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計画その4 缶蹴り

 三人を目の前に正座させた俺は、説教をしていた。もう、年の差なんて関係ない。生きるか死ぬかの戦いなのだから。

「ちょっと待て、それじゃあ、私の一番の部下を使うのは……」

「一番だろうが十番だろうがダメに決まってるだろ!」

「な、何だお前! 大尉に向かって……」

「部下は黙ってろよ!」

「そうだぞ! お前らは静かに……」

「てめぇも黙ってろよ!」

「……すみません」

 とりあえず、大尉の部下にはお帰り願い、俺は、普通の缶蹴りのルールを教えた。というよりも、ありとあらゆる事を想定した禁止事項を教えたのだ。

「あの、一つ質問でゴザル」

「何だい、ボケ忍者」

「ボ、ボケって。あ、あの、そのルールで、どうやって忍術を使えばいいのでゴザルか?」

「忍術を使う事が禁止なんだよ、ボケ!」

「すみません……でゴザル」

 あまりにも俺が不機嫌だからなのだろうか、意外と三人とも、文句を言わない。殺し屋にいたっては、未だに泣いているし。とりあえず、ここまで説明したのだから、今度こそ『普通の』缶蹴りが出来るはずだ。ここまできて、やっと、同じ舞台に立ったという感じか。

「これで説明終わり。文句がある奴はいるか?」

 三人は大きく首を左右に振った。よろしい。

「散らばれ!」

 俺がそう言うと、三人は一斉に四方へ散らばった。俺は大きな声でカウントダウンをした。

「2……1……0! 行くぞ!」

 俺が辺りを見回すと、三人の姿は見えなかった。俺は缶から数歩離れた場所で円を描くように回りながら、三人のいそうな場所を考えた。

 俺は、記念碑の近くのベンチを凝視した。一見、普通のベンチのように見えるが、俺の目は誤魔化せない。ベンチの下を覗くと、何か布がぶら下がっているのがわかる。なるほど、忍者め。あのベンチの裏にぶら下がっているのだな、お前の鉢巻が見えるぞ。

「ボケ忍者見っけ!」

 俺がそう叫ぶと、案の定、ベンチの下に隠れていた忍者が姿を現した。そして、身体を転がし、ベンチの下から起き上がると、缶目掛けて走り出した。きっと、身体能力的には、あいつのほうが遥かに上だが、俺と缶の距離は絶妙だった。後ろを振り向いた瞬間、俺は缶を踏む事が出来た。

「ボケ忍者確保!!」

 俺がそう叫ぶと、一歩遅かったサスケが、膝を落とし、項垂れた。

 次はどっちだ? 俺は、砂場の方を凝視した。砂場の奥にある木が怪しい。俺の第六感がそう言っていた。間違いない。あそこに誰かいる。

 俺がその木に一歩、また一歩と近づくと、誰かが鼻を啜るような音が聞こえた。その音の主は、もちろん、殺し屋だった。角度を変えてその木を見ると、やはり後ろに殺し屋がいた。

「殺し屋見っけ!」

 俺は、そう叫ぶなり、急いで缶を踏みに戻った。しかし、急ぐ必要は無いのだと、殺し屋の姿を見て気が付いた。あいつ、まだ泣いてやがる。しかも、何かもう一杯一杯やないか。目やら鼻やらから、大量に液体が流れてるよ。気持ち悪い。

「殺し屋確保!!」

 やはり最後は、あいつか。俺はもう一回辺りを見回した。

 俺はこの缶蹴りを始めた当初から、あいつが最後の敵になるとわかっていた。俺の「鉄壁の鬼」のカンがそう囁いていた。

 最後はあの大尉だけだ!

「ザッ!!」

 どこからか、地面を蹴る音が聞こえた。俺は振り向いた。俺の背後から、大尉が猛スピードで突進してきた。

「大尉見っけ!!」

 俺は叫んだ。これで最後だ。俺とこいつらの戦いは終わりだ。俺は全ての力を出し切って、缶に向かって走った。俺と缶との間は約3メートル。対する大尉と缶との間には、約10メートル。距離は俺のほうが近いが、あいつには、俺に勝る身体能力がある。負けない。俺は心の中で叫んだ。

「カンッ!!」

 そんな甲高い音と共に、缶が中に浮いた。俺はその缶を目で追った。ゆっくり宙を舞い、そして地面に落下した。しばらく音を立てながらバウンドし、転がった。

 缶蹴りが終わったのだ。俺は目の前に立つ、その男を呆然と見詰めた。大尉は転がる缶を見つめ、そして、俺を見た。

 沈黙。誰一人として言葉を発する者はいなかった。ただ一人を措いては。

「やった!!」

 さっきまで、地面で寝ていた(気絶していた)少年が歓喜の声を上げた。嬉しそうに万歳をし、ぴょんぴょんと跳ねた。

「僕の勝ちだ!!」

 そう。缶を蹴ったのは、この少年である。

 

「まだまだ我輩達は、力不足だとわかったよ」

 大尉が言った。どうやら、俺との缶蹴り対決で、自分達の無力さを思い知ったらしい。

「もう一度、一から……鍛えなおすで……ござる……グスッ」

 忍者は泣きながら言った。せっかくの黒装束が、涙と鼻水でビショビショだ。

「そうね。ねぇ、今から三人で、師匠に会いに行かない?」

 殺し屋の提案に他の二人は賛同した。

「へぇー。師匠なんているんだ」

「そうだ。我輩達三人には共通の師匠がおる。まぁ、師匠と戦ったら君の命など米粒ほどだ」

 そんなに凶暴なのか……こいつらの師匠は。そりゃそうか。大尉に忍者に殺し屋……。そんな奴らの師匠だからな。俺の背中には、じんわり冷や汗が出ていた。

「また会おう。そして、強くなった我輩達と、再戦出来る事を心待ちにしておくんだな」

 冗談じゃない。もうお前らとなど会うもんか。そう心の中で呟いた。

 三人の後姿を見送った後、俺は家に帰ることにした。

 

「ピンポーン」

 インターホンの音が、家の中に響いた。俺は缶蹴りで疲れた身体を癒すため、昼寝をしていたのだが、何度も鳴る呼び出し音に起こされ、イライラとしながら、玄関に向かった。

「どなたですか?」

 ドアを開けながら、俺は言った。

「よ!」

 銀さんだ。この人は、いつも俺に災いをもたらす。もうそんなイメージしかない。

「今日は何ですか?」

 俺は目に見えるほどの嫌そうな顔で言った。

「そんな顔するなよ。今日はちょっと会わせたい奴がいてね」

 銀さんは満面の笑顔で言った。誰だろうか? 俺は考えた。銀さんが背後に向かって手招きすると、三人が姿を現した。

「えっ!?」

 三人は俺の顔を見るなり、唖然とした顔をした。それもそのはずだ。さっきまで缶蹴りの相手をしていたのが俺なのだから。

「師匠の友達って、彼なんですか!?」

 大尉が言った。

「なるほどな。あんたらの師匠って、銀さんだったのか。妙に納得だよ」

 全ての武道(特に忍術)をマスターした銀さんなら、彼らの師匠でも驚かないよ俺は。

「なんだ。知り合いだったのか」

 何も知らない銀さんは、俺と三人の弟子を交互に見ながら、困惑な表情をしていた。

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