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夢に生きる  作者: 霜月 仁人
第1章 目覚め
3/4

現実

俺は過去に戻ってしまっているのか。

自分の部屋でがむしゃらに、自分が高二だという証を探そうとした。



よく見ると部屋は荒れていて机には沢山の教科書が積まれている。

さっき寝ていたところにあった参考書。中一の時のものだった。ページをめくる。


正と負の数。泣きたくなる。


その周りにある教科書にも中一 城崎 工と汚い自分の字で書かれている。

他の教科書も全て自分が中一の時に使っていたものだった。



「うわあああああああああああ」


泣き崩れて床にへたり込む。床には作り終わったガンプラがカバンの横に置かれていた。ちょうど俺が中一の時に流行っていた型のものだ。

クラスメイトが皆これを作っていて、部活を辞めたところで時間を持て余し、しかもそのころ友達がいなかった俺は話についていくために一ヶ月2000円の小遣いをはたいてこのガンプラを買った。

二日ほどで作り上げてすぐに学校に持っていった。かなり上手く出来て皆に賞賛され、友達も出来、役目を終えたそのガンプラは今頃高二の俺の部屋で埃をかぶって机に飾られているのだ。


認めたくなくて俺はガンプラを壁に投げた。

すごい音がした。

それでもよほど丁寧に作られたのかガンプラは壊れなくて、彼の姿がこれは現実なのだと俺を嘲笑っているかのようだった。



くそっ


しばらくそのまま床に座り込んでいたがフラフラと机につかまり立ち、洗面所に向かった。もしかして本当に俺は中一なのか。

冷静にならなきゃいけない。風呂に入って一人で落ち着いて考えよう。


洗面所の鏡で自分の姿を見る。まだ顔は幼くてニキビもない。しかし髪はぼさぼさで眼の周りの隈は酷く、そしてなんとも卑屈で不細工なやはり中一の時の俺の顔だった。そりゃそうだろうな。わかっていたけどやっぱり傷つく。ほっぺたには少しあざと傷があって、おそらくこれは杉山先輩に殴られた跡なのだろうと容易にわかった。


服を脱いでお風呂に入る。体には腹筋が全くついてなくて、やはり体中にあざと傷がある。周りから見えない服の中は更に酷かった。


そして中一の俺の体にはまだ陰毛すら生えていなかった。


確か、発育が周りより遅かったんだよなあ。身長もまだ150cmもなくて小柄だった俺は先輩からいじめの格好の標的にされた。友達はいじめられている俺を避けて離れていって、友達の一人もいなかった俺は遊びに行くこともせず二つ下の弟のことを溺愛しいつも二人で家で遊んでいた。



いや、こんなことを考えている場合ではない。今の自分の状況を整理しなければならない。

そのためにお風呂に来たのだ。俺は自分の今の状況について真剣に考え始めた。



俺は夢の中で生活していた。


夢の中では、大阪府立塩花高校二年生の城崎工。

全国でも強豪と言われている塩花高校テニス部の副部長で部を支える存在だった。テニスももちろん上手く友達はたくさんいた。自分から友達を作ろうとしていないのに向こうからたくさんやってくるのだ。

しかし勘違いして欲しくないのは、俺の友達がそういう俺の才能とカリスマを求めてやってくる奴ばかりではないということである。


俺には親友がいた。同じくテニス部部長の大橋和樹だ。彼は運動神経抜群で成績優秀、また容姿端麗で、俺とお互いに高め合うことが出来る最高の親友でありライバルであった。俺は彼のことを尊敬していて、彼もまた俺のことを尊敬してくれていた、と思う。


また、俺には彼女もいた。俺だって和樹くんに劣らないほどの美形なのだ。年を重ねるごとに俺は垢抜けて逞しくかっこよくなっていった。中一の時に一人ぼっちでいじめられていた時のストレスと寝不足で卑屈になった無愛想で醜い顔はもうどこにもなかった。

彼女の名前は水石菜都希という。中二の時から付き合い始めた。足と手が本当に綺麗な子で、とても優しく人のことをいつも気遣う。素朴だけど笑った時の顔が本当に可愛くて俺から告白したのだ。高校は同じところに進学して学校でもイチャイチャしている。


俺は素晴らしい中学・高校生活を謳歌していた。



しかしなんということだろう。これは自分のただの夢であったということである。現実をどうしても認めたくなかった結果の勝手な妄想なのだろう。あまりに滑稽だ。


本当の俺は中学一年生 城崎工13歳。

学校では人気者ではないどころか先輩からいじめられているし、友達も一人もいない。だからかっこいい親友もいない。

気の利く笑顔のかわいい彼女なんているはずもないし、学校で女の子の手と足フェチの色気を振りまく変態仮面なんて呼ばれながらも尊敬され慕われているなんて有り得ない。別に運動は得意じゃないし、勉強もあんまり出来ない暗くて冴えない男だ。そして少々ブラコン気味。


うわぁ酷い。


思わず声に出して呟いてしまう。今の自分の状況に溜め息すら出なかった。なんだこの妄想男。自分でも余裕で引ける。


とりあえず俺は、四年間分の夢を見ていたということだ。夢の中では一日一日ちゃんと生活していて、その中は余りにもリアルであった。寝食をちゃんとし、学校の授業も毎日四十五分一コマで六コマずつあって、受験勉強もちゃんとして、家族旅行にも言って彼女も作ってしまったというわけだ。日々を過ごすにつれて俺はちゃんと成長していったし、親だってシワと白髪の数が増えていった。ほんとうにリアルだ。夢だと自分が認識できなかったのも無理はない。



自分はふと昔、ネットで見た五億年ボタンという話を思い出した。

五億年ボタンというものがあって、そのボタンを押すと何もない空間に送り込まれて、そこで五億年過ごさなければならない。

食欲や睡眠欲はそこでは全く湧かず寝ることも食べることも許されない。ただ自分の身一つがあるという感じだ。気も狂うだろう。

そして五億年経てば記憶を消されて元の世界に戻る。そして報酬の100万円を貰える。何もない世界で五億年過ごした人は、記憶を消されているためにあたかも一瞬で100万円貰えたかのように錯覚するという話である。



なんだか今の自分はこの状況に似ているなと思った。ボタンを押したわけではないけれど、自分は現実と余りにも似た異空間で四年間という年月を過ごした。そして本当の世界に戻ってきた時にそれらは意味を失った。

けれどひとつ違う点がある。それは俺が夢の内容を全てしっかりと覚えているということだ。勿論夢に入る前のこともしっかりと覚えている。

人生を四年間戻ってやり直すということだな。一度目の人生の記憶があるから退屈かもしれないけど、夢で過ごした四年間が全くの無駄だったわけではない。

夢の中でいろいろ学んだことがある。精神的には今の自分は13歳じゃなくて17歳なのだ。その分五億年ボタンよりかはいくらかましかなと思えた。


そこまで考えたところで頭がクラクラしてきた。

時計を見る。午後11時14分。お風呂に入った時間が午後10時3分。

湯船に浸かりすぎた!!!!

慌てて湯船から上がる。鏡を見ると顔は真っ赤で指もしわしわだ。

完全にのぼせた。


頭を洗っていると自分の股間が目に入る。いつも見ていたものとは違うすべすべの股間。毛が生えていないせいで小さいものが露になってしまっている。

気を取り直して身体を洗うも筋肉のない幼児体型の身体は自分のものとは思えず誰か他の人の体を洗っているような感覚だった。

お風呂から出て履くパンツを漁ると白ブリーフしかなかった。



「まあ。そうなるよなあ。」



お風呂から出たとき俺はすっかり沈んだ気持ちになってしまっていた。

記憶があるってこんなにも惨めなのか・・・。

現実を認めるにはまだまだ時間が掛かりそうだ。



更新はおそらく土日にまとめてする感じだと思います。すみません。頑張りますので待っていてください!

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