幕間 神子転職する
「あれ? そういえばしばらく早乙女いないですね」
品出しの合間、ふと気になって俺は店長に尋ねた。
「ああ、彼女なら一週間ほどお休みよ。
何か色々、試してみたいことがあるんですって。」
――
その一週間、早乙女神子は、街のあちこちにいた。
まずは、大きなビルのワンフロアにあるコールセンター。
インカムをつけ、目に見えない相手の怒号を静かに聞き続ける。
「はい。……お困りですよね。心中お察しします。
解決のために、まずは一つずつ確認させてください」
彼女の落ち着いた声に、電話越しの荒い息遣いが、少しずつ穏やかなものに変わっていく。
――
次は、駅前のシティホテル。
コンシェルジュのカウンターに立ち、宿泊客の要望に耳を傾ける。
「美味しいレストランですか? はい、かしこまりました。
お客様は先ほどから何度か時計を気にされていますから、
提供の早い、それでいて落ち着ける場所をご案内しますね」
過不足のない、けれど的確な提案に、客は満足げに頷いていった。
――
夜は、賑やかな居酒屋。
慌ただしく動き回るスタッフの中で、彼女だけは不思議と、グラスが空きそうなテーブルを正確に把握していた。
「お代わり、お持ちしましょうか?
揚げ物には、こちらのさっぱりした飲み物も合いますよ」
押し付けがましくない言葉が、酒の席をより円滑に回していく。
――
それから、少し路地に入った古いスナック。
カウンターの向こう側で、疲れ果てた男たちのとりとめのない独白を、ただニコニコと相槌を打ちながら聞く。
「大変でしたね。……でも、今日を乗り越えたのは、あなたの力ですよ」
彼女が注ぐ酒には、不思議と明日への活力が混じっているようだった。
――
ある日は、タクシーの運転手。
バックミラー越しに、後部座席に座る客の表情を見守る。
「急ぎですか? はい、承知しました。
少し揺れますが、一番早い道で行きますね」
無駄のない運転。
降車時に客がこぼした「ありがとう」という言葉に、彼女は短く「いってらっしゃいませ」と返した。
――
数日後。
神社の部屋で神子は頭を抱えていた。
「どれも楽しいから決めきれないのです!」
神子は嬉しそうに悲鳴をあげていた。
――
週が明け、サンライズ下町店のレジ。
「休みの日、何してたんだ?」
俺が声をかけると、早乙女はいつも通りのニコニコした顔で答えた。
「転職活動です。」
「へぇ。……で、どうだったんだ?」
「そうですね……。
どこも素敵なお仕事でしたけど、今の私には、ここが一番合っているみたいです」
彼女が満面の笑みで答えた。
「お待ちのお客様こちらにどうぞー!」




