幕間 初詣
正月三が日。下町の路地裏にひっそりと佇む、商売の神を祀る小さな神社。
普段は静かな境内も、この時ばかりは初詣の客で賑わいを見せる。
「あけましておめでとうございます。お守りはこちらです。」
境内の授与所には、白衣に緋袴の巫女姿に身を包んだ神子の姿があった。
女神が巫女としてお守りを売るというのもおかしな話だが、彼女にとって大切な行事だ。
拝殿の奥では、人々の目には見えないが、派手な羽織を羽織った「商売の神」が、あぐらをかいて座っていた。
「……おっ、今の願いは気合が入っとるな。……お、こっちは宝くじか? 欲深やなぁ、カカカ!」
老神は人々の願いを肴に御神酒を楽しそうに飲んでいる。
神子が忙しくお守りを手渡していると、見慣れた顔ぶれが現れた。
「あけましておめでとう、神子ちゃん!」
「店長! 皆さんも!」
そこにいたのは、毎年きている店長とサンライズ下町店の面々だった。
「去年は売上が好調だったからね。今年は景気づけにみんなでお参りに来たのよ」
店長が晴れやかな顔で御守りを買う。
「あれ?四波さんがいないですね。」
神子が尋ねると、副店長が小さな声で答えた。
「…久しぶりに実家に帰った。」
「そうですか。残念です…。せっかく私が巫女姿なのに見れないなんて…。」
神子はクスクスと笑い、皆を見送った。
別れた後も、参拝客は途絶えない。
「家内安全」「商売繁盛」「受験合格」……。
空に溶けていく無数の心地よい「願い」を聞きながら、神子は日が暮れるまで、一人ひとりに丁寧な接客――巫女の仕事を全うした。
夜。ようやく全ての客が帰り、静寂が戻った神社の居間。
「ふぅ、今年もたくさん接客したのですー!」
神子が居間へ入ると、そこには一日中願いを聞き続けて疲れ果てたのか、商売の神が座布団の上でいびきをかいて寝ていた。
神子はその寝顔を見て、ふっと表情を和らげる。
そして、彼女は静かにその場に正座した。
生まれてから今までお世話になっている老神に向かって、ゆっくりと手を合わせる。
「……今年も、みんなにとって、いい年でありますように」
その願いは、誰に届けるでもない、彼女自身の心からの祈り。




