第8話 下町店最強の布陣
「おっ、今日の夕方は楽できそうだ」
休憩室の壁に貼られたシフト表を見て、俺は思わず口角が上がった。
いつもは「誰が欠勤した」「誰と誰の仲が悪い」で胃を痛めてるが、今日に限ってはこの店が誇る「エース級」が勢揃いしていた。
「四波さーん、お疲れさまでーす!」
事務所の扉を蹴破らんばかりの勢いで入ってきたのは、高橋さんだ。
この道二十年のベテラン。声もリアクションもデカい。その圧倒的な「お母さん力」でねじ伏せる下町の重戦車である。
「おはよーござまーす」
続いて、現役大学生の鈴木。
見た目は派手なギャルだが、実は誰よりも丁寧で気配り上手、若者特有のフットワークの軽さでフォローに回る。
「おはようございます」
最後に入ってきたのは、佐藤さん。
長身でモデルのようなクールビューティー。無駄のない動きで淡々とレジを捌き、他よりも1.5倍のスピードで列をなくす。
そして、そこに「女神」こと早乙女神子が加わる。
まさにサンライズ下町店、最強の布陣。
(これなら、俺がセンサーを使う機会はないかな……)
そう高を括って売場に出たが、現実は俺の予想を遥かに超えていた。
「あ、そっちのレジ開きますよー!」
鈴木が迷っている客を的確に誘導する。
「ちょっと奥さん!今日のキャベツ、中まで詰まってて最高よ!」
高橋さんが、ぷんぷんゲージを溜めかけた偏屈な客を、怒濤のマシンガントークでねじ伏せる。
佐藤さんに至っては、視線一つで「次の方どうぞ」と行列を統制し、機械のような正確さで会計を終わらせていく。
俺の視界では、センサーがあちこちで光り、ゲージが赤く点滅している。
だが、俺が動くよりも先に、彼女たちが消していく。
「……あれ。俺の能力って必要?」
呆然と立ち尽くす俺の横に、いつの間にか早乙女が並んでいた。
早乙女は嬉しそうに3人を眺めながら微笑む。
「……なぁ早乙女。あのおばちゃんたち、能力もないのに、なんであんなに正確に動けるんだ?」
「?」
早乙女が、さも当然のように言った。
「だってあの3人は売場をよく見てますもん。」
軽快にレジを回すパート3人。
それは、「ゲージ」「センサー」に頼ってる俺よりも、特殊な能力を持ってるように思えた。
「……俺、まだまだだな」
俺は苦笑し、手近なカゴを手に取った。
最強の布陣の中で、俺は自分にできる「地味な仕事」を探し始めた。




