絶
絶命するということを分かり易く一言で表すなら、死ぬという言葉がまず当て嵌る。
侑子は「死」という単語を使うのが嫌いだ。安直過ぎるから。だが、かと言って「往生」とか、「他界」とか、そう言った回りくどいのも、決して好きにはなれないのだった。
丁度良いものが好きなのだ。意見が偏るなら折衷案を出せば良いのに、と、侑子は会社の(侑子からすると)どうでもいい会議に参加しながらいつも思っている。
(…さて、どうしようか)
自宅のローテーブルの上に広げられた白い何の愛想もない便箋と、隅に金魚が描かれた恐ろしく綺麗な筆跡の便箋をちらりと一瞥し、深く溜息を吐いた。
親戚が「絶命」したというのだから、本来ならばお葬式にもきちんと行くべきであって、更に言うとその日は会社が休みだ。
行きたくないという心の中の葛藤と戦いつつ侑子は筆を進めようとするものの、回りくどいのは嫌いだ、と、侑子は頭を抱える。
だがそれも少しのことで、5分程額に掌を押し付けたかと思うと
(どうにでもなれ)
と、まるで何も書かれていやしない便箋を丸めて捨てれば、ソファへと横になる。仰向けになって右腕で目を隠すと、灯りが無くなって目が楽になる。
「…どうにでもなれ」
そう呟いて右腕を退ければ、チカチカとした視界の中であの便箋の金魚が泳いでいる気がした。