春風の話→Happy Birth Day
「落ち着いて聞いてね、春風さん」
「う……うん?どうしたの、黒兎くん?」
お昼休みに友達とお弁当( 今日は少し奮発した、ちょっと高級な昆布だよ! )を食べていたら、急に黒兎くんが私に声をかけてきた。
ホントに急に。
まるで、ついさっき私にいきなり用事が出来たみたいな突然さだった。
告白か告白かと色めき立つ私の友達( からかわないでよ…… )には目もくれず、黒兎くんは真剣な表情で私に―――告白する。
「君は、妖怪変化が始まっています」
「…………え?」
……何それ?ホント?ドッキリとかじゃなくて?
……じゃないよねぇ、黒兎くん真剣そのものだもん。衝撃の告白だよ。
妖怪変化かぁ〜……テレビではよく見るけど、まさか私が遭うことになるなんて……。
「そんなものだよ。妖怪変化は今や交通事故より身近な事故なんだから。まぁ事故よりは病気のほうが近いかもしれないけどね」
事故と違って、対処法があるし。
そんな風に言って、黒兎くんは懐から一枚のお札を取り出した。お札には、なんか面白い線で面白い模様が書いてある。なんて言うんだっけ、そう符術!あれで使うお札のイメージとそっくりのお札だった。
「じゃあ、ちょっと失礼するよ」
そう言って、私のおでこにお札を貼る黒兎くん。なんだっけ、中国にこんな妖怪がいた気がするよ……。
私のおでこにお札を貼ったまま、何か呪文みたいな言葉を唱える黒兎くん。それと同時に、おでこのお札が優しく光り、温もりが私を包む。……なんかわかんないけど、泣きそうになるよ、これ。
1分くらいかな、その状態が続いて、お札が光らなくなった頃に、黒兎くんは私のおでこからお札をはがして一息ついた。
「ふぅ……っ、これで終わりだよ」
「あ……うん。ありがとね、黒兎くん」
「お礼を言うのはむしろ僕だよ。春風さんが協力的なおかげで、対処も滞りなく施せたし」
その言い方だと、協力的じゃない人がいるみたいになっちゃわない?
「それじゃ対処はこれで終わりだけど、負荷を受けて心が弱っちゃってるから、しばらくは心に負担がかかるようなことしちゃダメだよ」
「はーい」
「具体的には、他人に関わらないようにすること。だから当然、春風さんの過剰な親切も当分お休みね」
「えぇーーーーーー!?」
そんなの、余計心に負担だよ!おーぼーだよ!待遇の改善をよーきゅーするよ!
「見知らぬ他人と関わるってことは、春風さんが思う以上に心に負荷がかかることなんだ。心の能力『繋がる力』を使うってことだからね。RPGでも、魔法を使えばMPが減るでしょう?MPが0になったら、春風さんの心は妖怪変化に抗えなくなって堕ちてしまうんだから。だからくれぐれも、心に負荷をかけないようにしてね」
そう言って黒兎くんは、緑野くんたちのほうに戻っていく。机の上を見るとお昼の途中っぽく見えるけど、まさか食事中に私の妖怪変化が発覚したのかな?
実は怜悧ちゃんに指摘されて気付いたとかなのかも。なーんて、そんなわけないよね。黒兎くんだってプロなんだから、何か理由があるんだよ。
結局その後は特に何もなく、友達とお昼ご飯を食べたり話したりして、お昼休みは平和に過ぎていった。
◇
「ただいまー」
学校が終わって、家につく。
リビングに顔を出して、家事をしているお母さんに帰宅の挨拶をすると、とても楽しそうに『部屋に行ってみなさい』って言ってきた。何なんだろう……?
考えながら階段を登って、2階の私の部屋へ。ドアを開けて入ると、勉強机の上に1通の封筒が置いてあった。
何だろうと思って見てみたら、そこには見慣れた筆跡で私の名前とうちの住所が書いてある。
「…………?」
どこで見た字だったかがすぐに思い出せなくて、手に取って裏を見てみる―――
そこには、みっちゃんの名前が、書いてあった。
「嘘……何で……!?」
みっちゃんが手紙をくれた……?あれだけ酷いことをした私に、手紙をくれた?何で……何が、封筒の中の手紙には何が書かれてるんだろう……?私は……許して、もらえたのかな?
――そんなわけないでしょ?書いてあんのはきっと、裏切り者への恨み言よ――
「ッ!?誰……!?今の、誰なの!?」
頭の中に直接響くような声が聞こえる……まさか、これが妖怪変化!?
――あっは!まぁーそーなるのかにゃー?私の記憶が正しいなら、わたしは世間一般で言うところの妖怪変化だけど……その呼び方だと長いし、可愛くないわよねぇ〜。私が何か考えておいてよ!――
「嫌……ッ!私から出てって!」
――えー?わたしは私の妹みたいなもんなのよ?それを出ていけだなんて、お姉ちゃんひっどーい!やっぱり、親友を裏切るような悪い子だったんだねぇ――
「悪い……子……?」
――うんうん!助けられたはずの親友を見捨てて裏切って、終いにゃ他人をその親友の代替品みたいに助けてさ?こりゃーもー取り返しのつかない悪い子だね!なまはげも呆れるレベルだよ!――
「違う……!私は……わたしは……!」
――そう思いたいってだけの話でしょ?違うっつーなら何が違うのか具体的に言ってご覧?片っ端から論破してあげるし、確かに違うってわたしが思ったら……――
「『ごめんなさい』って謝って、お姉ちゃんの悪い子認定を撤回してあげるよ!」
――違う……違うもん……!わた、わたし、は……――
「ふーん、これが私の体かぁ……。さっすがわたしのお姉ちゃん!すっごく素敵で可愛らしいよ!」
――違う……違う……違う……!――
「あーもー、いつまでもイジイジグズグズうっさいなぁ!もう過ぎたことなんだから、いーかげん吹っ切れなよ!」
つっても、お姉ちゃん( なんかいいなぁ、この呼び方 )が本当に吹っ切れちゃったら、わたしは消滅しちゃうと思うけど。言ってみれば、わたしはお姉ちゃんの『後悔』そのものだからねぇ。
改めて、お姉ちゃんから借りた( ぶんどったという説もある )体を見る。
豊満ではないけど、全体的に健康的な肉付きをしている。肌のつやとも相まって、見てるだけでその触り心地の良さを体感できそうだ。
「全く、こんな可愛らしい体を前にして胸しか見ないなんて……緑野くんはわかってないねぇ」
わたしだったら、とりあえず襲って全身を撫で回すよ!ってこれ、犯罪なんだっけ?うぐぅ……人間めんどくさいなぁ……。
まぁお姉ちゃんの体のプニプニ感は後で堪能するとして、まずは体を馴染ますための試運転に行こうか。
せっかくだし、お母さんに挨拶してから行こうっと。