春風の話→バッドエンドに始まるエピソード
なんかね、始まりはとある女の子の嫉妬だったらしいの。
あ、この女の子っていうのは、私の親友のみっちゃんじゃないよ?みっちゃんはあんなことする子じゃないもん!
確かに変な子だったけどね……。何が変って聞かれたら、えーと……チョイス?
覚えてる範囲でいえば、季節の春のことを『虫さんが起きてくる季節』って言ってたりとか、私のことをるかちゃんって呼んでたりとか……。
私が『はるかぜ』だから、真ん中からとって『るかちゃん』だって言ってたけど……何でよりによってそこを選んだのか、未だにわかんないよ。
あれで本人は普通って言い張ってるんだから、筋金入りだよねぇ……え?私も対して変わらない?失礼な!
私は普通だよ!
……その『五十歩百歩』って発言の真意を、お説教混じりに問いただしたい気持ちだけど、今はその話じゃないから我慢してあげるよ。
私とみっちゃんの、終わりのお話だもんね。
そう、嫉妬。
……七つの滞在?何それ、旅行記か何かかな?
話の腰を折らないでよ!今はガリバーさんの話はしてない……って待って待って!何で呆れてるの!?私が呆れられるの!?
うぅ……話の腰は折られるし呆れられるし、散々だよぅ……。呆れたいのは私のほうなのにぃー……っていひゃいいひゃいいひゃい!にゃんへほっふぇはふぉひっひゃふほ!?いひゃいひょ、ひゃぅえへ〜!
うぅ〜、ほっぺた痛いぃ……いきなり何するのよー!……え?え!?何言ってるの!?外れないよ!?ほっぺたがとれるのはコブとりじーさんだけだよ!ちょっ……やーめーてー!
◇
その日、みっちゃんは学校に来なかった。
その日から、みっちゃんは学校に来なかった。
前の日から、みっちゃんは転校していた。
私はその原因を知っていたし、その原因の片棒を担いだのだから、「やっぱり」とは思ったけど、同時に「良かった」とも思った。
「良かった」。これで私はみっちゃんに酷いことをしなくていいし、みっちゃんは酷いことをされないでいい。
「やっぱり」。みっちゃんは辛かったんだ。ううん、そんなの当たり前。靴の入る場所もないくらいたくさんの手紙を、下駄箱に詰められていたんだから。辛くないわけがない。
この苛めには最終的に、学年全ての女の子が参加した。
もちろん、積極的に参加した子なんかほんの一握り。あとの子はつまり、脅された。言い訳みたいでなんか嫌だけど、このことだけは、言い訳させてほしい。
私も、脅されて参加した。『やらないなら、学年の子全員に無視させる』って脅しに負けて。
あの子の後ろに、縮こまった私の友達の姿を見て( 親友はみっちゃんだけだけど、友達だってたくさんいた )、それは身近な脅しなんだとわかり。
あの子の怖いくらいの嫉妬に、呑み込まれた。
そう、嫉妬。
私たちのクラスに、人気者の男の子がいたんだけど、あの女の子はその男の子のことが好きだったらしくて。
そして、男の子がみっちゃんにちょっかいを出すのが気に入らなかったらしい。
そんなこと言われたって困るよねぇ……知らないよ、そんなこと。
どう考えたってみっちゃん悪くないし、というかこんなことやってるから好きになってもらえないんだよ。
……そう言えたら格好よかったのかもしれないけど、できなかった。
嫉妬に狂うあの子の後ろにいる、私の友達。
申し訳なさそうにうつむいている、私の友達。
断れば、小さく縮こまったあの子は、嫉妬の子の宣言通り、きっと私を無視する。
たぶん私と同じ、もしかしたらそれ以上の脅しを受けたあの子は、嫉妬に狂ったあの子に逆らえないんだ。
怖い。
1人になりたくない。
そんな風に思ってしまった私は、最低なことに……
親友を、1人にしてしまった。
◇
放課後の下駄箱。
周りには誰もいない。
いるのは私と、嫉妬に狂ったあの子だけ。みっちゃんの親友だった私には監視がついた。
私の手には、さっき書いた手紙が入った封筒。自分の手で入れなさいと嫉妬の子が言う。
『誰かがこの現場を見つけてほしい』そんな風に思って、出来る限りゆっくりと動く。
早くしてと怒られた。
みっちゃん、ごめんね。
1人にしちゃって、ごめんね。
届くはずもないごめんねを、心の中で繰り返しながら。
手紙を下駄箱の中に入れた。