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22話 花見

「ぷんぷんゲージ」が見えるようになってから、しばらく経って春がきた。


サンライズ下町店の目と鼻の先にある公園は、地元でも有数の花見スポットだ。

「四波、神子ちゃん。今日から5日間、店頭でフランクフルトとお酒の販売をお願いね。稼ぎ時よ!」

「「かしこまりました。」」

店長からの指令を受け、俺は早乙女と共に、道に面した特設テントに立っていた。

ジューッという肉の焼ける音と、香ばしい匂いが漂っている。

「神子ちゃん。今年も公園の桜がきれいねー。」

「そうですね。私も毎日見に行ってますよ。」

早乙女は常連客と世間話をしながらのんびり働いてる。


数日間、テントの中から行き交う人々を眺めていて、ふと気づいた。

去年までとは、周りの見え方がまるで違う。

「おらぁ、酒だよ酒!早く出せよ!」

真っ赤な顔で怒鳴り散らすおじさん。以前なら「面倒な奴だ」と逃げていたが、頭上のゲージは見えない。

(なんだ……ただ酔っ払って口悪くなってるのか…。)

反対に、無表情でフランクフルトを買っていくサラリーマン。その頭上では、ゲージがジリジリと火花を散らしている。

(こっちは、買い出しに行かされて怒ってるのか……?)

あるいは、通り過ぎる近隣住民。満開の桜を見て「うるさくて掃除も大変だ」と、苛立ちを隠さずに歩いている。


「怒り」の可視化。それは、人々の事情を覗き見することでもあった。


ふと視線を外すと、そこには卒業式帰りだろうか、制服を着た学生たちが、笑いながら歩いていた。

風が吹き、公園から飛んできた桜の花びらが、俺の肩にふわりと乗る。

「……もう、そんな時期か」

去年の今頃は、ただ「忙しい、早く終わればいい」としか思っていなかった。

花びらを見ても「ゴミが増える」としか思わなかった。


その夜。

店頭販売の最終日、俺は売れ残ったフランクフルトと第三のビールを手に、一人で夜桜の見えるベンチに座った。

ライトアップが消えた後の公園は、ひっそりとしていて、桜は静かに花びらを落としている。。

「……美味いな」

冷えたビールを飲み干し、静かに桜を見上げる。

前までは、こんな風に季節の変わり目を感じる余裕なんてなかった。

他人の怒りが見える。パートをする女神がいる。一癖あるお客がいる。

以前と同じレジ打ちの毎日。

だが、俺の中で確実に、いままでとは違う新しい生活が始まっている。

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