19 奇行
アイロスと別れた後、エントランスホールでオリヴァーはあからさまに落ち込んでいた。言葉少なでいつもの彼ではない。
しょんぼりと肩を落としていて、大の男がヘルガよりも小さく見えるのだから相当である。
「まぁ、嫌われて当然だよな。なんでも手伝う、なんでも言えっていってもそりゃ、嫌か」
ヘルガが、オリヴァーを見つめていると、やっとぽつりぽつりと言葉を吐き出した。
「それに、業務連絡はできてるし……別に少し距離置かれてるだけで、俺には何の支障もない訳だ」
言いながら、オリヴァーは短く息を吐き出して、切り替えるように目を数秒つむってから、ヘルガに目をやって適当っぽく笑った。
「もう、お互い大人に近い年だしな。くだらないことは気にしない」
「……」
「別にそれでもうまくやってけば良いってだけだろ?」
それはオリヴァーの本音ではないこともわかっていたし、オリヴァーはこう見えて割と身内に弱いことも知っている。
ヘルガは、強がる彼を見て、その手をつかんでぐっと下に引っ張った。
「ん?」
「少しかがんでください」
「……」
ヘルガが言うと、部屋に戻るために身を翻そうとしていたオリヴァーは難なくかがんだ。
そしてその頭にヘルガは手を伸ばして後頭部をそっと抱き寄せた。
彼の額に頬をくっつけて、小さくキスをする。
「私はあなたのことが大好きですよ」
「……」
「辛い思いをしていたら、解決するまで同じ気持ちを共有したいですよ」
「……っ」
「……」
少し堅い金髪を丁寧になでつけて、ぎゅっと力を込めて抱いた。
そばに居たフローラは黄色い声を上げそうな様子で口元に手を当てて、ニコーッ!としていた。
ほかにも通り過ぎる使用人たちはそっと見ていないふりをして、ヘルガとオリヴァーはしばらくそうしていた。
ふと、そろそろオリヴァーを離して、アイロスのことについて話をしようと考えると離れる前に、突然、腹回りをつかまれた。
「っ?!」
「……」
ぐっと体が持ち上がって抱き上げられ、不安定さにオリヴァーの頭にしがみついたまま「な、なんですか?」と声を上げる。
「……いや、なんでもない、気にすんな」
そんなことを言いながらもオリヴァーはヘルガを抱き直して、そのまま歩き始める。
ヘルガはなぜかそのまま部屋まで連れて行かれる。
重たいだろうに、意外と安定していてなんだか変な心地だ。
ヘルガ自身、オリヴァーとは同じ年で同じように育っていても性差はあると思っていたし、実際彼の方が身長が高いし体もがっしりしている、ただそれは体質によって生まれる差としか認識していなかった。
しかし、きっとヘルガが、今のままニョキッと身長が伸びたとしてもこんなふうに軽々とヘルガぐらいの女性を持ち運んだりはできない。
それができるのは、中身が違って、性差以外にもオリヴァーがしている努力があるからだろう。
それが、抱き上げられてわかった。
しかし、なぜ運ばれたのか、部屋に置かれてそのまま去って行ったのかヘルガはまったくわからなかったし、顔も見られなかった。
ただし、使用人たちやフローラはしっかりと目撃していた。
慰められてドギマギしてしまい顔を赤くして、それを必死になって隠そうと画策したオリヴァーをしかと確認していた。
そしてそれは、彼なりの照れ隠しの奇行だったらしいので、誰もヘルガに告げ口せず、そっと胸の中にしまったのだった。




