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19話 店長と副店長

「終わらない……! 全然終わらないわよ、これ!」


閉店後の事務所に、店長 後藤の叫びが響いた。机の上には、本部に提出する山のような書類と、修正だらけのシフト表。


隣で黙々と数字を打ち込んでいた副店長が汗を拭きながらポツリと言う。


「……ですね。」


「やってらんないわ! 副店長、飲みに行くわよ! 仕事はもう明日!」


「えっ、あ、はい……」


二人が向かったのは、商店街の路地裏にある馴染みのおでん屋だった。


「いらっしゃい。」

「こんばんは。とりあえず、ビールとあんたはいつもの?」

副店長は黙って頷いた。

運ばれてきたのは、キンキンに冷えたビールと、濃いめの焼酎水割り。


「「乾杯……」」


喉を鳴らして流し込み、後藤がプハァと大きな溜息をついた。


「もう、うちの連中は大雑把すぎるのよ! だから、閉店作業に時間とられるのよ!四波も最近はマシになったけど、相変わらず細かいミスが多いし!」


「……剛田さん」


「あいつは本当にひどい! あんだけ口酸っぱく言っても全然改善されないんだから!パートさんたちが優秀だからなんとかなってるけど、私の胃に穴が開くわよ、全く…。」


愚痴をこぼしながら、後藤が熱々のダイコンを口に運ぶ。

「…早乙女さん。」

「そうね神子ちゃんは、いるだけで店の雰囲気がパッと明るくなる。接客も完璧だし、本当に助かってるわ。」

「そういえば……あの子、いつ頃からうちで働いてたかしら? 面接したの、私だったっけ……?」

「…。」


後藤が首を傾げた瞬間、おでん屋の活気が遠のき、一瞬だけ周りの音が消えたような錯覚に陥った。


「……お酒、なくなっちゃったわね。すみません、日本酒を熱燗で!お猪口2つ!」


後藤が声を張り上げると、止まっていた時間が動き出すように、再び店内の喧騒が戻ってきた。


「それからあんたよ!」


「……僕ですか?」


「あんたも何も言わずにフォローしすぎ! 自分が動いちゃうから周りが育たないのよ。もっと厳しく指導しなさい!」


「……すみません」


説教され、副店長は縮こまって水割りを啜る。


だが、後藤は猪口に酒を注ぎながら、少し声を落として続けた。


「……でもね。あんたがそうやって細かいところを全部拾って、泥を被ってくれてるから、うちの売場は回ってるのよ。いつもありがとね、前野」


不意に名前を呼ばれ、驚いて顔を上げた。


「……ありがとうございます。…後藤さん」


二人は何も言わずお猪口を合わせた。

下町のおでん屋で、後藤と前野の夜が静かに過ぎていく。

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