幕間 女神の一日
下町の隅にある、商売の神を祀った小さな神社。
その神域の一室が、神子の家だ。
「今日もいい天気なのです。」
神社では、周りを気にせず女神の姿で過ごしている。
今日の朝食は白米、味噌汁、そして黄色いたくあん。
朝食を食べ終えると、はしゃぐ子供のように職場へ向かう。
「おじ様、行ってくるのです!」
食卓で経済新聞を読む商売の神――通称『おじ様』に声をかける。
「おう、景気ええ話たのんだでー」
神域の鳥居を抜けると、彼女の姿は自転車に跨ったパート「早乙女神子」へと変わる。
スーパーに到着すると、まずはすれ違う従業員一人一人に笑顔で挨拶を振りまく。
「おはようございます。」「店長お疲れさまです。」「あ、佐藤さん!この前のコロッケおいしかったです。」
あいさつを済ませると、ロッカーでエプロンを締める。
「今日はどんなお客様がくるかな」とワクワクしながら、大好きな売場の扉を開く。
午前中は品出しをしながらお客に声をかける。
「いらっしゃいませ。今夜はカレーですか?」「今日はひき肉がお買い得ですよ。」
常連客とは仕事の手を止め世間話も楽しむ。
仕事の品出しはそこそこに、午後への準備を整える。
お昼休憩は、惣菜コーナーのおばちゃんと一緒にお弁当。
「神子ちゃん、あんた本当に美味しそうに食べるわねぇ」
「おばちゃんの作るお惣菜がおいしいからですよ!」
作りたての惣菜を頬張り、午後へのエネルギーを蓄える。
午後は、神子が大好きなレジ業務。
神子のレジでは、不思議とお客の「ぷんぷんゲージ」は上がらない。
「お買い物ありがとうございます。」「またのご来店をお待ちしております」
しかめっ面のお客には「お疲れ様です」と一言添える。
その視界の奥では、夏夫が死んだ魚のような目で必死にレジを捌いている。
(四波さん、今日も楽しそうですね)と微笑む神子。
夕方のピークを終え、机に突っ伏している夏夫に向かって、
「今日も楽しかったですね!また明日」
と退勤のタイムカードを切る。
自転車を走らせ神社に戻ると、今度は巫女姿に着替え、境内の掃除に取り掛かる。
住ませてもらっているおじ様への感謝を込めた日課だ。
竹箒の音が、夕暮れの空に心地よく響く。
掃除が終わると商店街に夕飯の買い物へ。
「神子ちゃん今日もかわいいね!」「神子ちゃん、夕飯決まってないなら魚買ってって」
ここも心地よい触れ合いにあふれている。
夕飯はおじ様と、白米、味噌汁、メザシ、そして大粒の梅干し。
「今日の株はジェットコースターみたいやったわ!がっはっはっはっ」
「おじ様!今日お客様からまたくるねって言われたのです!嬉しかったなー」
2人の会話は今日も噛み合わない。
風呂上がり、冷えた甘酒をぐいっと飲み干し、
今日出会った人を一人一人思い出しながら布団に潜り込む。
「明日はどんなお客様が来るかなー。おやすみなさい…。」
幸福な女神の寝息が、静かな境内に溶けていった。
【他作品紹介】
連載中
『ようこそ異世界課へ!』
「オフィスで繰り広げられる異世界×現代ギャグ」
短編
『異世界無双 田中くん』
「異世界は田中を止められない!」
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