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春風の話→わたしの罪と罰

 あの日から。


 みっちゃんが、転校してしまったあの日から。


 私は手当たり次第に人助けをした。


 そうすれば許してもらえると思ったから。

 そうすることでしか許されないと思ったから。


 『そんなことはない』なんて言う人は、一度自分で体験してから言ってほしい。


 望まない形で望まない裏切りをしてから言ってほしい。


 知らなければ何とで言えるんだ。


 知らないから何でも言えるんだ。


 助けなくちゃ。


 私が助けられなかったみっちゃんの分まで、私が助けなくちゃ。


 何人助ければ許してもらえるかわからないけど。


 何もしないでいるよりは、許されると思うから。


  ◇


 そんなわけで、私は今、1人の男の子に声をかけている。

「緑野くん!一緒に帰ろー!」

 緑野 淋漓。

 あんまり男の子っぽい名前じゃないけど、男の子。

 すごく可愛らしい顔立ちをしてるけど、男の子。……ホントに可愛いよねぇ……お化粧とかしたら、私勝てないんじゃないかな。

 さすがは『この人が可愛いランキング』第三位( 誰がつけてるんだろう…… )だよ。私の順位?ふっふっふっ、実は私もトップ10に入っているのですよ!

 やー、これが今の私のちょっとした自慢なんだよねぇ。だって校内の可愛い人10人に選ばれたんだもん!……具体的な順位は言わないけどね。緑野くんより下なのがバレちゃうし。

 べ、別に私が緑野くんより可愛くないとかじゃないと思うんだよ。だって上位3人全員男子だし!えーと、ほら!私の友達が言ってたあれだよ『ギャップモエ』ってやつだよ!意味知らないけど!

 友達に『モエって何?』って聞いたら『あんたにはまだ早い』って言って、教えてくれなかったんだよねぇ。えっちぃ意味なのかな?

「……おーい春風、どうした?帰るんじゃないのか?」

「え?あ、うん。緑野くんは可愛いよ」

「いきなり何の話だ!?俺は可愛くなんかねぇ!」

 力強く否定する緑野くん。

 友達によると、見た目に対しての一人称の背伸び感や、こーいうつんけんしたところがいいらしいから、緑野くんの努力は完全に裏目に出てると思うんだけど……。

「ったく……でも何で一緒に帰ろうなんて言い出したんだ?」

 そうだった、本題はそっちだった。

「そーだよ!にーちゃんはあたしと一緒に帰るんだよ!」

 大好きなお兄ちゃんとの下校時間を邪魔されて、ぐみちゃんおかんむり。

 緑野くんは私を有名人って言うけど、かくいう緑野くんも、ぐみちゃんとの関係がよく噂されるんだよね。

 『妹があれだけべったりなのに嫌がらないのも、あそこまで露骨な好意に気付かないのもあり得ないよ。あの2人は既に兄妹の垣根を越えて付き合ってるんじゃないかな』って私の友達も言ってたし。……最初聞いたときは、正直ちょっとときめいちゃったよ。

 友達が止めるのも聞かずぐみちゃんに『ぐみちゃんってお兄ちゃんと付き合ってるの?』って確認したら、『そんな簡単にいくかバカー!にーちゃんは渡さないかんね!』って、泣きながらどこか行っちゃった記憶がつい昨日のことのようだよ。ていうか昨日のことだよ。

 ……うん、また話が逸れちゃった。緑野くんの質問は『何で一緒帰ろうなんて言い出したか』だったね。

 当然理由はあるけど、それを言って警戒されちゃうとやりにくいからね。長い人助け生活の経験は伊達じゃないよ!

「友達が一緒に帰るのに、理由なんかないよ!」

 胸を張って言うとまたやらしい目で見られると思ったから、ガッツポーズ。

 あの食い付き方は冗談なんだろうし、まぁ、男の子ならそういうのに興味を示す方が健全だって話は聞くけど……やらしい目で見られるのはやっぱりヤだよ。

「友達って……朝のときもそう言っていたけれど、俺はいつの間に友達になってたんだ?」

 呆れたようにぼやく緑野くん。

 うん、自分で言っといてあれだけど、私もわかんない。

「安心して!私も記憶にないよ!」

「余計不安になった!」

「友達って、なろうって決めてなるものじゃない……いつの間にかなってるものなんだよ!」

「1つ前のセリフがなければ心に響いたのに!」

 しょうがないじゃん、思い付いたのがついさっきなんだよ!

「というわけで、一緒に帰ろ!」

「何が『というわけ』なのかがわからない!」

「まぁいいじゃん、一緒に帰るくらい。緑野くんだって女の子に興味津々なんだから、悪い話ではないですヨ?」

 自分をエサにするようなことを言ってしまった。

 いつも周りの人に注意されるけど、こーいう向こう見ずなげんどーは控えないとなぁ……これじゃ私がえっちぃ子みたいだよ……。

「確かにそうだな。うん、その通りだ。よし、一緒に帰ろう」

 食い付いた!

 身の危険を感じるほどに食い付いた!

 どうしよう、緑野くんを助ける代償に私が貞操の大ピンチ!

「だーめー!!にーちゃんはあたしと一緒に帰るのー!」

 お兄ちゃんと2人きりの時間を邪魔されたくないぐみちゃんが、だだっ子みたいに私を拒絶する。

 ……うん、正直私もそうしたいけど……そうしないと何されるかわかんないけど、ここで退くわけにはいかないんだよ!ここで退いたら、私がただのえっちぃ子で終わっちゃうんだよ!

「3人で一緒に帰るっていう選択肢もあると思うんだけど…それもだめなの?」

「だめだめだめー!!にーちゃんも何か言ってよ!」

 私にお兄ちゃんを盗られちゃうと思ったのか、必死に拒むぐみちゃん。

 可愛い妹にこんなに慕ってもらえて、緑野くんは幸せ者だねぇ。


「俺は別に構わないけど…何がそんなに嫌なんだ?」


 代わりにぐみちゃんが不幸せっぽい!

 でもぐみちゃんはこんな緑野くんでも大好きなんだから、不幸せっていうのは違うかな?こういうの何て言うんだっけ……不憫?

 びっくりするほどニブチンなお兄ちゃんを涙目で睨んだぐみちゃんは、

「にーちゃんのバカー!!」

 って叫んで、消えちゃった。って消えちゃった!?

「み、緑野くん!どうしよう、ぐみちゃんが消えちゃった!」「あー、大丈夫だよ。座標をずらして変化を解いただけだから、今は俺の制服の中にいる」

 緑野くんの言葉は半分近くわかんなかったけど( ザヒョーってなんだろう、何かのリアクション? )、つまりぐみちゃんは緑野くんの制服の中にいるってことらしい。とりあえずひと安心。

「……緑野くんを好きになる女の子は大変だねぇ」

 自分の気持ちを伝えるだけでこんなに大変なんだから、そこから先はもっともぉーっと大変なんだろうなぁ……。

「へ?何だよ急に?何で今の流れからそんな結論が出てくるんだ?」

「……ニブチン」

「? ???」

 大変だねぇぐみちゃんも……。


  ◇


 私が緑野くんと下校するのには、ちゃんと目的があるんだよ?それはねぇ、緑野くんから感じる困ったさんオーラの原因を探ること!

 長い人助け生活が、私に悩み事を抱えてる人を雰囲気で見分ける力をくれたのだ!って友達に言ったら『それはただの経験則じゃない?』って言われた。けーけんそくが何かわかんないけど。

 緑野くんは上手に隠してるつもりかもだけど、私の目は誤魔化せないよ〜!勉強はできないけど、人助けさせたらプロですよプロ!さりげなく悩みを聞き出すとか朝飯前ですよ!

 みっちゃんへの贖罪で始めた人助けだったけど、これが意外と私の性に合ってたみたいでね、今ではほとんど生き甲斐だよ。

 人助けが贖罪じゃなくなった今、私は何をすれば許してもらえるんだろう……そんなことと、緑野くんからどうやって悩みを聞き出そうかを考えてたら、下駄箱のところに着い……

「……………」

 ああ、そっか。

 これがあったっけ。

 人助けが贖罪じゃなくなっても、私がみっちゃんへの手紙(あくい)を代わりに受けるっていう購いが残ってたよ。良かった良かった。

 あの子も酷いこと考えるよねぇ、みっちゃんのときもこうだったよ。


 ラブレターみたいな見た目は、受け取らずに捨てられたときに『人のラブレターを捨てた酷い奴』っていう大義名分を得るためのものだった。


 望まなかったとはいえ、同じことやってた私にはタネがバレてるのに。芸がないなぁ。

 もっとも、だからといってあの子が書いたものを受け取るなんてあり得ないけど。

 だから、どんな裏があろうと、こんなものはぽーい。

「ちょっと待てェェェ!!」

「うん?どうかしたの、緑野くん」

 まるで信じられない光景を見たような顔をしてるけど。

「どうって…今の、は…」

「あはは、心配してくれるの?優しいね、ありがとー。でも大丈夫だよ」

 全く、みっちゃんは優し過ぎるよ。わたしがこんな目にあってるのは自業自得、身から出た錆なのに、自分を裏切ったわたしを心配してくれるなんて。「これは罪で、わたしが背負うべき罰なんだよ。だからへいき」

 わたしはみっちゃんを裏切った。

 そんなわたしが、みっちゃんへの苛めを肩代わりできるなんて、むしろ夢のようだよ。みっちゃんを助けるチャンスが、再び巡ってきたんだから。

「今度こそ、わたしが助けるからね」

 不安そうな顔のみっちゃんにそう言って、わたしは家にかえりました。


  ◇


 あ。

 緑野くんと帰る約束、すっぽかしちゃった。

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