2 幼なじみ
貴族社会というものは割と狭い。
それこそ同世代で家格が近い貴族同士で婚約者を探すと、婚約者の友人の婚約者が知り合いなんてことはざらというかしょっちゅうだ。
ただ、今回のヘルガはその普通の範疇よりも若干幸運だった。
幸運というか不幸とも言うべきか、カリーナが婚約しているラドフォード侯爵家の跡取り息子オリヴァーとは領地が隣ということもあって幼なじみである。
もしかすると、カリーナとオスヴィンが望んで隣り合った領地の跡取りにアプローチを掛けたと言う可能性もありそうではあるが何にせよカリーナの婚約者とヘルガはただならぬ仲だ。
そこで、一つ、策を打ち出すことにした。
間抜けな策だが、ああして実際に二人と出会ってみてヘルガはカリーナの持つ気持ちを確信していた。
だからこそ効くだろうとオリヴァーに話を持ちかけた。
久しぶりに訪れたラドフォード侯爵家のマナーハウスはなんだか懐かしく感じて、応接室の窓からは昔彼と走り回って遊んだ庭園が見えた。
「で、俺と君が? 本当にやるのか? たしかに俺の方にもオスヴィンとかいうカリーナの友人がやってきてカリーナとの仲を散々アピールしてたが……」
「それならばなおのこと、効果は見込めるでしょう。あなたが嫌ならば無理にとは言いません、しかしちょうど巡り合わせとでも言うように私たちは割と仲がよかった」
「……それはそうだが……」
ヘルガの言葉はきっぱりとしているが、オリヴァーはどこか煮え切らない態度だった。
二人きりで会わないようになってからもう随分とたつ。
ヘルガはとても良い案だと思ったが、オリヴァーからするとヘルガはそんなことをするほどの相手とはもう思っていないのかもしれない。
そう思うと、オスヴィンたちの行動に頭にきて、少しから回ってしまっただろうかと少し不安になった。
「いや……絶対笑うだろ。君が」
「……笑いませんけど」
「いや、笑う。俺も笑うと思う」
「え、笑わないでください。台無しですよ」
「え、だって、あれだろあれをやれって言うんだろ、あのいかにもなのを」
「ええ、そうですよ。いかにもを通り過ぎましょう。もっとです」
言いながらオリヴァーはすでに困ったように笑っていて、小さく肩を揺らすと彼の後ろに結ってある金髪が小さく揺れた。
「真面目だな、相変わらず。でもあれを通り越すってよっぽどだぞ、俺、あのオスヴィンとかいう男に『俺らは魂でつながってるっていうか?』って言われたんだぞ」
「っ、す、すごい」
「すごいって、さすがに見習うな。君がそんなことを言ったら、俺も調子を合わせないといけないだろ。じゃあ、なにか? 前世は恋人だったと思うとでも言うか?」
「良いですね」
「やめてくれ。ま、いいわかった。君は真剣だな、いつも」
話し出せば、オリヴァーは以前から知っている彼で、会わない期間があっても過ごした時間は変わらないのだと思う。
しかしそういう気の合う大切な相手がいたとしても、自分の状況に合った人と婚約して結婚する。
それは、自分も納得しての選択のはずだ。
少なくとも、ヘルガに異論はないし、大切な人がいたとしても異性であったら、結婚する相手よりも優先してはいけない。
結婚というのはお互いにたった一人としかできないことをすることだ。その相手に自分よりも大切な異性がいれば誰だって不快になる。
だからこそヘルガはオリヴァーとは会わないことを約束していた。
しかしオスヴィンとカリーナはそういう誠実さを欠いて自分たちだけ気持ちいい世界に浸ってあれもこれも手に入れようとしている。
それは、看過できることなんかではない。
だから動くべきだ。
「真剣というか、当たり前のことです。私たちは対等な人間なんですから、人にしたことは自分にも返ってくるのですよ。だから誠実に生きるのではないですか」
「うん。真面目だな」
「……うざったいですか?」
「別に、俺は嫌いじゃない」
「ふふっ、よかったです。では、共同戦線は成立ということでよろしいですね」
「おう」
そうしてオリヴァーとヘルガは堅く握手を交わして、たちの悪い二人を迎え撃つことにしたのだった。




