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僕の脚に縋り付いて泣き喚き「愛して」なんてつまらない戯言を吐く、この醜く穢らわしい怪物を「愛する」ことができない僕は、それを知らなくていいことだと思った。

何故ならば、この怪物が怪物になったその根源こそ「愛」だからだ。「愛」を知ってしまった怪物は、僕自身を求めているのではなく、「愛」のみを求め這いずり回る。そんな下等生物でしかない。

怪物は僕の足にキスをした。正確には足の甲。隷属の意味がある。脛にもキスをした。脛は服従の意だ。怪物の癖に博識なコイツのことだから、多分狙ってやっているのだろうと思った。次は爪先。

僕は怪物の顎を爪先でなぞり、そのまま持ち上げた。


「お前にとっての愛とはなんだ」


そう尋ねれば、至極従順に応えは返ってくる。


「私にとっての愛は、私に快楽を、悦楽を与えてくれることよ」


その表情はモヤがかかったようによく見えない。


「それ以外は何も要らないのか」


「そうね」


そう短く答えた怪物は何故だか悲しそうで、何故そんな顔をするのか訳が分からなかった。

ただ、その返答は僕が求めるものでないことだけはわかった。


「さぁ、私に愛を頂戴。聖なる夜の愛ほど素晴らしいモノはないわ」


聖なる夜の愛だからといって、それが素晴らしいモノになる筈がないことはとうの昔に分かっている。怪物の言葉には、ただ欲求と不満が入り混じっているだけで、そこには何の感情もない。


腰まである艶やかな長い髪を耳にかける。僕を誘うかのように押し付けてくる豊満な胸よりも、ちらりと見えたピアスに僕は驚きを隠せなかった。

そのピアスは僕が幼少の頃に付けていた物で、ずっと無くしてしまったと思っていた。この怪物は僕が驚いていることに気付かず、やたらめったらキスをしている。そして僕の口へとキスを仕掛けた時、僕はピアスへと触れ、囁いた。


「なんで、これを持ってる」


怪物は息を呑んだ。それが僕にも分かった。

色鮮やかな赤いルージュは動かない。

僕はカラリとピアスを鳴らした。


「お前は僕の________。」


「やめて!!」


悲痛に叫ぶ怪物が憐れに見えた。

薄々分かっていたことではあった。が、僕はそれを追求しなかった。確証がなかったからだ。確証がないことを追求する暇があるほど暇ではないし、それを追求したところでどうなるかなんて分かりきったことだった。



やはり聖なる夜の愛とは特別なものなのかもしれないと、怯え震える怪物のピアスをやはりカラカラと鳴らしながら思う僕は、愛しの怪物にそっとキスをした。

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