく。今日はちょっと大事な用があるんだ」
「大事な用?」
こいつの名前は旭佑真。中学時代からの俺の友達だ。
「俺の今後にかかわるかもしれない重要なことだ」
俺はこれから行うことがいかに重要かを示すため、できる限り真剣な面持ちで答える。
「おぉ、なんかすごそうだな」
どうやら俺の真剣な様子に感じるものがあったのか、佑真は驚きを含んだ言葉を返す。
「まあな。それに多分だが1日だけじゃ終わらないと思う。これから何日か放課後を使うことになるだろう」
「そっか、どんな用かは知らないけど頑張れよ」
「悪いな。せっかく誘ってくれたのに」
「いいって、いいって。部活なんていつでも決めればいいし」
そう言って、何も気にすることはないとばかりに俺を送り出してくれる佑真。いいやつだ。
「でもそんな大事なことがあるって、お前これからどこ行くんだ?」
「ん?城山小学校がだ」
「え?」
「?」
「……どういった用で」
「なんと言ったらいいか、ちょっと気になる人がいてな。それを確認しに行くんだ」
確かヒロインの桜野奏(デフォルト名)は小中学生の時、窓から見える桜ノ宮高校にあこがれていたとか何とか言っていたはず。俺と桜野の年齢差は9歳。つまり今彼女は小学1年生。このあたりで桜ノ宮高校が見えると言ったら城山小学校ぐらいだ。ならば当然この世界が乙女ゲームを模しているなら桜野もそこにいるはず。幸い今日は新入生歓迎テストとかいう何を歓迎しているのかわからんテスト(2,3年生は同じ時間に休み明けテストをやっている。ちなみに今日は最終日。)のおかげで午前中で学校も終わった。小学校1年生の下校時間にも余裕で合わせられる。
「……その気になる人というのは学校の先生とかか?」
「違うぞ。生徒の方だ」
「お、おぉ……」
何やら突然佑真が頭を抱え始めたがどうしたんだ?
「話は終わりか?じゃあまた明日。俺は急がないといけないんだ。早くしないと彼女が下校してしまう」
佑真の挙動不審は気になるが今は急がなければ。早くしないと彼女が帰ってしまう。
そうして俺は教室から出て行こうとしたのだが―。
「ちょ、ちょっと待て!」
なぜだか佑真が止めてくる。なぜだ?俺は急いでいるんだ。
「俺もお前についていく!」
「なぜだ?小学生に興味でもあるのか?」
「すげえ心外だ!むしろお前が何しでかそうとしてるのか監視するために行くんだよ!」
「?それはいわゆるBLというやつか?言いたくないが気持ち悪いぞ」
「それも心外だよ!」
そうしてわーわー騒いでいたが、時間も時間なので結局佑真を伴って小学校へ行くこととなった。
(くっ、どこだ桜野は!)
「……おい」
(さすがにゲームの桜野と比べて9年も前も彼女を判別するのはムリか?)
「おい」
(いや、そもそもこの前世の記憶が妄想である可能性も……)
「おい、聞け恭耶!」
「なんだ、佑真」
いきなり大声を上げて、いったいどうしたんだ。
「お前……なぜ明らかに小学校1,2年生と思われる生徒ばかり見ている?」
「さっきも言っただろ、俺の気になる生徒がここにいると」
「な、その相手とやら小学校低学年なのか?」
「正しくは1年生だ!」
「1年生だと!?」
まったく、騒がしいやつだ。連れてきたのはやはり失敗だったか。本当はもっとこっそりと彼女を確認するはずだったのに。
「らちが明かんな。しょうがない」
痺れを切らした俺は一人の生徒をロックオンし近付く。
「おい、恭耶。はやまるな!」
「?何を言ってるんだお前は。俺はただ彼女に聞きたいことがあるだけだ」
そうして俺は佑真の静止を振り切って女の子に接近し話しかける。
「そこの君」
「?なーに?」
「実はちょっと聞きたいことがあるんだけど、この飴をあげるから教えて―」
俺はポケットに入れていた飴を取り出そうとしたが。
「はいアウトーーーーー!」
いきなり佑真が叫んで俺を小学生から引きはがしにかかる。まったく、なんなんだこいつは?
「なんだ、いきなり?」
「なんだじゃねえよ。なんだその飴をあげるからっていう典型的犯罪っぽい喋りは!」
「情報をもらうのだから渡すのは当然だろう!」
俺は至極当然のことを言ったがなおも佑真は何か騒いでいる。しかしそんな俺と佑真に取り残されてしまっている人物が一名。
「あ、あのー」
先ほど声をかけた小学生女子である。
「あぁ、ごめんごめん。連れがうるさくて。ほら、佑真も謝れ」
「うっ、ごめんねムシするみたいになっちゃって」
「ううん。あのね知らない人にお菓子とかもらっちゃダメってお母さんが」
「ああ、そうかそうか。ごめんね」
「ううん」
やはり小学生はよいものだ。佑真と違って変に突っかかってこない。
「それでね聞きたいのはね桜野奏さんっていう人を探してるんだけど知らないかな?」
「奏ちゃん?それなら―」
そういうと彼女は後ろの方を指さす。そうして彼女の指の先を見ると―。
(似てる。いや、まさにゲームの彼女をそっくりそのまま幼くした感じだ)
俺は思わずそのヒロインそっくりの彼女を凝視してしまった。
「お、おい恭耶。まさかお前」
「……」
「がちか?がちなのか!?」
「……」
「奏ちゃん呼んでくる?」
「いや、いい。ありがとう教えてくれて」
「どういたしまして」
そうして俺は来た道を戻っていくのだった。
とりあえず今日のところはヒロインが存在するということが知れた。それだけでも大きな収穫だ。
「おい恭耶、マジか?マジなのか!?」
相変わらず佑真はうるさい。
それからも俺は桜野について調べ続けた。彼女が休みの日に公園にいるのを眺めたり、彼女をどういう行動をするかあとをつけてみたり。
そうしてわかったことだが、やはり彼女はゲームヒロインそのままといって何ら問題がなかった。優しく、どんなことにも正面からぶつかる、まさにゲームの時のヒロインだ。
これはいよいよ前世の記憶が本物である可能性が高くなった。
「おい、恭耶。今日もお前は彼女をつけてるのか?」
「むしろお前はなんでいつも俺のそばにいる?」
「監視だよ!」
……この会話からもわかると思うが俺のいく先々に佑真がいる。ホントなんなんだこいつは。
「俺は最近割と真剣にお前をホモじゃないかと疑ってるんだが、ホントに違うんだよな?」
「当たり前だ!ていうかそういう性癖関連はお前にだけは言われたくねえよ!」
「意味が分からん」
まったく、佑真は相変わらずうるさい。
さて、俺の未来のため今日もヒロインについて調べるとするか。
……余談であるが最近城山小学校の周りに二人組の不審人物が出ているらしい。まったく、小学校の周りを徘徊するとかロリコンってやつじゃないのか?日本のモラルも落ちたものだ。見つけたら捕まえないとな。
「てめえが言うな!ていうか二人組って、俺も同族に見られてるのか!?ふざけんな!」
相変わらず佑真は騒がしい。
思い付いたので書いた。反省はしているが後悔はしていない。