6 応援
父とオリヴァーの仲は割と良好であり、ほぼほぼ教育が完了しているヘルガを放って二人はともにいることが多くなった。
そそっかしい人ではあるが父は人にものを教えるのが割と得意だ。
オリヴァーも元々領地経営の勉強をしていただけあってスポンジのようにエヴァーツ伯爵家の知識を吸収している。
今は忙しい父だが、二人で支えて楽をさせてあげられる日も近いのではないか、ヘルガはそんなふうに感じていた。
しかし、そうしてオリヴァーの頑張りをただ我が物顔で受けるだけではいけない。
なんせヘルガは、オリヴァーを誰よりも幸せにする義務がある。
義務というか宿命だ。
ヘルガはオリヴァーがやってきてくれたときに、それを人生の命題に掲げようと本気で思って決意したのだ。
だからこそ、オリヴァーを幸福にすることに本気で挑みたい。
もちろん立場に伴った仕事はきちんとするし、父のサポートも今まで通り、その上で挑みたい挑戦なのだ。
「こんな感じでいかがでしょう?」
侍女のフローラは自信満々の笑みで鏡越しにヘルガに問いかける。
いつも通り耳上の髪を後ろでまとめた髪型だが、オリヴァーと会うために少し手間をかけてアレンジを施してもらったのだ。
髪留めも少し豪華になっている。
「想像以上です。ありがとうございます、フローラ」
「いいえ、お安いご用ですっ! ヘルガ様、それより談話室でオリヴァー様がお待ちなのでしょう? ささ、参りましょう」
フローラは、なんだかニコニコと言うよりもニマニマとしていて、笑みを抑えようとしてもどうしても笑ってしまうみたいな顔だった。
「後でお二人のこと聞かせてくださいねっ! こんな日が来ることを私、心待ちにしてたんですから!」
「そうだったんですか?」
「はい、ヘルガ様に召し上げられた時からずっと!」
「!」
「使用人の間でも、喜んでる人が多いですっ! 使用人一同、進展を見守っておりますよっ!」
フローラは拳を握って、鼻息を荒くした。
ヘルガの想いは多少なりとも、彼らにバレているだろうという気持ちはもちろんあったし、使用人たちも暖かく見守ってくれているとは思っていた。
しかしそこまで、ダイレクトに恋路……というかオリヴァーとのことを応援されると途端に羞恥心が勝る。
たしかに幼い頃から一緒にいたのだ、使用人たちも仲がよくとも一緒にはなれない二人の子供に対してもどかしく思っていたかもしれない。
特に年の近いフローラなんてその最たるものだったのかもしれない。
しかし身内に近い人たちにエールを送られながら、オリヴァーとのことを進展させるなんて自立していない子供みたいで恥ずかしい。
「ファイトですっ」
「……」
けれどもフローラにはまったく悪気がない。
彼女の応援は本気だ。だからこそ困ったし、もう少し気にしていないふうを装ってほしかったが、こういう素直なところに助けられることもある。
「が、頑張ります」
「はい!」
気恥ずかしい気持ちになり、今後どの使用人の目も生暖かいものなのだろうなと思うとやっぱりなんだか、照れ隠ししたくなってしまう。
しかし、こればっかりは仕方ない。幼なじみの宿命のようなものだろう。
きっと親類にも『あんなに小さい頃から仲良かった二人がねぇ』と好奇の目で見られることだろう。
(なら、いっそのこともう、見せつける気でいきましょう。元々私は、伯爵令嬢跡取りです! 隠し立てするようなことなどしていません!)
そんなつもりで、ヘルガはオリヴァーの待つ談話室へと向かったのだった。
「あなたにとっての幸福とは何ですか?」
「ん?」
「幸福、ってなんですか?」
「……」
ヘルガはテーブルに肘をついて顔の前で手を組んで神妙な顔をしてオリヴァーに問いかけた。
彼はヘルガに『夕食後は談話室でなにかゲームでも』と誘われて来ていたのに、妙に着飾って気合いの入っているヘルガに妙なことを問いかけられたのだ。
そんな顔にもなるだろう。
いくらオリヴァーでも、こんな突然の行動の意味を察知することは難しかったらしく、少しだけ前のめりになってヘルガのことを見つめた。
「急にどうした」
「たいしたことではありません。ただ当たり前のことです」
「……」
ヘルガは若干得意げになって説明になっていない説明を返す。
それにオリヴァーは少し小さく息を吸って「それで?」とちょっと優しい口調で言う。
「つまり、前提として私はあなたを幸せにしようと、決めたわけですがでは、あなたにとっての幸せとはなにか、まずはそれをヒアリングして、方向性をと思いまして」
「……」
「あなたにとっては大したことではありませんが、真剣な問いなのでお答え願います」
そうしてヘルガは、少しばかり背伸びをしている子供みたいな丁寧な口調で言って再度オリヴァーに問いかけた。
「あなたにとって、幸せって何ですか」




