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【連載版】婚約者の女友達に「こいつのことよろしくね?」をされましたがそんな男いりません。  作者: ぽんぽこ狸


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23/52

23 素直

 


 事の発端は、アイロスの友人であるクリスタという少女からオリヴァー宛に連絡が来たことだった。


 少し癖のあるアイロスをまったく気にせず付き合ってくれる気の良い子で、ヘルガとも面識がある。


 そんな彼女にも、もしアイロスに何か気になる部分があったら自由に連絡をよこしてほしいと伝えてあった。


 そしてクリスタから来た連絡は、アイロスと婚約者の関係が不安なものであるという話で、婚約者のベティーナという女性もなにやら企みを持っているらしい。


 オリヴァーはすぐに、対処するべく王都に向かうことになった。ヘルガもしれっとついてきた。


 本当はヘルガは白鳥の雛を理由に領地の屋敷において来たかった。


 しかしヘルガは一度決めたら押しても引いても納得するまで突き通すタイプなので、オリヴァーが跡取りを降りたことによって発生する問題には絶対に協力するという姿勢を崩さない。


 そんなわけで少し頭をひねって、ヘルガにはベティーナと直接対面するのではなく、クリスタから話を聞いてもらうという仕事を頼んだ。


 これでもしベティーナがとんでもないことをしでかすような危険人物だったとしてもオリヴァーの判断で会わせないことが可能である。


 それは素晴らしい案のような気がしたが、よく考えてみるとオリヴァーは今、ヘルガがいないとアイロスとは現在ろくに会話をできるような状態ではないのだった。


「……」

「……」


 向かい合っているアイロスは、オリヴァーに代わらず責めるような視線を送ってきて肌にビシビシと刺さる。


 昔……というか最近までは仲のいい兄弟のつもりだった。


 と言うか、オリヴァーは少しだけアイロスに過保護だった。なんせ変わり者の弟で、人との衝突も多い。しかしオリヴァーには素直でよく言うことを聞く。


 手帳で考えを整理した方が良いとプレゼントしたのはオリヴァーだし、大事にしてきたつもりだ。


 もちろんヘルガを選んだからって、オリヴァーはアイロスを捨てるつもりなんてない。


 これからもずっと、弟のことを支えるつもりがあるし、何かあったらすぐに駆けつける。


 それをしっかりと示しているつもりだったが、アイロスはオリヴァーのことが嫌いになったらしい。


「……」

「……」


 ただ無言で見つめてくるアイロスに、オリヴァーは争うつもりがないことを示すかのように腕を組んで目線を下げていた。


 しばらくするとノックの音が響いて「フィルツ子爵令嬢が到着されました」と使用人が告げる。


 応接室の中へと入ってきたフィルツ子爵令嬢であるベティーナとオリヴァーは昔、会ったことがあった。


 その時は普通の女の子という印象だったが、成長に伴って変わったらしい。


 今日の印象はまるで違う。得意げに浮かべられている笑みは、立ち上がって「お待ちしていました」と言うアイロスのことを見下しているみたいに見える。


 黒くウェーブのかかった髪はボリュームがあり、瞳は金で力強く、まだ顔つきの幼さが目立つが、将来とても美しい女性になるだろう顔立ちをしている。


「急に呼びつけてしまって申し訳ありません。ベティーナ、兄がどうしても顔を見たいと、わがままを言うものですから」

「いえ、別に? だって、ほかでもないエヴァーツ伯爵家の婚約者となったオリヴァー様のお願いですもの。かまわないわ」

「ありがとうございます」


 二人は慣れた様子で言葉を交わしていて、オリヴァーはそれに一時安堵した。


 とりあえず、不安のある関係性と言ってもそれほど顕著ではないのだろう、とそう考えたからだった。


「じゃあ、いつも通りあなたは、口を開かないでくださいませ。わたくしがお兄様とお話をしますから」

「ですが、紹介を――」


 しかし安堵したのもつかの間、出会ってすぐに雲行きが怪しくなってくる。


「は? 同じことを二度言わせないでくださる? わかってるでしょう? あなたは普通じゃないんだから、黙ってわたくしの言うことを聞けば良いのよ」

「……」

「なによ、その納得いってないみたいな顔! もっと優しく、もっと敬って、もっとちゃんとしないと、じゃないと、逃げられちゃうのよ?」


 言いながら、ベティーナはアイロスに手を伸ばした。


 彼女は乱暴に、アイロスの耳をひっつかんでその長い爪でぐっとつまみ力任せにぎゅっと引っ張った。


「い、……」

「痛くもないでしょ。わたくしのか弱い細腕がちょっとあなたを引っ張っただけなんだから」

「……」

「痛くもないでしょ」

「……はい」

「はぁ、こんなにわたくしを怒らせて、まったくそんなことじゃあ、誰と婚約したって逃げられるわ。あなたにはわたくしぐらいしかいないのよ」

「理解しています。いつもあなたはきちんと伝えてくださって助かっています」


 アイロスは、心なしか落ち込んだ様子だが、彼女の言葉を疑うつもりはないのかお礼を言って、オリヴァーは腹が立ちすぎて目の前がチカチカしていた。

 

 無意識に拳を握っていて、平然とした表情を保つのが大変だった。


「さて、お見苦しいところをお見せしてしまいましたわ」

 

 言いながらベティーナは切り替えて、オリヴァーの方へと視線を向けてソファーに腰掛ける。


 アイロスは、手帳を開いてペンを持つ。しかし何も口にせず、とても静かだった。


「お久しぶりですわ、オリヴァー様、まさかこんなに早く話をできる機会ができるだなんて、とても嬉しいですわ」


 ベティーナはふわりと微笑む。まるで先ほどのやりとりは誰に見せても納得する当たり前のことだったかのように気にしていない。


 オリヴァーは苦労してなんとか言葉を返す。


 すでにここに来た目的は達成されていて、話の内容はとても薄いものだったが、一つ情報を得た。


 それはベティーナはなぜかオリヴァーやその婚約者のヘルガには、好意を持っているということだった。





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