42 無関心
「なるほど、現国王陛下の退位と、王家へのコルネリア様の嫁入り……ですか。……とても堅実な策を考えていらっしゃるのですね」
「もちろん、武力で解決することも一つの策であることは事実、しかし強引な手段に出た故に力を失い、統治にほころびが出るようなことがあれば本末転倒だ」
「同意します。大多数の貴族は、王家に対する不満と同時に、争いのない国の安定を望んでいます。それを成せないなら、ハイムゼート公爵家が実権を握ることへの利点はないのと同義ですから」
「もちろん、激しく巻き込まれていない貴族たちが遠巻きながら派閥争いによって起こる不都合を疎ましく思っているのは理解している」
ハイムゼート公爵が話した派閥争いの終結の方法は、ハイムゼート公爵家がより深く王家の懐に入り込み、実権を握ると言う案だった。
現国王を退位させその権力が国の中心に届かない場所へと隠居という形で追い込み、若い王太子のイグナーツとはコルネリアを結婚させて監視させる。
そうすることで、徐々に現王家から徐々に力をそぎ、二人の間に子供をもうけさせ、王位を継承させればイグナーツのことも排除できる。
総力戦によって、真っ向から戦う手段も派閥同士の争いが拮抗するほど同格なのでエヴァーツ伯爵家の協力を得た上でなら選択肢に入るが、多くの人が犠牲になる。
そしてそれによる怨恨や分裂も生まれかねない大惨事となるだろう。
その選択肢をとらずに、あくまでエヴァーツ伯爵家の協力を材料として、相手が諦めるような状況を作り、無駄な犠牲を出さずに政変を起こそうというのはとても堅実な案であるとヘルガは考える。
そして目の前に居るハイムゼート公爵は、実直でまっすぐであるだけではなく手段を選び、準備を重ね、エヴァーツ伯爵家が王家の陰謀に巻き込まれたと言うタイミングで声をかけてきた。
それは耐え忍び、好機をうかがう事もできる忍耐も持ち合わせているということだ。
「エヴァーツ伯爵家には協力の証としてハイムゼート公爵家に、疎魔の盾を友好の証として託すこと、それから直接、決着をつける日にはこちらの見方として見届けることを望む」
「……」
「我々と接触を持った時点で王家もすでに動き始めているだろう。決着の時は近いのかもしれぬ」
最後に、エヴァーツ伯爵家に望むことを口にして、もちろんそれも無理のない範疇と言えるものだろう。
行動と、当日の言動の二つで王家に対して、ハイムゼート公爵家とエヴァーツ伯爵家は手を結びその結束は固く王家には勝ち目がないと示すと言うのも合理的で納得感がある。
(……ただどれほど話を聞いても、用意周到さと、それから安定感を覚えるだけで、大きな穴があるとは感じませんね。……しかしそれではなぜ、ハイムゼート公爵は決断を急いだのでしょうか)
最後に疑問に思ったことはそれであり、なにかしらの不安要素があると踏んでいる。
しかしそれは、見通しの甘さでも、作戦の難易度でもない。
となれば、やはり……。
「ハイムゼート公爵のお考えは理解できました。たしかに勝ち筋はありますし、私たちも王家に対する借りがありますから、心情的に協力をしたい気持ちはあります」
「ならば――」
「しかし、最後に、お聞かせください。……コルネリア様」
「!」
やはりハイムゼート公爵はぎくりとした顔をして娘のことを横目で見た。
ヘルガに名前を出されたコルネリアは、ゆっくりとヘルガへと視線を移して腿の上で組んでいた手を少し握る。
「あなたのこの争いに対するスタンスを」
「……スタンスですの」
「はい、どう向き合っていらっしゃいますか?」
そう聞いたのは、どう受け取ってもコルネリアの態度は好意的とは言えないもので、最初に挨拶をしたときから一言も言葉を今まで発さなかった。
それがコルネリアがそういう人間だからなのかそれとも……彼女には何か別の考えがあって望んでいないのか。
「……わたくしは、ただ父に言われたまま動くだけですわ。そこにわたくしの意思も気持ちも存在いたしません。ただの傀儡とかわりません」
「コルネリア……」
「ですので、聞かれてもお答えできませんわ。エヴァーツ伯爵令嬢。物事すべて、なるようにしかなりませんもの。なにも思いませんし考えませんし、いたしませんわ」
「……ヘルガ嬢、もちろんこの子のことはきちんとわしが制御する。……不安に思われるかもしれぬが、無能というわけではない。……ただ無気力なのだ」
娘の言葉にハイムゼート公爵は怒るわけでも、厳しく接するわけでもなく少しうなだれて、ヘルガにそれでも支障はないとアピールする。
なぜ親子でそこまで熱量に違いがあるのか、なぜ彼女は自分事でありながらそのような態度なのか、それはまるでわからない。
しかしまたうつろな目をして黙り込んだコルネリアからは話を聞けそうもなければ、説得することも難しそうだ。
どんなに正当性があって勝ち筋があったとしても、企んでいるのは王家に対する反乱に近しい行いだ。
たった一人不安要素が居るだけで、情報の流出の可能性もあるし安易には答えを出すことができない。
「……わかりました。しかし、精査する時間をいただきたいです。一週間で必ず答えをだします」
「うむ。……わかった」
ヘルガがそう口にすると、ハイムゼート公爵はすでに諦めの姿勢で応じたのだった。




