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美濃攻略

 桶狭間で勝利した信長は「守り」から「攻め」へと姿勢を変えた。

 今回の勝利は領土を守ったに過ぎず、のうのうとしていては、またどこからと大国が攻めてくることになる。そのため、今度は領土を拡大する策へと転換していった。

 真っ先に目を付けたのが隣国の美濃である。

 美濃は、亡き舅・道三が、息子・義龍に殺される前に、

「美濃は信長に譲る」

と、言い残していた。

 信長は、これを大々的に世間に流布し、美濃攻めの大義名分を得た。

 とはいえ、美濃は稲葉山城を中心とした天然の要害であり、その攻略は簡単にはいかなかった。

(なにか良い手はないものか……)

 信長は清州城の居室で思案していた。

 何度か稲葉山に軍勢を進めてみたが、義龍は、城より撃って出ては引いて籠るという駆け引きが秀逸で、

(さすがはマムシの子か)

と、思わせる戦いぶりであり、苦戦を強いられていた。

 義元と戦った時とは何もかもが違う、まず領土を守るのではなく、攻め取るというところから大きく違った。不慣れな土地での戦い、右も左もわからず、どこから来るかわからない敵に怯える。自分はともかく、現場にいる兵士たちは気が気ではない。

 唯一、盤石なのは後方の守りだけだった。桶狭間の後、三河・岡崎城で今川家から独立した松平元信が、織田家に同盟を申し入れてきたのである。

「共にこの乱世、戦い抜いていきましょうぞ」

と、清州城で誓い合ったことから清州同盟と呼ばれ、長きにわたって織田家になくてはならない存在となっていく。また、この翌年、元信は義元からもらっていた「元」の字を返上し「家康」と名を改めている。これにより心身共に、今川家から独立できたといえる。


時は過ぎ、永禄四年(一五六一)―

 信長は一計を案じた。

「義龍を暗殺する。できるか?」

「はっ」

 信長は居室に隠密の光を呼び、義龍の暗殺を命じた。

 主に諜報活動を専門とする忍びは、時によっては暗殺業も行っていた。敵の懐に飛び込み、その命を奪うというのは、並の忍びではできないものであったが、光の技量を見込んで、禁じ手を採ることにした。


稲葉山城―

 光は暗闇に紛れて城に潜入した。敵に見つからないよう慎重に、かつ素早く動く、予め、城に出入りしている商人に近づき、見取り図を手に入れておいて、その細部をしっかりと把握しておいた。天井裏に忍び込み、義龍の部屋の上まで辿り着く、覗くと、義龍らしき男が顔を布団に埋めて寝ているのが見えた。が、

(確実にやらねば……)

と、すぐには行動を起こさず、慎重に構えた。

 布団の中に何を仕込んでいるかもわからないし、もし間違った相手を殺して騒ぎになった時には、もう本命は狙えない。ただ、一刀の下に本命を斬らねばならなかった。

 しばらくして義龍が起きた。厠に行くためである。

(義龍に間違いない……好機だ)

 光は、義龍であることを確認し、帰ってくるところを襲うことにした。

 少しして義龍が帰ってきた。そして布団に手を掛け寝転ぼうとしたその時、


スッー


と、音もなく天井から光が降りてきた。

(何奴!)

義龍が叫ぼうとしたがすぐに喉下を一突きに刺され、その場にドッと倒れた。

 その音に気付いた城内の者が義龍の部屋へやって来た。

「義龍様、如何なされました」

 部屋からの返事がなく、不審に思った家臣が襖を開けた。

「よ、義龍様!」

 そこには既に義龍の亡きがらだけが残されていた。


 斎藤義龍が死んだ。享年三十五、表向きはハンセン病による死亡とされた。一国の主が暗殺されたとあれば、美濃は大混乱に陥るためである。

家督は、息子の龍興が継いだ。歳はまだ十三で、軍事や政治やいろはもわからぬ少年であった。

 信長はすぐに美濃へ兵を出すと、森部村の地でこれに勝利した。その余勢を駆って稲葉山まで侵攻したが、やはり攻略はできなかった。美濃三人衆と呼ばれる重臣たちが戦を指揮していたからである。

 力押しや謀略でだめなら政略・調略で攻めた。

永禄七年(一五六四)、美濃の隣国にある近江国の大名・浅井長政と同盟を結び、その絆を強くするため、妹のお市の方を嫁に送り込んでいる。また、先の戦でしてやられた美濃三人衆、稲葉良通・安藤守就・氏家直元らや、権謀術数に長けていると聞く、竹中半兵衛への調略にかかった。

 しかし、それでも美濃は取れなかった。美濃三人衆は中々態度を示さないし、半兵衛に至っては、一族を手に掛けてまで国を治めようとする、信長の覇王としての本質を嫌っていた。

 

 そうこうしている間に、さらに三年の時が過ぎた。

 万策尽きた。信長は清州城の居室で天を仰いでいた。桶狭間の戦いから七年の時が過ぎようとしている。

(俺も所詮、この程度の男か……)

 打つ手が見当たらず、呆然としている信長の下を一人の男が訪れた。

「信長様、少しよろしいでしょうか」

 信長は声をする方に目を向けた。

「ハゲネズミか」

 信長がそう呼んでいた若者、木下秀吉その人である。小者として仕えていた秀吉は、次第に才能を認められ、武将として取り立てられるようになっていた。

「信長様、美濃攻めの件、この秀吉めにお任せいただけないでしょうか」

「なに」

 少しの苛立ちと喜びの気持ちが同時に湧いてきた。自分が七年かけても成していない美濃攻略を任せてほしいというのである。

「ほう、どのようにするつもりだ」

「墨俣に城を造るのでございます。あの地は稲葉山の急所、そこを抑えれば予てより調略していた美濃三人衆も恭順の意を示しましょう」

(こやつ……)

 と、信長は思った。自分が美濃三人衆を調略していたこと、三人衆が中々態度を表さないこと、すべてを見通していた。

「俺も墨俣に城を築こうとした。だが、龍興に邪魔をされると大工どもが逃げ出す。建築どころではない」

「私めに考えがございます。ぜひお任せください」

「ほう」

 途端、信長は刀を抜いて秀吉に切っ先を向けた。

「ひっ」

「良いだろう。貴様に任せる。その代わり失敗した時は……」

「は、ははっ、必ずや成し遂げて見せまする!」

 そう言って、秀吉は飛び出す様に部屋を出ていった。

(ハゲネズミめが、図に乗りおって)

と、はじめは不満を持った信長であったが、

(これで美濃は俺のものか)

と、すぐに秀吉が城を建てた後のことを考え始めていた。


 秀吉は家に帰るとすぐに親友の蜂須賀正勝を呼び出した。

「おう藤吉郎、来てやったぞ」

「あらあら、いらっしゃい小六様」

「これはねね、相変わらず美しいな、つくづく藤吉郎の奴にはもったいない」

 正勝を迎えたのは、秀吉の妻となっていた、ねねだった。当時としては珍しい恋愛結婚だったという。

「おほほ、そうでしょう? 旦那は幸せもんだよ。 ……なのに、この前もほかの女と遊びやがって……」

 ねねに狂気が宿った。

 華奢な見た目に反して豪快な性格の持ち主であった。二人の間に子はなかったが、かかあ天下と呼ぶに相応しい家庭だった。

「ま、まぁまぁ、落ち着いてくれ、それで、藤吉郎は?」

「お、おう小六、よう来てくれた」

 奥から秀吉が出てきた。なにやら引っ叩かれた痕がある。

「……おめぇもこりねぇな…… ところで急になんだ、呼び出して」

「実はな、城を建てたいんさ」

「城? お前、土地持ちだったか?」

「儂の城じゃねぇ、墨俣に稲葉山城攻略のための支城を築くんじゃぁ」

「墨俣って、お前、敵地のど真ん中じゃねぇか!」

「そうさ、そこに城を建てれば、美濃は信長様のもんじゃろ」

「そりゃそうだが、どうやって造るんだ。龍興が黙っちゃいねぇだろが」

「わしに考えがある。墨俣近くに流れている長良川を使うんさ。川の上流で城の部品をある程度組み立てておいて、そいつを川に流す。それを下流で受け取って城の形にするんさ」

「そんなことできんのか?」

「できる。ってか、やらにゃぁわしの首が飛ぶ」

「なんだと!」

「信長様に約束してしまったんさぁ、わしはこの策に命を懸ける。だから、おみゃぁもわしの命を救うと思って手伝ってくれ!」

 秀吉の懇願に正勝は呆れたように見ながらも、

「しゃぁねぇ、ダチの命が懸っているとなっちゃぁやるしかねぇな。あの辺りには知り合いも多い。ちょっとあたってみるわ」

と、これを承諾した。

「ありがてぇ、ありがてぇぞ小六、見事城を建てて、出世しようや!」

「おう、そんときゃ俺は筆頭家老な!」

「調子に乗んな!」

「お前が言うか!」


数日後―

「おう、藤吉郎! 墨俣の辺りに詳しい連中を連れてきたぜ。こいつらは俺と同じように戦働きで食ってる連中だから、龍興が攻めてきてもびびりはしねぇ、大工仕事も経験があるから安心しな!」

 正勝は、配下や知り合いの伝手によって、何十人もの屈強な男たちを連れてきた。この乱世に、己の肉体一つで戦場から大工仕事まで色々こなしているという、いわゆるなんでも屋の男たちだった。

「こりゃすげぇ、さすが小六だ! ささ皆の方、こちらへ」

 秀吉は男たちを案内すると、築城の作戦を説明し始めた。

「まず、上流と下流の二組に分かれる。上流組は木を切って、それを加工してくれ、柱や壁となる板などは、そこで完成させて川に流す。下流組は、それを川から引き上げ城の形になるよう組み立てるんさ。そうすれば城ができる」

「おいおい、上流組の方が仕事多くねぇか? 下流組は出来上がったものを立てるだけじゃねぇか」

 一人の男が文句を言った。

「まだ説明は終わってないぜダンナ、下流組が大変なのは龍興の軍勢が邪魔しに来ることだ。これを下流組の面々だけで追い払わなきゃなんねぇ」

「どうやって追い払うんだ。俺たちは確かに戦働きで食っているが、城を建てながら戦なんて器用な真似はできねぇぞ」

 また別の男が文句を言った。

「大丈夫、信長様から貴重な火縄銃を借りてきた。こいつを使って迎え撃つ、川を隔てて撃てば、龍興の軍勢も中々前には出てこられない。その間にとっとと城を組んでしまうんさ」

「なるほど」

 男たちは秀吉の知恵に感心した。

「良し、そうとなったら善は急げだ。伐採や加工が得意な奴らは上流組、戦働きや鉄砲に自信のある奴らは下流組に分かれろ。さぁ急げ、ほら急げ!」

『応!』

 男たちの一世一代の作戦が今、動き出した。


美濃国―

 日が昇り始めた頃から、秀吉率いる墨俣築城部隊が動き出した。通常、夜陰に紛れた方が敵には気づかれないが、それでは細かい作業ができないため、朝日の射し込む光を頼りにすることにした。

 まず上流組が現地に着いて行動を開始した。敵に気づかれないように隠密かつ迅速に行動した。木を切り倒し、それを柱や壁となる大きさに加工、同じ部品同士を縛りつけて、川に放り込んだ。

 下流組は、墨俣の地で部品の到着を待った。それまでに敵に気づかれないように茂みに隠れていた。しばらくして、川を見張っていた斥候から、

「部品が届きました」

と、報告が入った。

「良し、まずは部品を拾う者と敵襲に備えて馬防柵を築く者とに分かれろ。そしたら部品をすぐに組み立て始めるぞ」

 日は大分昇ってきていた。敵が気づくのも時間の問題である。


稲葉山城―

 当主・斎藤龍興は朝食をとっていた。

「伝令! 墨俣の地に何やら怪しい集団がおります」

「墨俣? また織田軍か」

「それが旗指物もなく、鎧も着ていません」

「どういうことだ」

 秀吉たちは旗指物や鎧などを身に付けないため、いわゆる野武士のような集団に見えていた。今までの、兵士と大工を連れて建てようとしていた織田軍と違い、全員で戦い、全員で建てるという方針で動いていた秀吉たちは鎧などを着ている余裕はなかった。

「探りを入れろ。抵抗してくるようなら討ち取るんだ」

「ははっ」

(信長め、何を考えている……)

 父・義龍が死んでから六年、幾度となく織田の侵攻を受けても尚、美濃を守り続けてきた龍興は、今までにない不安を感じていた。


墨俣―

 秀吉たちは必死になって城を組み立てていた。

 城と一言に言っても、今造っているのは稲葉山を攻めるための支城である。内装などは度外視して、外装いわゆる防御機能の部分さえできてしまえば良かった。

「稲葉山城より軍勢が出てきました!」

 突如、報告が寄せられた。

「良し、全員手を止めて迎え撃つぞ、弓矢、鉄砲を持てい!」

 屈強な男たちは一斉に武器を持って陣形を作った。その鮮やかなまでの切り替えに、戦慣れした勇士の風格を感じる。

 軍勢を率いていたのは稲葉良通、美濃三人衆の一人である。明らかに臨戦態勢に入っている敵を見て、

「やはり織田軍であったか、皆かかれ!」

と、川の反対にいる秀吉たちへ向けて攻撃を命じた。

「十分に引きつけろ! 一撃で痛手を負わせる!」

 敵が川に侵入してくるのを待った。そして、

パパパーン

 百余りの鉄砲が一斉に放たれた。さらに弓矢も射掛けた。これに驚いた良通は一旦軍を下げた。

「良し、この隙に半数の者は城を組み立てろ! 残りは次の敵の来襲に備えておけ!」

 時に一匹の獣となり、時に二匹の獣となり、秀吉築城隊は変幻自在に動いていた。


稲葉山城―

「なに、兵を増やせ?」

 良通からの思わぬ援軍要請に龍興は唇を噛んだ。

「はい、稲葉良通様、墨俣の怪しい集団に近づいたところ織田軍であったのようで、追い払おうとするも、鉄砲で不意を突かれたために一度下がっている由にございます」

「それで、一息に飲みこむために兵を増やせと」

「はい」

「わかった。さらに千は増やそう。なんとしても追い払え」

「ははっ」

 龍興は援兵として千の兵を安藤守就に与えて送り出した。


墨俣―

 援兵を得た良通は、再び兵を前に出した。しかし、川越しに飛び道具で迎え撃ってくるため、中々川を越えられなかった。

「ええい、こちらも弓で射掛けよ! 城を建てている大工どもはそれで逃げ出す」

 と、弓で応戦するよう指示した。ところが城を建てている大工たちは一向に逃げようとしない。

(何故だ。以前の大工どもは腰を抜かして逃げ出したのに……)

 攻めあぐねた良通は、守就の援兵と共に力で押そうとした。そこに、

「伝令、長良川の上流から敵の援兵が向かってきているもよう!」

「なにっ」

 そうこうしている間に、上流組が役目を終えて、援軍に駆けつけてきた。良通は横槍を突かれぬよう、再び兵を退けた。

 上流組と合流した秀吉たちはさらに勢いづいた。

 戦闘地より少し上流で部品を受け取っていた男たちも合流して、全員一丸となって組み立てた。その間にも良通は何度か攻めてきたが、飛び道具や思わぬ増援といった秀吉の守りに、慎重になって攻めざるを得なかった。そして、

「やった…… これで完成さぁ!」

 ついに墨俣の城は完成した。秀吉たちだけでも守りながら建てられた城である。信長本体と連携をとれれば、斎藤軍全部を相手にしても落ちることはない。

「信長様にすぐ報告せい! せっかく建てた城を向こうに奪われるわけにはいかん!」

『応』


尾張国・清州城―

「申し上げます。木下秀吉様、墨俣にて城を建てたとのこと、すぐに援軍をお願いしたとのことにございます」

 その報告に織田家臣たちは驚いた。

「真にあのサルが城を建てたというのか!」

「たまげたものよ……」

 一様に驚く家臣たちの中、信長は、

「わかった。すぐに行く」

と、待っていたかのように動き始めた。

 

 翌日、信長率いる軍勢が墨俣に到着した。秀吉たちは、城があっという間に建って呆然としていた斎藤軍たちを相手に持ちこたえていた。

「信長様!」

秀吉は、まるで子供の様な笑顔を見せながら信長を迎えた。

「ハゲネズミ! 大義であった!」

「ははっ、ありがたき幸せにございます!」

「これより稲葉山城へと攻め入る。貴様が先鋒の大将だ」

「わ、私めがでございますか?」

 きょとんとする秀吉に、信長は、

「当然だ。墨俣は稲葉山の最前線、その城主が先鋒を務めないで誰がやる」

「城主……」

「嫌か?」

 未だ呆然とする秀吉を急き立てた。

「いえいえ! とんでもございません! 稲葉山攻めの先鋒、しかと務め上げてご覧にいれます!」

 我に返るや秀吉は小六たち共に織田軍先鋒として進軍した。

 墨俣を基地とした織田軍は稲葉山城の攻囲に入った。天然の要塞である稲葉山城は、それでも持ちこたえていたが、今までと違う空気が天守に漂っていた。

「良通、守就、貴様らのせいで墨俣に織田の城が建ってしまったではないか」

 斎藤家当主・龍興は、墨俣に出撃させた二人を激しく責め立てた。

「申し訳ございません。されど、敵は予め部品を作っていて、あっという間に城を組み立ててしまったのです」

 良通は申し開きをしていた。彼らに落ち度があったというより、秀吉が巧みだったという方が正しい。それでも龍興は、

「ふざけるな。敵がなにをしてこようが、それを止めるのが貴様らの役目だ」

「……」

「もう良い。貴様らの処分は追って伝える。まずは包囲している織田軍を退けるぞ」

 そう言い放ち、龍興は城中の軍勢の指揮へと向かった。


 織田軍の攻囲は約一ヶ月にも及んで続いた。

(今度こそ絶対に落とす……)

と、信長は意気込んでいた。

 そこに、一人の使者が密書を携えてやってきた。

「稲葉良通様の名代として参りました。良通様をはじめ、安藤守就様、氏家直元様、信長様に恭順の意を示したいとのことにございます」

(やった……)

 ついに美濃三人衆が寝返った。力攻めと調略を駆使し、秀吉の奇策が実らせた結果だった。

「よくぞ申してくれた。名高き美濃三人衆が味方になってくれるのは心強い」

「然らば、明朝、日が昇り始めたところで城内を良通様らが抑えます故、城外より攻囲を狭めていってくだされ」

「あいわかった」

 翌日、稲葉山城は落ちた。美濃三人衆らが天守を占拠、龍興を捕らえたのであった。しかし、信長の下へ連れていく途中、

(このまま殺されてたまるか!)

と、周りの兵士たちを振り払い、一人長良川へと逃げて小舟で伊勢へと逃れていった。

 国主を失った美濃は次々と信長に降伏した。道三の死から十一年、ついに美濃は信長のものになった。


 その頃、京では事件が起きていた。第一三代将軍・足利義輝が、畿内の有力大名の三好家の一党に襲撃され、その生涯を閉じていたのであった。

 この暗殺劇の中心にいたのは、松永久秀である。この男、元は山城国の土豪であったという説や、寺の小姓であったという説などがあるが、いつしか三好長慶に仕え、その才を持って家中でも権勢を振るうようになっていた。

 松永久秀らは義輝暗殺後、義輝の従弟・義栄を第一四代将軍として擁立し、傀儡とした。さらに、久秀は奈良で坊主となっていた義輝の弟・覚慶の暗殺を謀るが、これを察知した覚慶は脱出、越前国・朝倉氏の下へと落ち延びた。また、この時より還俗して義秋と名乗り、兄・義輝の無念を晴らし、次期将軍の座を狙いはじめている。

 この事件が、信長を天下へと大きく動かしていくことになる。


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