24話 ハロウィン
「今年のハロウィンは、本気でいくわよ!」
店長が高らかに宣言した。
例年はカボチャの飾りと、レジのパートさんがカチューシャを付ける程度のささやかな行事だったが、今年は違う。
社員は仮装強制、パート・アルバイトは自由参加。
小学生以下にはお菓子を配り、さらに「お客様アンケートで仮装優勝者にはビール一箱」という、副賞付きのガチイベントになったのだ。
「……めんどくさい」
バックヤードで包帯を全身に巻きながら、ミイラ男に扮する夏夫がボヤいた。
「何言ってるのよ。本気でやれば楽しいわよ、夏夫!」
隣でドライアド(森の精)になりきった青果の小林が、木の枝のような杖で俺の背中をバシッと叩く。
売場に出ると、皆それぞれ本気の仮装をしていた。
ドラキュラの店長、狼男の剛田さん、フランケンシュタインの山梨。
メデューサの井上さんに、ハートの女王の高橋さん。
魔女の佐藤さんに、天使の鈴木。
意外にもお姫様姿が似合っている田中さん。
そして――。
「四波さん、お待たせしました。」
現れた神子は、黒い羽根と小さな角が生えた「小悪魔」の格好をしていた。
「……おい。女神が悪魔の格好していいのかよ?」
「私、悪魔って会ったことがないんですよね…。だから大丈夫だと思います。」
神子は楽しそうに羽をパタパタさせている。
ハロウィン当日、イベントは大盛況だった。
「トリック・オア・トリート!」
「はい、お菓子だよ。ハッピーハロウィン!」
仮装した子供たちに飴を配りながら、ふと周りを見ると、驚いたことに店内に「ぷんぷんゲージ」は一つもなかった。
代わりに見えるのは、子供たちの放つセンサーの黄色く元気な光。それが店中をイルミネーションのように彩り、まるで光の海にいるような錯覚を覚える。
(仕事だけど……こういうのも、悪くないな)
閉店後。着替えを済ませた事務所で、神子が俺の顔を覗き込んだ。
「四波さん。今日はずっと、笑顔でしたね」
「……包帯で表情なんて見えてなかっただろ」
照れ隠しに顔を背けると、神子は「ふふふ」と優しく笑った。
さて、注目のアンケート結果が発表された。
優勝は――なんと、副店長。
緑色のタイツを履き、背中に小さな羽をつけた「妖精」姿だ。
『理由:キモかわいい』
『理由:ゆるキャラみたいで癒やされる』
『理由:静かにサッとお惣菜を補充する姿が、本物の妖精に見えた』
「…。」
ビール一箱を抱え、疲れた様子の妖精(副店長)の顔は少し嬉しそうだった。




