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第6話 ちょっと店員さーん

「……レベルアップ、ですか?」


品出しの合間、バックヤードの隅で俺は早乙女に問いかけた。レジ業務に復帰して3日、まだ動きはぎこちない。例の「ぷんぷんゲージ」を意識的に無視するようにしてから、俺の胃痛は心なしか和らいでいた。


「そうでした! 四波さんが『もっと相手を見よう』としたから、新しい能力をあげるんでした……忘れてたのです!」


早乙女がくるりと回ると、女神の姿へと変わる。彼女は俺の額に指先を当てた。


「新能力は…。**『ちょっと店員さーん!センサー』**なのです! 売場で店員を求めている人を、光ってお知らせします。」


「センサー……? 要は、話しかけてほしい奴が分かるってことか」


「はい! 四波さんが店員として売場にいる時しか反応しないのです。売場以外はただの『疲れたおじさん』ですからね!」 疲れたおじさんか…。 売場に出ると、それはすぐに分かった。


納豆の棚の前で、一人の主婦の肩のあたりが、ボウッと黄色く発光している。


(……あー、あれか。絶対『これとこれ、どっちが美味しい?』とか聞かれるやつだ)


正直、めんどくさい。気づかないふりをして素通りしようとした、その時。


『ほら光ってますよ!声かけないのですか?』 頭の中に女神が現れる。 黙って棚を整理する。 (…めんどい) 『…。』 主婦の放つ光が、直視できないほど強烈なフラッシュに変わった。


「まぶしっ……! クソッ、分かったよ、行けばいいんだろ!」


俺は半ばヤケクソで主婦に近づいた。


「……何か、お探しですか」


「あ、店員さん! ちょうど良かったわ、この納豆、前テレビでやってたやつどれかしら? たしかパッケージに……」


そこからが長かった。


テレビの話、旦那の健康状態、最近の野菜の高さ。主婦の話を聞いていてセンサーが捉えた「店員さんを求めている人」は、「誰かに話を聞いてほしい人」だとわかった。


役に立つのか、これ? 結局俺の仕事が増えるだけじゃないのか?


その後も、センサーに従って「光る人間」に声をかけ続けた。


醤油の場所を聞く少し寂しげな老人、泣いて光まくる迷子の男の子、ぷんぷんゲージ高めの割引シールの時間を聞く主婦。


気づけば、俺の仕事量は通常の倍に膨れ上がり、時刻はとっくに退勤時間を過ぎていた。


「四波! あんた、今日は一日中どこをほっつき歩いてたのよ!せっかく復帰させたのに、 レジが混んでた時にいなかったでしょ!」


事務所に戻るなり、店長の怒鳴り声が飛ぶ。


(ああだから店長やたら売場で光ってたのか…。) いつもならここで「ぷんぷんゲージ」がマックスの店長を見て萎えるところだが、今日は不思議と気にならなかった。


帰り道、コンビニに寄る。


いつもの第三のビールに手を伸ばしかけて、指先が止まった。


ふと思い出したのは、今日、最後に声をかけた老人の笑顔だ。


『兄ちゃん、よく気づいてくれたね。ありがとう』


「……一本くらい、いいだろ」


俺は銀色のボディに黒い文字、本物のビールを手に取った。


一口飲む。スッキリとしたキレと、しっかりとした苦味が喉を心地よく潤す。


他人のとりとめもない話を一日中聞いて、自分の仕事はちっとも進まなかった。おまけに店長には怒られた。


けれど、空き缶を握りしめながら、口から声がもれた。


「……まぁ、こういうのも、悪くないな」


ゴミ箱に空き缶を投げ入れた、音は少し軽く感じた。

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