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【連載版】婚約者の女友達に「こいつのことよろしくね?」をされましたがそんな男いりません。  作者: ぽんぽこ狸


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7 幸福




 ヘルガに問いかけられて、オリヴァーは少し困ったように首の後ろを摩って、それから手を机の上に戻す。


 視線はヘルガを見つめていて、ヘルガはどんな答えが返ってくるのかとわくわくしていた。


 幼なじみをやっていても、こんなに概念的な考えまで共有したことはなかった。


 むしろ幼なじみだったからこそ、そばに居てただそれだけでそれ以上でも以下でもないけれど、ずっと一緒にいたいと思う程度の間柄だった。


 だからその必要がなかった。


 しかし今はお互い大人で婚約者同士で、たまにはこういう深い話だってするだろう。


 もちろん、そこから話を広げて、将来の楽しい家族像を思い浮かべて、やっぱり気が合うと笑い合ったりするのだ。


 ヘルガは若干、夢見がちにそんなことを考えていた。


「……君が、やる気を出して、心底真面目に結婚生活を考えてるってのは、まずわかった」

「はい」

「ただ……そうだな。なんというか君らしいと言えば君らしいが……」


 やる気のあるヘルガの返答もあまり気にせず、オリヴァーは考えながら話して途中で言葉を句切る。


 それからしばらくして緩慢な仕草で、口元に手を当てて考える。


 数秒後、頬杖をついて企みのある笑みを浮かべた。でもすぐに真面目な顔になって口を開いた。


「俺はな、ヘルガ」

「はい」

「こうして君と一緒に時間を過ごしているだけで幸せなんだ。幸福が何かって? たった今ここに流れてる時間のことを言うんじゃないか?」

「……え」

「人によって幸福の定義は違うとして、俺がそれを感じていることは俺しかわからないんだからこれは真実だ。俺は幸福だし、君がそこにいて、無遠慮に子供だったときのように触れてもいい」


 言いながら、オリヴァーはヘルガの元へと手を伸ばす。


 そっと彼の手がヘルガの頬をなでて、少し男性らしくて硬い皮膚がしっとりと肌に吸い付いた。


「君には伝わらないんだろうな。この幸せな気持ちが、こんなに満たされていると感じたことは生きてきた中で一度もない。君のそばが俺にとっての幸福で、君は幸せの化身さ、愛してる」

「っ……」

 

 言いながらオリヴァーは、愛おしそうにヘルガの頬を親指でゆっくりなでるようになぞった。


「君がいれば俺はほかになにもいらない。たとえ世界のすべてが君の敵になったとしても俺は君を愛している、それが俺の幸福だから。何者にも代えがたいたった一人の愛しい人だ」

「……」

「幸福なんて言葉は君のことを表すためにできた言葉なんだろうな」


 そうしてオリヴァーはつらつらと愛の言葉と幸福を絡めた台詞を吐き出して、ヘルガはその迷いのなさに、これはさすがにからかわれていると理解できた。


 しかしそうはわかっていても、真っ向から頬に添えられて、真面目な顔で目をみて言われては否応なしに、ロマンティックに聞こえてしまう。


 それに言われる言葉のこそばゆさ加減も絶妙で、ギリギリ情熱的な人が言ってそうな言葉でもある。


 でも、彼はからかっているのだ。それなのに赤くなりたくない。真に受けていると思われたくない。


 ヘルガは彼の手をベリッと引き剥がして少し怒った顔をして必死になって平静を装って答えた。


「…………っ、か、からかってますねっ? こちらは、真剣っですのに!」

「さぁ、どうだろうな。俺だって真剣だろ見てくれこの目を」


 彼の手を力いっぱいぎゅっと握って抗議するが、彼は握られていない方の手で目をさして、たしかに真剣みたいに見えなくもない。


 しかしそれがからかっていない証拠にはならないだろう。それに何だ、この目を見ろって、そんなこと普段は言わないだろう。


「それに、俺にとっての幸せは何かって聞いたのはヘルガだろ。真剣に答えてやってるのに嘘だって君は否定するのか?」


 さらにそう言われてしまうとヘルガは簡単に今の言葉を否定できない。


 だって幸福はなにかと相手のために聞いたのに、自分の納得する答えではなかったからといって否定するのはあまりに横暴だ。


「俺の気持ちは、俺にしかわからないから聞いたんだろ。答えはきちんと言ってるぞ」

「……」

「納得いってない顔だな」


 たしかにオリヴァーの言葉は正しい。しかしもちろんヘルガは納得がいかない。


 だって、本当だと思えないから。


 人にとっての幸福、それはきっと……。


 (きっと何というかいろいろと……あると思うんです。だからはぐらかされているだけとしか思えません)


「君は本当になんでも真面目だな。ははっ」

「あなたも真面目にやってくださいよ……」

「真面目にやってるぞ。マイハニー、不服そうな顔も愛嬌があって、わしゃわしゃなで回したくなる」

「っ、も、もうっ」


 オリヴァーはヘルガと手を握ったまま、また甘ったるい言葉を垂れ流した。


 その目は妙に真剣で、どう考えてもからかっているのに、良いよと言ったら本当になで回してきそうな様子だった。


 (なんで逆にこんな適当にからかいながらそんな目ができるんですか、まったく)


 意味のわからないオリヴァーの様子にヘルガは、じとっとした目で彼にかえすが、彼はどこ吹く風だ。


「それで、ゲームは? しないのか? 久しぶりにチェスでもしようぜ」

「! ……そういえば、以前はあなたに勝ち逃げされたままでしたっけ」

「どうだったかな」

「そうですよ。私あのとき、ものすごく悔しかったんですから」

「そうだったか?」

「やりましょう。あのときの雪辱を晴らしますよ」

「また悔しい思いをするだけかもしれないぞ」

「いいえ、今度こそ勝ちます、勝つまで続ければ良いのです」

「はははっ」


 そうしてヘルガはまんまとオリヴァーの口車に乗って、とりあえず夜は勝つまでチェスをすることにしたのだった。




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