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こんな夢を観た

こんな夢を観た「ジャンク・ショップをのぞく」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/08/24

 わたしのママチャリには変速機がついていないので、坂を上り下りするのが億劫だった。

 一緒に走っていた志茂田ともるは、とっくに先へ行っていて、もう姿さえ見えない。

「はぁはぁ、ちょっとくらい待っていてくれたっていいのに」わたしは息を切らし、公園脇の木陰で一息をついた。


 公園のベンチでは、ともに小太りの青年が2人、並んでハンバーガーをほおばっている。

「あと少しで9時になるな」メガネを掛けている方が、もういっぽうに話しかけた。

「うむ。そろそろ向かうか、『ジャンク・小松』へ」

「そんじょそこらじゃお目に掛かれない、ワンダホーなお宝ちゃん、待ってておくれ」

「自分、今日はこいつで存分に買いまくるつもりだ」メガネを掛けていない方が、懐から札束を取り出す。100万円はあるだろうか、かなりぶ厚い。

「おお、大奮発だな。さあ、行くとしよう。赤さび色のビルへ」

「行こう、行こう。田んぼの真ん中に立つビルへ」

 2人は足並みそろえて歩いていった。


「なんだか、面白そうな店だぞ。志茂田も誘って、ちょっと寄ってみようか」

 わたしはペダルに足を掛けると、大急ぎで走った。

 志茂田は、3っつ目の交差点の先で、わたしを待っていてくれた。

「遅いですよ、むぅにぃ君」50万円もするロード・バイクにまたがり、余裕たっぷりに言う。

「無茶言わないでよ、こっちなんて、ママチャリなんだから」喘ぎながら、そう言い返す。「それより、面白そうな店があるって情報をつかんだんだけど、行ってみない?」

「ほう、どんな店です、それは」

「珍しい物ばかり売ってるんだって。田んぼの中にあるビルだって言ってたから、たぶん、あそこかな」この辺りで田んぼのある所と言ったら、1箇所しかない。

「いいでしょう、行ってみますか」志茂田はハンドルを握り直した。

「今度は、置いていかないでね」わたしは釘を刺す。


 田んぼのあぜ道は、結構な人が行き来していた。その先に、赤さび色をした5階建てのビルが1棟、ぽつんと建っている。

「あ、あれみたい」わたしは指差した。

「この先は歩いていくよりなさそうですね。自転車はここに置いていきましょう、むぅにぃ君」

 わたし達は自転車を降り、あぜ道を歩いた。

 田んぼに足を踏み外さないよう気をつけながら、店にたどり着く。そこはジャンク屋だった。

「店先に置かれた、このフィルターみたいなの、何だと思う?」39万円という値札が付いている。

「これは自動車のラジエーターですね。見たところ、ボロボロで役に立ちそうもありませんが」志茂田は言った。

 他にも、冷蔵庫やコタツ、ガチャポンのカプセル、針の飛び出した目覚まし時計など、ゴミのような物ばかりが積み上げられている。


「どう見たって、くずもの屋だよね。それどころか、粗大ゴミ置き場と言ってもいいくらい」早くも、わたしの興味は薄れていった。

「いやいや、むぅにぃ君。そんなことはないですよ、どれもこれも魅力いっぱいじゃありませんか。お宝ですよ、お宝っ!」志茂田の目がいつになくキラキラと輝いている。

 わたしは、もう1度回りを見渡した。液晶が蜘蛛の巣状に割れたiPadが278万円、5枚あるうち2枚までもが欠けてなくなった扇風機が123万円、14インチのブラウン管式テレビに至っては、なんと1千万円という値が付いていた。

「これって、どう考えてもぼったくりじゃないの?」わたしは志茂田に向かって異議を唱える。


「むぅにぃ君。あなたにはわからないのですか、この素晴らしい商品の数々が」志茂田はわたしの言葉にまるで耳を傾けようとはしなかった。「決めました。わたしは、あそこの電気ストーブを買うことにします」

 ヒーターが破損して、中のニクロム線がツル植物のように外に飛び出している。

「あんなの買ってどうすんのさ。12万円もするよ。それに、今は夏じゃん。見てるだけで暑苦しいよ」わたしは何とか止めようとした。

 けれども、志茂田の決意は、65万円もするそこの漬け物石のように固かった。


 カード払いで買った壊れた電気ストーブを、オマケでもらった荒縄で背中にくくりつけ、さっそうとロード・バイクにまたがる。

「いい買い物をしましたよ。それもこれも、あなたがあの素敵な店を教えてくれたおかげです」志茂田は愛おしそうに電気ストーブを後ろ手になでる。

「ほんとに良かったの? そんな物を買っちゃって」わたしが心配そうに言うと、

「いいも悪いも、むぅにぃ君。わたしは大満足なんですよ。それよりも、あなたこそ、1番奥の棚にあった、30年ものの鯖の缶詰(360万円)を買うべきでしたねぇ。きっと、お似合いだと思うのですが」

「そ、そう? 似合うかな……」

 内心、冗談もほどほどにして欲しい、と呆れ返っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 志茂田さんのキャラがいつも以上に立っていたと思います! [一言] 田んぼの中にあるというところが妙にのどかで好きです。理不尽なようでいて、人の好みや価値観って実際わからないものだよなぁとも…
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