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21話 年始

1月4日。世間がまだ正月の余韻を引きずっている中、スーパーの朝は無慈悲に始まる。

「……はぁ。今年も始まってしまった」

バックヤードで惣菜のパックを並べながら、俺は深く、重い溜息をついた。

やる気なんて、どこかへ置いてきた。今日からまた、終わりのないルーチンワークが再開される。


だが、現実は「いつも通り」すら許してくれない。

「ちょっと四波! ここの値札の角度、少し歪んでるわよ! お客さんに見づらいでしょ!」

店長の後藤から、朝一番で細かい指摘が飛ぶ。

「……すみません」

「謝る前に直す! 正月ボケしてる暇なんてないんだからね!」


さらに、売場に出れば別の嵐が待っていた。

「ちょっとお兄さん! この福袋、広告の写真と中身の配置が違うじゃない! 損した気分だわ、どうしてくれるのよ!」

(年始から何言ってんだ…?)

「配置の問題でしたら、中身の点数は同じでして……」

「そういう問題じゃないのよ! 誠意を見せなさいよ!」

理不尽な怒声を浴び、頭を下げ続ける。


ようやく辿り着いた休憩室。俺は泥のように椅子に沈み込んだ。

「はぁ……。相手がどれくらい怒ってるか、わかれば少しは楽になるのにな……」

独り言のつもりだった。だが、

「四波さん、どうかしましたか?」

休憩室に入ってきた早乙女さんが、不思議そうにこちらを覗き込んでいた。

「……あ、いや。なんでもない。ただの、くだらない妄想だよ」


何とか仕事を終え、夜の冷気に首をすくめる。

コンビニで買った冷たい第三のビールの缶を片手に、公園のベンチに座った。

ふと横を見ると、誰かが読み捨てた漫画雑誌が、寒空の下でページをめくられていた。

「……異世界転生、か。流行ってるな」

雑誌の表紙を飾り、チート能力で無双する主人公たち。

「いいよな、異世界は。こんな、レジ打ちと怒鳴られ損の毎日とはおさらばできるんだろうな……」

俺は空になった缶を握りつぶし、重い足取りで立ち上がった。


数日後。

自分が異世界ではないが転生し、あの時こぼした独り言が叶うことになるとは――。


当時の俺は、まだ知る由もなかった。

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