27 招待
「初めまして、フィルツ子爵令嬢。私はエヴァーツ伯爵跡取りのヘルガです。オリヴァーから話を聞いていたとおりとてもかわいらしい方ですね」
ヘルガはとても穏やかに笑って、ベティーナのことを迎え入れた。
オリヴァーからはなしを聞いて、これからのエヴァーツ伯爵家とラドフォード侯爵家のためにも交流を深めようと提案し、顔を合わせるためのお茶会を開催した……ということになっている。
アイロスはもちろん快諾し、ベティーナもまったく躊躇することなくやってきた。
「お招きありがとうございます。エヴァーツ伯爵令嬢、そう言っていただけて嬉しいですわ。今日のためにわたくし、入念に準備を重ねて参りましたの」
少し頬を染めて言うベティーナは、パーティーではけなしていたヘルガのことも自分の魅力にコロッと落としてしまおうと画策しているらしい。
「こんなふうにお屋敷に招いていただける日を心待ちにしていましたもの」
「それは嬉しい言葉ですね。どうぞ、早速お茶会を始めましょう」
「ええ」
ヘルガが案内のために身を翻すと、無言のアイロスも突いてきてオリヴァーは若干浮かない顔をしていた。
どうあってもこのベティーナのことが気に入らないらしい。
しかし、ベティーナはオリヴァーの様子などもう眼中にない。
あのパーティーの時にヘルガにまったく気がつかなかったように、彼女は自分に必要なもの以外はたとえ視界に入っていてもみないし興味もないのだ。
そして自分にとって価値がないものは、けなして踏みつけて当たり前。
そういうふうに生きてきたのだろう。そしてそれで全部うまくいっていたのだろう。
応接室へと足を運ぶ。
表面的には和やかな雰囲気で、跡取り婚約者同士のお茶会は幕を開ける。
しかしヘルガは彼女の一挙手一投足に目を光らせて決して見逃さないよう気を張ったのだった。
「あら、そうですわね。もうこんなに日も傾いて……驚きましたわ。ヘルガ様とお話ししていたらわたくし時間を忘れてしまっていて」
「私もです、お互い通ずるところも多いようですし、なによりあなたはとても賢く、将来も十分に期待できる逸材です」
「っ……」
ヘルガの言葉に、ベティーナは嬉しそうに微笑んで「そんなことないですわ」と恋する乙女のような表情で否定した。
しかしその顔はまんざらでもなさそうで、出会ったときよりもずっと彼女は実感に満ちている様子だった。
ヘルガと仲良くなれたし評価もされた、これは手応えがある。
彼女の充実した笑みからはそう読み取ることができる。
「謙遜なさらずに。アイロスも、婚約者がこんなに良い方で嬉しいでしょう?」
「はい、もちろん」
「……ただ、もっと深い話をするのは時間的にもまた今度ですね。ベティーナ」
「ええ。そろそろおいとまさせていただきますわ」
立ち上がろうとするベティーナに会わせてアイロスも腰を浮かす。
しかし途端にヘルガは「アイロス」と声をかけた。
「この後、少し私たちの領地のことについて話すべきことがありますから、あなたはそこに居てください」
「? ……ですが、このような場合、一度見送りをしてから話をするべきだと思いますが」
「理由は後で説明しますので、今は従ってくださると嬉しいです」
「……わかりました。ヘルガさんがそう言うなら」
ベティーナはヘルガの言葉を聞いて、とっさにティーカップへと手を伸ばした。
座り直して最後に喉を潤そうとしたみたいな仕草で、両手を添えてこくりと飲み干して、カチャンと音を鳴らしてカップを置いた。
「そういうことなら、わたくしはこれで失礼しますわ。今度はもっとたくさんお話をいたしましょう。ヘルガ様」
「ええ、今日はわざわざありがとうございました」
そう言葉を交わしてベティーナが応接室を出て出て行くのを見送る。
さすがに少しあからさまだった気もするし、案の定アイロスが突っ込みを入れたが、ヘルガには確信があった。
「どう思う?」
ふとオリヴァーが聞いてくる。オリヴァーはすでに少し声を潜めていたが、もう少しかかるだろう。
屋敷を出るまでは時間がある。
「探してみるか? それからにするか?」
「いいえ、このまま……さて、アイロス。あなたにはやってもらうべきことがあります」




