20話 夏夫と神子
ある日のバックヤード。夏夫はふとした疑問を神子にぶつけてみた。
「なあ、神子。俺を転生させてから、変な能力は押し付けてくるけど、接客のアドバイスとか売場の改善案とかは言わないよな?」
神子はパチクリと瞬きをして、不思議そうに首を傾げた。
「? 四波さんは昔も今も、一生懸命働いていますよ。それに、私は接客の女神なので、売場のことはさっぱりです。」
「女神なら、もっとこう……客を呼び寄せる秘策とかあるだろ」
「秘策、ですか? ……そうですね。接客で一番大事なのは、無理に笑うことじゃなくて、『相手の今日が少しだけ良くなればいいな』と思いながら接することです。それから…」
「……。」
神子の熱い接客トークは止まらなかった。
数日後。神子が早上がりで、夏夫が休みの日のことだ。
(……少し犯罪臭いが、相手は神様だし、まあ大丈夫だろ)
夏夫は、普段の神子が何をしてるか気になり、私服姿で店を出た神子の後をこっそりと追った。
神子は愛車のママチャリを押し、地元の商店街をのんびりと歩いていた。
「神子ちゃん!コロッケ揚げたてだよ!どうだい?」
「わぁ、おじさんありがとうございます。」
「早乙女さん、こないだ教えてもらったレシピ、家族に好評だったわよ」
「よかったです! またいいのがあったら教えますね。」
八百屋、肉屋、クリーニング店。神子が通るたびに、商店街がパッと明るくなる。
神子は女神らしいことはしていない。けれど、誰もが彼女の名前を呼び、笑顔を向けている。
(……愛されてるんだな、あいつ)
夏夫は遠巻きにその光景を見て、なんだか胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。
商店街を抜けると、道は細い坂道へと続いていた。
その先にあるのは、古びた、けれど手入れの行き届いた小さな神社だ。
神子が境内に足を踏み入れたのを確認し、夏夫も数秒遅れて鳥居をくぐる。
「……あれ?」
いない。
境内のどこを探しても、神子の姿はなかった。奥は行き止まりだし、消えるはずがない。
「見失ったか……。まあ、今日のところはこんなもんかな…。」
結局、何も掴めないまま、夏夫は頭を掻きながら帰路についた。
夏夫の足音が遠ざかっていく。
その時、赤い鳥居の上。
「クスクスクス」
夕暮れの光を浴びて、女神の姿へと変わった神子が、ちょこんと鳥居に腰掛けていた。
夏夫が去っていく背中を眺めながら、彼女は楽しそうに笑う。




